第百七話◆迷惑料

再び皺月の輝きのメンバーは「グゴウェッ!!」と鳴いて搭乗許可をしたライドゥルに乗り、ロスマの街へ行く。



――ロスマの街へはすぐに入ることが出来た。

皺月の輝きの刀利好矢です。と名乗り、メルヴィンが顔を出すだけで「お疲れ様です!」と敬礼して通してくれるのだ。

しかし、今回はロスマの街でゆっくりする余裕はない。そのままロスマの街を突っ切って行き、反対側の門へ行く。


街を出た辺りで、ガリファリアが低空飛行をして話し掛けてくる。

「おい。そのサミュエルって奴はどういう存在なんだ?」


「俺も気になるな……どんな奴なんだ?」ロサリオもライドゥルで近付いてきて話し掛けてきた。


「サミュエル・ラングドン……トーミヨに入学した当時の魔力は90ちょっとだった。そこで、上級魔導語を教えてやったら、簡単な内容はすぐに覚える、吸収力の高い奴だったな」


「魔力90ちょっと!?エリシアよりもゴミみたいな魔道士じゃないか!」ロサリオが大きな声で言う。


「ロサリオ、ゴミは良くないわよ」アウロラがそう言って続ける。

「でも、本当に低いわね。トーミヨに入学できたのも驚きだけど……何より、そんな人間の命をどうして上級魔族が狙うのかしら……?」確かにごもっともだ。


「何か理由があると考えるのは当然だな。サミュエルが、かなりのレアアイテムを手に入れた……とか、知られるべきではない情報を知ってしまった……とかな」


「なるほど、後者なら考えられるぞ!……だとしたら、死なれる前にその情報をだな……」ロサリオがまた余計な事を言う。


「死なせないように助けに行くんだろうが!」ダグラスが後ろから援護のように言葉を飛ばしてくれた。リーダーの代わりに味方の一人が怒ってくれるのは良いことだとは思ったが、自分の威厳が無くなってしまうのでは?と、どうでも良いことを考えていた。


「っと、そうだ!ガリファリア。お前ドラゴンに変身できるんだから先に行って来てくれないか?」好矢が名案だ!というように提案してみた。


「それは出来ん」キッパリと返された。理由を聞くと仕方がないと言えた。その言われた理由というのが……


「妾に二週間も掛かる船旅へ飛んで行けと言っているのだと解っているのか?確かに高速飛行は出来るが、そんな長い間翼を休める場所も無い状態で行くことは出来ん」


「そ、そうか……悪かったな」好矢はさすがに諦めるしかなかった。当然、船に乗ってある程度大陸に近付いてからドラゴンに変身して飛翔する……ということも物理的には可能だが、騒ぎが大きくなってエレンの街へ行くこと自体が困難になってしまう可能性がある。


―― 一日半後。


夜の間も移動をして、少し休憩をしてまた移動……ということを繰り返し、ライドゥルにも乗っていたお陰で、かなりのスピードで港まで着くことが出来た。

港の近くまで着くと、ガリファリアは近くにあった大きな岩の影に隠れてから人の姿に戻り、ダグラスと一緒に走り寄ってきた。


「皆、これから船に乗ることになる。睡眠も摂らせずに申し訳なかった。船の中ではゆっくり休んでくれ!」好矢はそう言った。


「うぅ……」辛そうにしている沙羅。ほぼ一睡もしていない状態で船に入るのだが、極度の船酔いをするため寝ていられる状態ではなかった。

とはいえ、吐き切ってしまえば寝られるので全く寝られなくなるということはないが……。


そこから全員分の運賃を支払い、二週間の船旅…………。こうしている間にもサミュエルが心配だ。


――二週間後。


「よし、ライドゥルに乗ったらまずは王都ガルイラ…そして、ガトスの町へ行くぞ」ラエルの村は必ず通らないといけないが、そこをスルーしてガトスの町で食料を買った方がコストは掛からないし、もうすぐエレンの町へ着くことが出来る。

しかし、かなり大きな問題があり、それによってまたしても足止めを食らう羽目となった。



急いでいるので、ガルイラ王への近況報告はせずにそのまま王都ガルイラ、ラエルの村を突っ切って行き、ガトスの町へ着いた。


――ガトスの町。

ここまでに、しばらく時間が掛かっているのでガトスの町で少し食料を追加してから進もうと思っていると――


「見付けたぞ!!」男性の怒鳴り声が聞こえた。何だろう?と振り返ると、こちらを睨んでいる男性がいた。……どこか見覚えがある。


「トール・ヨシュアさん!踏み倒した家賃、今すぐ払いなさい!!」拠点の家を購入した時の大家さんだった。


「はっ?えっ?」意味が理解出来ていない好矢。


「貴方は大分前に、エンテルさんというゴブリンと一緒に一年くらい済んでたでしょ!あそこにあるアパートで!!」とバッとそのアパートを指差す大家さん。


……あ、思い出した…。解約するのを忘れていた……。


「解約…してませんでしたっけ?」好矢が一応聞いてみたが…


「契約した時に、解約する場合は家の荷物を引き払って掃除してから一言言ってくれって言いましたよね!?」大家さんがガミガミ言う。


言われたっけ?と思ったが、それを言うとさらに事がややこしくなるので、別の言葉を言った。

「す、すみませんでした……」


「さぁ、踏み倒した家賃分と、迷惑料として合わせて272000コイン払ってもらいますからね!!」


「に、27万コイン!?」驚く好矢。


「月々の6000コイン×17、そして迷惑料170000コインです」しっかりと内訳を紙に書いて渡してきた上に、大家さんは家賃を支払われなくなった日からの手帳を見せてきた。

詐欺でも何でもなく、ちゃんと払わなければならないお金だった。


「トール・ヨシュアさんねぇ…これでもウチは安くしてるんです。17ヶ月分ですが、貴方本当はもう少し早く居なくなってた可能性が高いんですからね!でも、僕が貴方が失踪したと気付いたのがちょうど17ヶ月前なんです。だから17ヶ月分でいいです。今すぐ払いなさい」


「月々の家賃に関しては解りましたが、迷惑料というのはどういうことでしょう?口頭契約の時に言われませんでしたよ?」好矢が聞くと、ロサリオが教えてくれた。


「この国では、色んな形で迷惑料を払わなければならない場合がある。例えばお店で問題を起こせば、起こした問題×10000コインとダメにした商品金額全額負担したりな……これは子供でも知ってるから説明されなかったんだろ」


つまり、17ヶ月いなかったという計算の為、17回支払いをしなかったということで17万コインを支払わなければならない……ということだった。

確かに…トーミヨで行っていた模擬戦でロサリオから不意打ちされて、退院した後優勝賞金と共にもらった慰謝料の20000コイン……不純な動機で命を狙った事と、未遂で終わったが本当に大怪我をさせたこと……二つの迷惑行為によるお金だったようだ。


「わ、解りました!払いますから!」そう言って好矢は財布を取り出したが……


「た、足りない……」ボソッと言うとアウロラが声を出す。


「もうっ!……トール君、とりあえず全額出しなさい!残りは出してあげるから!」アウロラさんが足りない分を出してくれて無事272000コインを支払った。


「次から気を付けてくださいよ!それから……家はどうします?」


「あ……解約で……」


「解りましたよ。ハァ……」一応、旅に出掛ける時に部屋の荷物は全てカバンに入れていたので、それで帰してもらえた。


「貴方に対する株が少し落ちたわ……」沙羅にまで引かれた……まぁ、自分が悪いので否定出来なかった。

「それより、私一年くらい好矢くんと同棲してたのねぇ」沙羅に言われた。


「まぁ、同棲してたのはエンテルとですけどね……でも支払いを忘れていたとは……」好矢が言うと、


「お前、案外クズだな!」嬉しそうに言うロサリオ。今回ばかりは否定できない為、余計腹が立つ……


「悪かったよ!……少し食料買ったらすぐにエレンの街へ行こう」


買い物を済ませて、旅路を急ぐ。次にようやくエレンの街だ。



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