第百六話◆足止め

「じゃあ……行くぞオラァッ!!」重装備の巨体とは思えぬスピードで、一気に至近距離まで接近してハンマーを薙ぎ払うダグラス。

そのハンマーがオルテガに当たろうという瞬間…「発動!」オルテガは魔法を発動させた!


ズドンッ!!という鈍い打撃音が鳴る……しかし、オルテガは傷一つ負わないどころか、思い切り薙ぎ払ったのにも関わらず微動だにしなかった!


「な…なんだと…!?」


そして、その微動だにしなかったオルテガの姿は急に消える……。


「クソッ!どこだ!!?」気配を失うダグラス。「ダグラス!右だ!!」好矢の言葉にハッとして右を向くダグラス。


「!?」しかし、右にダグラスの姿は無かった!


ドスッ!

「ぐわっ!?」背中を蹴られ、1,2mほど吹っ飛んだダグラス。軽く120kgは超えているであろう身体を一蹴りで吹っ飛ばすその脚力は驚異的なものだった。

地面に突っ伏すように倒れるダグラス。すぐにガバッと起き上がり、好矢を怒鳴った。


「テメェ!嘘吐きやがったな!いくら逆らえない相手だからって馬鹿にしやがって!!」


「アイツ…何を言っているんだ……?」ロサリオはポカンとしている……。


「フンッ…ダグラスとやら……大した事ないな。見掛け倒しだったか!」オルテガの振り上げた斧をガキンッ!という音を立てて防ぐダグラス。


すぐにバックステップで距離を取るダグラス。

「……チッ!本気を出すしかないか……!!」


「さっさと本気とやらを出せ。さもなければ死ぬであろう」オルテガはガシャリと斧を構え直した。


「スキル魔法……発動!!」ダグラスの発声と共に彼の身体は白いオーラに包まれた!


「あれは……なるほど……」ガリファリアはダグラスの姿を見て一人で納得する。


「知っているのか、ガリファリア?」好矢が尋ねるとガリファリアは頷いて続けた。


「あぁ。あれはスキル魔法……巨人族とドワーフ族にしか扱えない物理関係の魔法だ」


「そんなものまであるのか!?」好矢は驚く。


「エルフ族はもちろん、人間族や魔族…龍神族もだが、これらは高度な魔法を扱える種族だ。しかし、巨人族とドワーフ族は魔法能力が極めて低い……」ガリファリアは言う。

確かに…ダグラスの魔法モニターの結果を見せてもらったが、年齢や練度の割に魔力がかなり低かった……


「巨人族とドワーフ族は、他の種族が持つ強力なアドバンテージを覆すために自分たちの魔法を生み出した……それがスキル魔法と呼ばれる代物らしい」


「見ていて思ったが……身体強化の魔法ってことだな?」好矢は確認をする。


「その通りだ……。スキル魔法を極めれば、スピードもパワーも二倍まで跳ね上げる事が出来ると聞いた……どうやらダグラスはそこまでの能力を備えていないようだが…」



「そこだッ!」シュンッ!と空を切るハンマー。立て続けにハンマーは空を切る。


「フン……ついに気でも触れたか!」オルテガは空を切るダグラスを鼻で笑う。


「発動ッ!!」ダグラスは一般魔法の発動を促した。


「何ッ!?」オルテガは驚く。そして好矢はそれを見た瞬間把握した……あれは、魔法バフだ!


ドンッ!という鈍い音で地面を蹴り、初撃よりもずっと素早い速度でオルテガに接近するダグラス。

オルテガが斧で防御体勢をとった瞬間……



ゴシュッ……!!

……ドサッ。



強烈な一撃を背後から食らわせ、オルテガが倒れる。


「よし……!俺の勝ちだ!!」そう言った瞬間、ダグラスは謎の気配を感じた!


ガキンッ!!

ダグラスが後ろを向くと、好矢と沙羅が剣を交差させオルテガの斧の断撃を防いでいた!


「なッ……!?」考えが付いて行かないダグラス。


「……お前の勝ちだ。オルテガ。もういいだろう…」好矢はそう言った。


「お、おい!俺が負けただと!?どういうことだッ!!」怒鳴るダグラス。


「あぁ……俺の勝ちだ……。俺は武器をしまう。トール・ヨシュア、貴様も武器をしまえ」オルテガはそう言って斧をしまった。


それを見ると、好矢と沙羅は剣をおさめた。


「おい!説明しろヨシュア!!俺が負けたというのはどういうことだ!!」納得出来ていないダグラス。


「ダグラス、お前はオルテガに対する初撃で異変に気付かなかったか?」好矢はダグラスに振り返って言った。背後にオルテガがいたが、沙羅がオルテガを見張っていてくれたので、敢えて背を向けた。これも一つの仲間を信頼する形だ。


「異変……?」


「お前の攻撃が効かなかった……とでも思ったんじゃないか?」好矢は続けた。


「あぁ……俺はハンマーで奴を思い切りぶん殴った!しかし、それが消えて後ろから襲い掛かってきた!お前も余計な口出しをしてくれたがな!!」


「お前が最初に殴ったのは岩の塊だ……。あの時に既にオルテガはお前の後ろにいた」好矢の言葉を信じ切れないダグラス。


「そんな馬鹿な!仮にそうだとして、何故お前は右にオルテガがいると言ったんだ!!」


「……何を聞いたのか知らないが、俺は何も言っていないぞ?」好矢が言う。


「何だと……??」ダグラスは全然理解が出来ていないようだった。すると、オルテガが言ってきた。


「俺の幻惑魔法による効果だ。闇魔法で幻惑を見せた……そしてトール・ヨシュアの声も俺が造った幻聴だ……まさか見事に引っ掛かってくれるとは思わなかったがな……」オルテガはそう言う。


「なんだと……!つまり俺は……」


「俺の手の平の上で踊っていたのだ」オルテガはそう言う。



好矢にとっては、それも不可解であった。正々堂々戦うオルテガが何故、こんな戦い方をしたのだろうか?

「オルテガ……お前はどうしてこんな作戦を?」とりあえずそう聞いてみた。


「何故、真正面から戦わないのか?と言いたそうだな……いいだろう、答えてやろう。理由は、こうしないと俺が勝てないからだ!」ハッキリと言い放ったオルテガ。


「えっ……?」


「攻撃に向かってくる姿を見て把握した。お前に真正面から戦えば勝ち目はない。それに……スキル魔法なんて使われたら尚更な!」そういうオルテガ。


この言葉は非常に恐ろしいものであり、四天王の強さを証明出来る言葉だった。

どういうことかというと、元々真正面から戦うつもりだったオルテガは、自分に超スピードで向かってくるダグラスを見た。その一瞬のうちに自分では勝てないと判断した上で幻惑魔法を発動させたのだ。

人間業とは言い切れない、彼が……彼らが上級魔族と呼ばれる所以がそこにはあった。


「オルテガ……お前が今回戦いを挑んだ理由はなんだ?」好矢が聞く


「……トール・ヨシュア、お前は……サミュエルとかいうガキを覚えているか?」


「サミュエル……?トーミヨのサミュエル・ラングドンか?」忘れるはずがない。好矢が一番目をかけた後輩の、落ちこぼれだったサミュエルだ。


「おそらく……近いうちにもう一人の四天王がサミュエルを殺すだろう。」ニヤッと笑うオルテガ。


「なっ…!?オルテガ……貴様ァッ!!」剣を抜く好矢


「俺がやったのは、人間族領へ向かおうとしている皺月の輝きの足止めだ!!」


「妾はそのサミュエルとやらは知らんが……ご苦労なことだ……足止めをするだけなのに死ぬことになるとはな!」ガリファリアはそう言うと、口からゴゥッ!という火炎の音が鳴り、オルテガにブレス攻撃を仕掛けた!


「おっと、危ない!……転換石!」オルテガは黒い石を天に掲げると、その石は光り、次の瞬間オルテガが居た場所にクマのぬいぐるみがポトッと落ちてきて、オルテガの姿は忽然と消えていた。


「チッ……逃げられたか……!!」ガリファリアは呟く。


「消えた!?……今のはなんだ!?」好矢は驚いている。


「さっきのは転換石よ。多くの国家では使用が禁止されている、予め設定しておいた物質と自分の位置を入れ替えることが出来る使い捨ての魔道具の一つよ」アウロラが説明してくれた。


「何で禁止されているんだ?」好矢は聞いてみた。


「当たり前よ……私達これから船に乗りに行くでしょ?転換石があれば船を必要としない……つまり、転換石が大量に出回ってしまったら、船員たちは商売が出来なくなってしまうのよ。」


「なるほど……」しかしサミュエルは大丈夫だろうか?


本来は好矢たちは王都ガルイラで魔族を味方に付けることを考えていたのだが、それを後回しにして、急いでエレンの街へ行くことにした。



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