第百二十七話◆オルテガ・レイラッハ

――魔王都ガルイラ近郊。


「見えたぞ!」魔王都ガルイラが肉眼で確認出来る地点まで来たソフィナ達。ガブリエルが指を差して皆に教える。


各々本を読んだり自分の武器を磨いたりをしていたが、手を止めてガブリエルが指差す先を見た。


「相変わらず巨大な街よね……エレンもでかいけど……」



――魔王都ガルイラ―ガルイラ城―玉座。


「入れ!」


「失礼いたします!」

ガシャンと扉が開き、一人の上級魔族が入ってきて、玉座の間の中心へ来てから片膝を付いて発言した。

「……懸河の乾坤オルテガ・レイラッハ、只今参上致しました!」


「「「「「なッ……!?」」」」」

絶句して言葉が出ない好矢たち……オルテガと会ったことがないアンサとダラリアも事の重大さには気付いていた。

何しろ、が目の前にいるのだから。


「よく来たな、オルテガ。楽にして構わぬ」ガルイラ王がオルテガに対して発言した。


「はっ!」立ち上がるオルテガ。


「えっ……!?」アウロラが唖然としている。


「皆が驚くのも無理はない……オルテガは元々、魔王都ガルイラの民だ……」



「「「「「えぇっ!?」」」」」仲間たちが一斉に驚きの声を出す。


「お、おい、オルテガ……?お前上級魔族だろ?どうして……」


「……勘違いするなトール。俺は上級魔族ではない」オルテガが言った。


「何言ってんだ?お前の背中の翼は上級魔族である証拠だ!」ダグラスが言う。確かにダグラスの言う通りだ。


「……よろしいでしょうか?ガルイラ様」オルテガが皺月の輝きのメンバーを見渡してから言った。


「うむ……ここにいる者の前なら大丈夫だ」ガルイラが言うとオルテガは頷いて、目を閉じた。


「……幻惑解除」ボソッとオルテガが言うと、背中から生えていた翼がフッと消えた。

「見ての通り、俺は下級魔族だ」

オルテガの得意とする幻惑魔法を使って、自分を含む全ての人種族には翼を生やした上級魔族のように見せていた。

好矢たちが不思議に思っていると、ガルイラが説明を始めた。


「幻術に長けたオルテガをアグスティナ魔帝国の内通者を使って、元々アグスティナ帝国臣民だったという事にして、帝国軍に入軍させた…スパイとしてな」


「内通者……?誰なんですか?」ロサリオが聞く


「後で話そう。……最初は状況が分かり次第すぐに戻ってこさせようとしたが、それが出来なくなってしまった」


「……四天王、ですね」今度はアウロラが言った。


「その通りだ。魔女帝エルミリアがオルテガを四天王にしたのだ。……こちらの思惑に気付いたのかと不安に駆られたが、そういう訳ではなかった……純粋に力を認めたらしい」


「しかし、それなら四天王になった後でも同――」好矢が言い掛けたところで、手元にMMが届いた。


「どうした?トール・ヨシュア」説明中のガルイラが好矢の異変に気付く。


「い、いえ…突然マジックメッセージが……」


「今読んでも構わん。急を要するものかもしれない」ガルイラの気遣いに「失礼致します」と一言入れて、透過魔法を解いて読み始める好矢。


「えっ……?」MMの内容に驚きながらオルテガを見る好矢。


「どうした?」その視線に気付くオルテガ。


「オルテガ、お前……アグスティナ魔帝国に裏切ったことを知られているのか?」


「確かに、今頃はそうだろうが……どうしてまた?」


「MMには、懸河の乾坤オルテガが裏切ったという事を玲瓏の光芒サイラと鋭鋒の氷刃レディア、そしてエルミリアの三人が話している……という内容と、四天王として虚無きょむ魔星ませいという称号を授けられた夢を見た。という内容が……」


「虚無の魔星……?そんな二つ名の四天王はいないが……しかし、その差出人はアグスティナ帝国臣民か?」オルテガは聞く。


「いや……エレンの街に住むサミュエル・ラングドンだ。以前お前がレディアを使って殺そうとしたあの学生だよ」


「なッ……!夢で俺が裏切った所まで見たというのか!?ちょ、ちょっと見せてみろ!」オルテガは驚き、好矢の手紙をぶん取る。その手紙を読んでいるオルテガへ向けて好矢は続けた。


「あぁ…しかも、玲瓏の光芒サイラって名前までハッキリ書いてある。見た目まで事細かに書いているが……お前がアグスティナを出るまで……」


「なぁ、この上級魔導語はなんて読むんだ?」と聞いてくるオルテガ


「……れいろう」


「じゃ、こっちは?」


「こうぼう」


「なるほど、!玲瓏れいろう光芒こうぼうか!」


「お前、いつも仲間の二つ名聞いてたんじゃないのか?」


「改めて上級魔導語で読むとちょっと解らなくてな……」


「しかし、サイラって奴の特徴はどうだ?合ってるか?」


「あぁ、合ってる……あのサミュエルとかいうガキ、何者なんだ……?」


「未来予知というべきか、透視能力というべきか……とにかく、すごい能力を身に着けているのでは…?」メルヴィンが呟く。


「コホン」ガルイラが咳払いをする。


「あっ…すみません!失礼致しました!!」オルテガがすぐさま頭を下げて、片膝をつく。


「…構わぬ。ところでサミュエルという者は透視能力まで備わっているのだな」


「サミュエルをご存知ですか?」


「うむ。……夢で見るとしても透視能力が備わっているのなら、大切な戦力になるだろう。しかし、心配すべきはエルミリアだけではない……」


「そうですね…むしろ、悪しき者の方が問題かと」


「……とにかく皺月の輝きよ…オルテガもパーティに入れるがよい。きっと心強い味方になってくれることだろう」


「……わかりました」


「お、おいトール?良いのかよ!?俺は今までお前と敵対してた魔族だぞ!?」オルテガは驚く。


「もちろん、レディアをエレンの街へ行かせた理由と俺達の足止めをした理由が知りたい。それを聞いて納得出来たら味方に加えたいと思う」


そう言うと、今度はガルイラが答えた。

「四天王レディアのやろうとしていた事は、原始魔法を使える強い力を秘めた人間を排除することだった……それを知ったオルテガはそれを阻止しようとしたが……ワシがそれを止めさせた」


「何故です!?」


「ワシは最初、サミュエルという人物の事をよく理解していなかった……エレンの街にも数人ほど魔族がいるのは知っているだろうが……あれはワシの手下たちだ……」


その手下にサミュエルを監視していると、アグスティナ魔帝国軍へ入軍したいという考えがあると知った。

そこへ偶然、レディアがサミュエルを殺す計画を立てたことをオルテガを通じて知る……そこで、オルテガには皺月の輝きを止めるように仕掛けさせた。

しかし、サミュエルの本当の目的は、皺月の輝きにアグスティナ魔帝国軍の情報を伝える為のものだった。よって、計画は失敗に終わったが、結果的には問題がなかった。


……とのことだった。


急を要する問題とはいえ、軽率すぎると思った好矢。もちろん、その表情を汲み取られ、聞かれた。


「不服そうだな……?」


「当然です。後輩が貴方のせいで殺されそうになったんです」


「……ガルイラ、いくら何でも同盟国の国民が危険な思想をしていると思ったからって、敵国を使って殺させようとするのはやり過ぎじゃない?」沙羅も加勢してくれた。


「沙羅……」昨日言われたことが頭にぎる……



沙羅には彼氏がいた……



「どうしたの?好矢くん?」不意に沙羅に声を掛けられた。


「あ、いや……なんでもない……」


「トール……俺が信用出来ないか?」オルテガは言った。


「…………」


黙っていると、オルテガは続けた。


「信用できなければ、この場で俺を斬るがいい」


「な…!?」


「信用できない奴は斬れ!これが戦争の掟だ!」オルテガは自身の武器を床に置いて言った。


「戦争って……」


「アグスティナ魔帝国軍はもう戦争の準備を始めようとしている!狙いは当然、この魔王都ガルイラ!そしてここが落とされれば次に狙われるのは間違いなくガトスやバルトロのエレンの街の周辺だ!」


「何で今になって戦争なんだ!?」ロサリオが聞くと、答えはすぐに出た。


「邪悪なる者の力が復活しかけている……!」オルテガは玉座の間の扉を見て言った。その方角は西……エレンの街がある方角だった……


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