第百二十四話◆沙羅の初恋
――二ヶ月後。王都ガルイラ―ガルイラ城玉座。
「よくぞ戻ってきてくれた、皺月の輝きよ!二年振りだな……!」
「ガルイラ様もお元気そうで何よりです」好矢は片膝を付いて頭を下げている。
「……トール・ヨシュアよ。皺月の輝きへ入った人間を紹介させよ」
「はっ!……メルヴィンから自己紹介を頼む」
好矢の言葉を聞いてから、メルヴィンから順番に前に出て頭を下げながら自己紹介を始めた。
「お初にお目にかかります。私はサヴァール王国第二王子のエルフ、メルヴィン・バートでございます」
「初めまして、ぼ、ぼ僕はロサリオ・デイルでありまするで、です!に、ニングェン族です!」
「そう固まるな。リラックスして話せ」
「に、にげん…族です。えっと……ロサリオ・デイルと申します……あっ、それは言ったか……あっ!ヨシュアと同じトーミヨ出身です!」
「ほう…トーミヨの……」
「彼はトーミヨの模擬戦で問題を起こして退学をさせられておりますので、私と同じく卒業はしておりません」好矢はとりあえず補足しておいた。
「そうか……まぁ、深い事情に首を突っ込むのは控えよう……次」
「初めまして。……俺の名前はダグラス・ボガード。巨人族の騎士団長兼マフィアをやっている……ガルイラ様も俺のことは存じているはずだ」
「うむ…もちろんだ。……次」
「妾はガリファリア・エルニウム……龍神族だ。よろしく頼む」
「そ、そなたがあの龍神族か……!?いや確かに、その翼は上級魔族の物とは確かに違う……!!」ずっとガリファリアを気にしていた様子だったが、知らなかったようだ。
「上級魔族のような低級種族から仲間になるよう強要されていたが……ヨシュアの説得でとりあえず協力してやることにした。だが、期待はするな」
「上級魔族を低級呼ばわりか……ワシらはどうなるやら……とりあえず承知した……次は?……っと、お主は鳥人族なる者か……使用魔力はこのくらいだったな……お主、自己紹介せよ」
「……初めまして。私はアンサ・グリッドと申す。やがては人種族の頂点に立つ鳥人族の一人だ……覚えておくがいい」
「……今はその無礼は見逃そう」
ガルイラは不満に満ちた顔を一瞬見せたが、今すぐ聞きたい話は全員の名前と種族なのであえてスルーすることにした。
「…次は?」
「わ、私は、ドワーフ族のダラリア・ベルと申します!ま、魔族の皆様にはいつも私の武器を使ってくださり大変光栄であります!ありがとうございます!」
「む…?ということは……お主があのベル武器店の店主のダラリア・ベルか!?」
「はい、その通りです!昔は帝都で最高防兵の兵役に就いておりましたので、この度、皺月の輝きの仲間に加わりました!壁役なら十分に協力出来るかと思います!」
ここで全員の自己紹介が終わった。
「……トール・ヨシュアよ。よくぞここまで仲間を集めた。……そして同時に仲間になってくれた、そなた達多種族の方々には心より感謝申し上げる!今日は客室を空けておいた。明日、皺月の輝きの諸君に新たな仲間を紹介する。今日はゆっくり休め!長い間、ご苦労であった!今後もよろしく頼むぞ」
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――ガルイラ城―客室。
客室のベランダで好矢と沙羅が並んで話している。
「……ねぇ、好矢くん」
「ん?」
「いつか、元の世界に帰るつもり?」
「ん~……まだ分からない。沙羅は?」
「アタシは戻りたい……でも、戻りたくない……」
沙羅のその言葉の意味がハッキリと分かった。
もし戻れば、最強の剣士失踪から数年後…以前と変わらぬ姿で帰って来た!と大々的にニュースになる。それだけで済めばいい。
日本に戻ってしまえば試合に出て、勝ち続ける生活に戻らなくてはならないのだ。
もちろん負ければ、最強の剣士と呼ばれ続けた重圧から解放されるが、応援してくれていた皆の期待に応えられなくなる。
「だからって、こっちでの生活が気に入ってるわけでもないの……そりゃ、好矢くんが一緒だし、楽しいよ?でも……私、本当は幸せになっちゃいけないんだ……」
「えっ……?」
「伝説やおとぎ話では、私と悪しき者…人間族風に言えば、私と邪悪なる者とが戦って私がこの身体ごと封印して、めでたしめでたし…でしょ?」
「そうですね」
「私には……三人の仲間がいたの」
「えっ!?」驚いて、沙羅の横顔を見る好矢。――その頬には涙が伝っていた。
「名前は、ガルト・エス…人間族の男。バルハラ・トロイエ…エルフ族の女。アーギエル・エイラ…ドワーフ族の男……」
「どこかで聞いたような……」名前を聞いた好矢は呟く。
「当然よ……。彼ら三人は街の名前の元になった勇者達だもの……ガルト・エスはガトスの町を救った勇者……バルハラ・トロイエはバルトロの町を…そしてアーギエル・エイラは…………アーギラ黒山を…………」
「アーギラ黒山……」
「500年前、その三箇所に同時に魔物の襲撃があったの……アーギラ黒山にいた魔物は当時の魔物の子孫よ」
「なるほど…だからゲイザーって魔物についても知っていたわけか」
「そういうこと。……そして、私は仲間たちが街を一人で守っている間に単身で邪悪なる者と対峙して、封印した……」
その話を静かに聞いていることしか出来ない好矢……
「……500年前の話よ。……そう、500年前……。……だから、敢えて話すわね。一番の仲間だったガルトとは、産まれて初めて恋に落ちたわ。」
「えっ……」何かに心を殴られるような衝撃が走る好矢。
「……今でもないし、最近でもないわ。あくまで500年前……」
「でも…沙羅にとっては……」
「……ほんの数年前ね」
「…………それなら俺も敢えて言わせてもらう。沙羅、俺は昔から君に憧れてた。中学生の頃から、ずっと…」
「うん、実は知ってた……」
「寂しさを俺で紛らわしていた訳じゃないんだろ?あの時の顔は……」
ほくほく屋の店の前のベンチで初めてキスした時の話だ……彼女は好矢の隣で二度目の涙を流していたのだ……
「そんなんじゃない!それだけは違う!!」好矢に向き直って訴えかける沙羅。
「……沙羅、別にガルトって人の話はいい。でも覚えておいてくれ」
「…?」
「今、お前の傍にいるのは刀利好矢……俺だ」
「……うん、ごめんね……」
「謝るな、沙羅。何があろうと、俺だけはずっとお前の隣にいるから……」
「うん…。ずっと一緒にいてよね……絶対だから……」沙羅は今にも泣きそうな顔で、好矢の胸に顔を埋める。
そんな沙羅を優しく抱きしめる好矢。
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――翌朝。
玉座の前で立って並ぶ皺月の輝きの九人。
「おはよう、皺月の輝きの諸君……今日はそなた達に新たな仲間を紹介する!」
ゴクリ。……誰かからかそんな音が聞こえたのを合図に、ガルイラは言葉を発した!
「…入れ!」
ガシャンと扉が開き、一人の上級魔族が入ってきた。
「……失礼致します!懸河の乾坤オルテガ・レイラッハ、只今参上致しました!」
第五章★皺月の輝き編 完
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