第百十二話◆テッコーの町

皺月の輝きの一行は、新しい仲間であるドワーフ族を味方に付けるためドワーフ族領のテッコーの町を目指す。

テッコーの町へ行くためには本来ならばバルトロの町を通る必要があるのだが、このバルトロの町は以前ロサリオが収監されていた刑務所がある町……ロサリオにとっては、この上なく居づらい場所なのだ。

そこで、ロサリオを気遣って、バルトロの町を迂回して、さっさとテッコーの町へ行こうという結論に至った。


「あそこね!」アウロラが木を避けながらも最短ルートを通るライドゥルに乗りながら、道の先を指差した。

別の場所から川が引かれてあり、バルトロの町にその川が横断する形で存在していた。ドワーフ族領が近いためか、どこか油臭い所もあり、今まで訪れた町よりは機械化が進んでいる様子だ。

個人的に好矢はどれほど機械化が進んでいるのか気になったので、そのうち一人でもいいので行きたい町だった。


「あぁ…忌まわしい油の匂いが……」呟くロサリオ。自業自得じゃないか……。


「おい、ロサリオ。念のためこれ受け取れ!」好矢はロサリオが乗るライドゥルの口へ目掛けて、フリスビーの要領で大きな帽子を投げた。

「ウゲッ!」と鳴きながら帽子を咥えるライドゥル。……やめてくれよ、臭い帽子みたいじゃないか……。


「それ被って、外にいる町民に顔が見られないようにしておけ」


「お、おう…ありがとう…」ロサリオは大きめの帽子を深く被る。



バルトロの町はエレンの町の10分の1程度の広さだった。いや、10分の1と言っても、かなり広さだ。

何度もエレンの町の中にあるトーミヨは、ランドとシーを二つずつ建設した広さで、町はそれを軽々と囲みその何倍もの広さ……と伝えているが、それの10分の1なのだ。

どちらにせよ、広さはかなりのものだった。


ロサリオの話では、バルトロの町の地上には刑務所はなく、地下に刑務所があるらしい。また、その刑務所の地下にあるトロッコで少し離れた場所にある鉱山で強制労働させられるそうだ。

どこかの漫画で読んだ記憶があるが、覚えていない……。

ちなみに、そのような強制労働させられる人間は罪を二つ以上犯した上にその罪の重さが人殺し等の重い罪の場合に初めてやらされる労働だそうだ。

よって、ロサリオは鉱山の強制労働をさせられずに済んだので助かった……と言っていた。


ヒョロヒョロした体型だから、やった方が良かったんじゃないか?と聞くと、冗談じゃない!地下は男臭いし、アデラちゃんの匂いを忘れてしまいそうだった!!と言っていた。

いつも突っ込むポイントがズレているのだが、彼の個性ということにしてスルーした。


そんなロサリオにとって、悪い意味で思い出深いバルトロの町を迂回し、一日が経過した頃……ようやく視線の先にテッコーの町が見えてきた。

森と平原が交互にあったので、同じような景色が続いたせいで、道が間違っているのではないか……?と考えていたが、問題はなかったようだ。

アウロラが普段見てくれている地図は、この世界の住人でないと理解出来ないような難しさで、好矢や沙羅が見てもサッパリ解らなかった。


ちなみに、メルヴィンとガリファリアの狭い世界で生きてきた二人は、最初の頃は地図の存在すら知らなかったようだ。

それもそれでどうなんだ……?と思ったが、そこまでの世間知らずが居るというのも、この世界らしくて面白いと感じた所だった。


「それで、ドワーフ族を味方に付ける手はずはどうなってるんですか?」メルヴィンが聞いてくる。


「そんな方法考えついてたらとっくに話してるよ。とにかくまずは、皺月の輝きの皆を町へ入れることが目標だ」好矢はそう答える。


どう考えても、良い方法何て見つからなかった。



「ならん!!エルフ族を入れるなど……!」門番に怒鳴られる。

……やっぱりそうか。


珍しくイラッとした表情を一瞬見せたメルヴィン。すぐにその表情を隠し、平静を装って話す。

「僕がエルフ族だからですか?ドワーフ族の皆さんは差別をする種族なのですか?」


「何だと貴様……!?」


「僕はエルフの街ロスマのメルヴィン・バート。エルフ族の第二王子です。僕の隣りにいるこちらの皺月の輝きのトール・ヨシュアさんは世界から差別を無くそうと頑張っている方です!」


最初に自己紹介はしておいたが、再度紹介をされたので好矢は話し始める。

「先程も挨拶しましたが、俺の名前は刀利 好矢です。こちらにいるメルヴィンがエルフ族の第二王子であるという証明は先程致しましたが……」


「お前たちの話を聞いても、エルフ族を入れるなど……」門番はそう続けた。


「おい、門番さんよ」ダグラスが口を開く。

「さっきから聞いてりゃ、エルフ族だからエルフ族だからって……お前らはそれしか言えんのか?よく見ろ。ここにゃ人間族、エルフ族、巨人族、龍神族がいる……そして命令を下したのは魔族だ……まさかテメェらドワーフ族だけ無視するってこたぁねぇよなぁ?」

明らかに脅しに入るダグラス。


「そ、そんな脅しには屈しないぞ!」兵士が少し怯みながらも言い返す。


「…いいか?さっき言った通り俺たち皺月の輝きは、魔王ガルイラ様の命令で旅をしてんだ。もし邪悪なる者の退治に成功した場合、皺月の輝きに所属する種族が協力してアグスティナ魔帝国共々テメェらドワーフ族を総スカンしても良いんだぜ?」


確実にマズイ脅しをしているが、ちょうど総スカン…というワードが出たので好矢はその言葉を利用することにした。

「待て、ダグラス。総スカンはマズイだろ!…それだと、ドワーフ族とやってることが同じだ!」敢えて大きな声でその場に居た門番全員に聞こえる声で言った。


「おっと、そうだなヨシュア……すまない」好矢の煽りに気付いたダグラスはそう答える。


「き、き…貴様等ァ!!我々ドワーフ族を愚弄するかァッ!!」門番が顔を真っ赤にして武器を構える。


「おいおい……街の前でやり合おうってのか?」ダグラスはハンマーをガシャリと構えながら続ける。

「さっき言った通り、こっちにゃ龍神族がいる……それにサラ・キャリヤーが居るんだぜ?勝てるとでも思ってんのか?」


………………


しばらく沈黙が流れる……


「……チッ、分かった。……おいお前!そこの男が被っている帽子で顔と耳を見せないようにしろ!」門番はロサリオが被っている帽子を指差して、それをメルヴィンに被るよう伝えた。


少しでも気に入らないとすぐに脅しに入るダグラス……彼の悪い癖ではあるが、このように助かっている一面もある……

しかし、テッコーの町にはドワーフ族の王はいないらしい。どちらにせよ、一日野宿をしたので、ゆっくりしたいのが本音だった。

メルヴィンも居づらそうにしていたが、初めて入るドワーフ族の町はかなり興味がある様子だった。



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