第百二話◆ロドルフォ・メガロス国王

ダグラスが先導する形でその後を好矢、沙羅、アウロラ、メルヴィン、ロサリオが歩いて行く。

ダグラスはライドゥルを持っていなかった為、ライドゥルには乗らずに連れて歩いている。


王都メガロスの門前へ着くと、そのままズンズン歩いて行くダグラス。

「よう。俺の後ろにいる、ライドゥルを連れてる奴らは仲間だ。通してやれ。」ダグラスはメガロスの門番へそう言った。


「はっ!かしこまりました!」

本来なら、様々な種族の街へ異種族が入ろうとすると入場手続きが必要になってくるのだが、ダグラスがそう一声掛けただけで門番は好矢たちに対して敬礼をしながら通してくれた。


「お前、もしかして凄い奴なのか?」と好矢は聞いてみた。


「だから…ただの傭兵だって、さっき言っただろ?」ダグラスがそう言った。


金払いによっては昨日共闘した相手と戦う事が日常的に起こるような、ただの傭兵の一言で異種族を町へ入れるだろうか?

巨人族は元々、人間族やドワーフ族との親交が深いため、人間族とドワーフ族は簡単な手続きで入場できるのだが、エルフ族であるメルヴィンでさえ簡単に通してくれた。これにはメルヴィン本人も驚きを禁じ得なかった。


そんな不思議な男、ダグラス・ボガードは自分の庭であるかのように、王都メガロスの中にある巨人族の城へ肩で風を切るように歩いて行く。

そして、裏道のような暗い路地裏のような道を通る。

見るからにヤバそうな見た目のならず者……日本でいうヤクザよりもよっぽどヤバそうな奴らの前も堂々と歩いて行くダグラス。しかも、ならず者連中もダグラスが歩いてきたのを発見するとササッと道を譲る。


「へぇ~…」「イイネェ…」といった声がチラホラ聞こえてきた。彼らは所謂、美しい美女という言葉が当てはまる沙羅とアウロラを見て言っているようだ。

沙羅は自分の強さに自身がある為、そんな声に耳を貸さず堂々と付いて行く。アウロラは力は弱いため、ビクビクしながらロサリオにくっついていた。

ロサリオはロサリオで「近いです。離れてください。俺はアデラちゃん以外興味がないんです。」と言って嫌がっていた。

ロサリオ自身ロクでもない奴だが、もしアデラと付き合っていたら意外と大切にしそうである。

メルヴィンは前に好矢と沙羅、後ろにロザリオとアウロラが居て挟まれているので、あまり恐怖心はなかった。

そして、好矢は中学時代に所属していた不良集団の記憶が蘇ってきて、懐かしい記憶と共にそんな奴らよりもよっぽど強そうな連中が周りにいるのを見て、少しの恐怖心はあった。


そんな皺月の輝きのメンバーの空気を察したダグラスは、ある程度進んだ辺りで振り返って、そのならず者たちを怒鳴りつけた。

「テメェら!こいつらはロドルフォ・メガロス様の客人だ!次汚い口を開いた奴は全身の骨をバラバラに砕くぞ!!」その怒号と共にダグラスの周囲の大気が震えた。

その凄まじい雰囲気にビクッとなるメルヴィンとアウロラ。


「「す、すみませんでした!!」」ならず者たちはダグラスの一言で、ダダダーッと逃げて行った。


「すまねぇな、お前ら。王都とはいえ巨人族の中では都会だから、ああいう連中が多いんだ。」


「まぁ……気にしないことにする。」好矢はとりあえずそう返した。


「悪りぃな。」そう言うと振り返って歩きだすダグラス。


「だが、何故わざわざこんな道を通るんだ?」大通りを歩いた方が明らかに安全だ。


「急いでるんだろ?路地裏を通った方が早いんだ。それと……まぁ、今は解らなくてもいい。どちらにせよ、すぐに解るさ」


「???」路地裏を通った方が早いという理屈は理解出来たものの、その後に続くダグラスの言葉の意味が解らなかった好矢。



メガロス城の城門へ着くとダグラスは突然、片膝を付いて好矢たちを見た。好矢たちもダグラスの視線の意味を受け取ってすぐに城門前で片膝を付いた。

門番は何も言わず、真っ直ぐ前を見て大きなメイスを持っている。


しばしの沈黙のあと、ギギィ…という音が、城の門ではなくバルコニーの方から聞こえた。

そして、バルコニーの上から豪華な服を着飾った巨人族の中年男性が見下ろしてきた。


「……余は、巨人族領とこの王都メガロスを治めている国王、ロドルフォ・メガロスだ。ダグラス・ボガードの発言を許可する。こやつらは何者だ?」見下ろしているその人物が国王のようだ。


謁見の仕方も魔族の玉座へ赴き、片膝をつくもの、エルフ族の応接室のような所でお互いが座った状態で話すもの…そして巨人族のように、まず城に入れることなく片膝をつかせる……。

種族による王への謁見の仕方にも違いがあり、この世界はますます面白いものだと感じた好矢。


「はっ!恐れ入ります!この者らは皺月の輝きというハンターチームであります。……私の隣におります、この男トール・ヨシュアが私に対し、我らがロドルフォ王へのお目通りを頼んで参りました。」


「そうか……トール・ヨシュアよ。おもてを上げよ。」


「はっ…!」好矢は顔を上げ、ロドルフォを見上げた。


「貴様は……人間族の男か。……トール・ヨシュアの発言を許可する。何故、余に謁見を申し込んだ?」ロドルフォは好矢に謁見の目的を聞く。


「はっ!私は皺月の輝きを指揮しております、刀利好矢でございます。王都ガルイラの七代目魔王ガルイラ様より依頼を受け馳せ参じました。」


「ふむ……魔族の頼みか……。七代目魔王ガルイラ殿はどのような依頼を?」


「世界各地を周り、様々な種族の強者を皺月の輝きのメンバーに引き入れ、邪悪なる者と戦い、これを退治せよ…との命令を。」


「なッ……!?」ダグラスは好矢を見て驚愕する。


「邪悪なる者の封印は解かれているのか?」ロドルフォは少し同様した様子で好矢へ聞いてくる。


「はっ!私の後ろにおります女性は、刈谷沙羅でございます。」好矢はそう言うと、ロドルフォは沙羅を見て言った。


「貴様も、面を上げよ。……貴様は本当にあのサラ・キャリ……」言い掛けた辺りで命令通り顔を上げた沙羅の顔を見て、途中で発言をやめた。


「……その顔、たしかに伝承に残る肖像画の通りのサラ・キャリヤーのようだな……。サラ・キャリヤーの発言を許可する。何故、五百年前の英雄が現世に?」


「はっ!私は五百年前、邪悪なる者を己の身と共にコールブランドで王都ガルイラの中庭へ封印しました。……その際、肉体を保存するため魂を別の種族の人間に移動させました。」


「噂は本当だったのか……!」


しばらく沈黙するロドルフォ。そして、何かを決心したかのような表情になり「しばし待たれよ。」と言って奥へ引っ込んでいった。



しばらく待つと、メガロス城の城門が開き、ロドルフォが出てきた。自分から出向いてくるとは思わなかった為、驚く皺月の輝きのメンバー。

「……ダグラス・ボガードよ。これにサインせよ」……そう言ってロドルフォがダグラスに紙を手渡した。そこには、ダグラス・ボガードの解雇……と書かれていた。



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