第百一話◆ドラゴンを倒した男

「「発動!」」沙羅は暗闇魔法をコールブランドに纏わせた!宝珠の幻惑効果を上げたようだ。

ダグラスは何らかの魔法を発動させたようだ。


「そこだぁッ!!」思い切り構えていたハンマーを振り下ろすダグラス。


ガキンッ!という金属音が鳴り、コールブランドの刀身の部分で防ぐ沙羅。

「くっ……!」


重く、威力も高そうなハンマーの打撃を防ぎ切るコールブランドの耐久度も目を見張るものがある。


「おらおらおらぁッ!!」ハンマーを両手で器用に振り回し、連続攻撃を繰り出し、沙羅を防御に集中させるダグラス。見掛けによらず素早いようだ。


「チッ…!コイツ…強い……!」バックステップで距離を取る沙羅。


「沙羅さんは素早く動けるでしょ!?どうして攻撃を躱さないの!?」アウロラが言う。


実際、横のなぎ払いや振り上げ攻撃は基本的に躱しているが、振り下ろす攻撃だけは基本的に防御している。しかし、それには理由があった。


「沙羅は足捌きで素早い動きを可能としてるけど、あのハンマーで振り下ろす攻撃を躱すと、それが出来なくなるんだ」好矢は言う。


「どういうことですか?」今度はメルヴィンが聞いてくる。


「戦闘開始直後にあのハンマーにかけた魔法は、二人とも…っていうか、ロサリオも気付いてるよね?」


「あぁ。何の魔法かはわからんが……」ロサリオも確かに気付いてはいた。


「あれは土属性魔法。あのハンマーで地面を思い切り叩けば、地響きを起こして沙羅の動きを鈍らせられる。いち早く、最初に使った魔法に気付いた沙羅は、その地響きを起こす振り下ろし攻撃だけはコールブランドで防ぐことにしたんだよ」好矢は言う。


「なるほどな……」


(暗闇の魔力による衝撃……ダグラスの胸部へ……魔力240使用)「発動!」沙羅はコールブランドを両手で構えてハンマーの攻撃を防いでいたが、一瞬左手だけ放して、暗闇魔法を発動させた。


「がはぁっ……!」

沙羅の左手が一瞬黒く光ったかと思った瞬間、ダグラスは吐血しながら十数mほど吹っ飛んでいった!


「て、てめぇ…!」ガバッと起き上がり、沙羅を睨むダグラス。その瞬間沙羅は、しまった!という顔をした。

一気に距離を詰めることが難しい距離…だが、ハンマーによる地響きの攻撃範囲内にいた沙羅。


「オラァッ!!」ドスンと鈍い音を地面に響かせ、叩きつけたハンマーを中心に、地面に亀裂が走る!

そしてその衝撃により地面が揺れ、沙羅の素早い動きを奪った!


一気に距離を詰めながらダグラス魔法を発動させる。

(地面から飛び出る岩壁……沙羅の背後に…魔力35使用!)「発動!くらえぇっ!!」

沙羅の背後に岩壁を出現させ、バックステップで躱せないようにした上で、その巨大なハンマーで沙羅を薙ぎ払った!


バァァン!!という強烈な打撃音が響き沙羅は吹っ飛ばされ、タイタスの街を囲う石の壁に激突した!

「ぐはッ……!」吐血する沙羅。石の壁に激突することにより、追加ダメージが入ったようだ。

その場に崩れ落ちる沙羅。



……少しの沈黙の後、彼女はそのまま、ゆっくり立ち上がったが、顔だけは静かに下を向いている。


その体勢にピンときた好矢。日本にいる頃、剣道の試合で格上相手に沙羅が珍しく追い込まれた時、勝利を掴む直前で見たことがあった。

相手から集中を切らしていられない試合中なのに、下を向いて何をしていたのか?と好矢は試合後に聞いた時、彼女は言っていた。



「イメージトレーニングだよ」



ダグラスは駆け寄り、もう一度ハンマーを構える。

「…おらぁッ!!」ダグラスは構えたハンマーを思い切り薙ぎ払う。その時、沙羅の目は一瞬光った…ように感じた。


(勝った……!)好矢はそう思った。

次の瞬間、沙羅のコールブランドはダグラスの首に付けられていた。


動きを止めるダグラス。

……そのまま持っていたハンマーから手を離し、両手を挙げて降参のポーズを取る。

「お、俺の負けだ……」


オオォォォォォーーー!!

野次馬たちから歓声があがる。


いつも沙羅の試合を見ていたが、沙羅が下を向く時、そして眼が光った時……それは必ず勝利するという合図とも言える。

実際、光っているわけではないのだが、好矢は相手の隙を見付けた時の沙羅の眼を見ることが出来るのだろう。


「ふぅっ……久しぶりに本気になりそうだったわ。私達の勝ち!」沙羅はそう言った。


「はぁっ!?あれ本気じゃなかったのか!?」ダグラスは大きな声を出す。


「当然でしょ?アタシ、サラ・キャリヤーよ!」コールブランドを鞘にしまって言い放った。


「どこかで見たことあるような気がしたが……昔の書物の絵か……!」やってしまった…という表情をするダグラス。


「約束通り、10万コイン返して王城まで案内してもらうわよ。」そう言って沙羅はダグラスの前に手を出した。そこへ10枚のミスリル銀貨を置くダグラス。


ミスリル銀貨をそのまま好矢に渡して、沙羅は振り返って続けた。

「じゃ、早速これから案内してもらうからね。」


「あぁ…分かった。」ダグラスは項垂れて答えた。



――ゴランド街道。


タイタスの街を抜けるとゴランド街道という街道がある。

その街道を抜けて丘を一つ越えればあるのが、巨人族の国であるイストリアテラス共和国の王都メガロスだ。


王様の名前は、ロドルフォ・メガロスだそうだ。


「そういえばダグラス、お前かなり強いみたいだけど、どうやって鍛えたんだ?」好矢は案内を受けながら聞いてみる。


「俺は独学だ。巨人族は元々狩猟民族だ。しかし、狩猟の仕方はエルフ族とは違う。弓矢による射撃で獲物を仕留めるエルフ族とは違って、我々巨人族は基本的に打撃系の武器を扱って獲物の急所の骨を確実に砕いて、新鮮な獲物を手に入れる……俺もそれを続けるうちに強くなったんだ。」


「そうなのか……」見掛けによらない器用かつ素早い動きはその狩りで学んだものだと納得する好矢。


「最近は、どんな獲物を倒したの?」沙羅が聞いてみる。


「最近は、レッサードラゴンだな!中々の強敵だったな!」ワハハと笑うダグラス。打ち解けてみると悪い奴ではなさそうだ。


「レッサードラゴンですか!?」メルヴィンが声を大きくする。アウロラを見ても、目をまん丸にして固まっていた。案内をされてるので足だけは動いていたが…。


ちなみに、ロサリオは話を聞いていなかったのか、興味なさそうにライドゥルの背中で羽をもふもふしていた。


「そのレッサードラゴンって、どんな奴なんだ?」好矢はメルヴィンに聞いてみる。


「レッサードラゴンは、世界最強の魔物であるドラゴンに成長する…謂わば、子供のドラゴンです。子供でもかなりの強さを誇ります。生身で勝てる人が居るとは思えませんが……」


メルヴィンの話によると、ベビードラゴン、レッサードラゴン、グレータードラゴン、エルダードラゴン、エンシェントドラゴンとドラゴンが成長していくらしい。

そして、今まで見たことのある人はいないが、エンシェントドラゴンが進化した姿が、ドレイクと呼ばれているらしい。

ドラゴンを信仰する宗教団体は、その架空の存在であるドレイクを像にして崇めているそうだが……。


龍神族と違うのかと聞いてみたが、彼らもドラゴンに変身できるが、元々龍神族はドラゴンと人間のハーフだそうだ。

それから何年もの時が経ち、ドラゴンは人間に恐れられる対象になったため、新たな龍神族が出生することはなかった。

結果、龍神族は限られた種族間で交配をしていくしかない……従って徐々に数が減り、絶滅した人種と云われているわけだ。


「……まぁ、信じなくても俺がレッサードラゴンを倒した事実は変わらねぇ。俺が首から下げてるこのペンダントの牙はそのレッサードラゴンの牙だ」

そう言って、ダグラスは首から下げている、美しくも恐ろしい雰囲気を纏った牙のペンダントを見せてくれた。

確かに、沙羅に一瞬とはいえ本気を出そうかと迷わせる程の強さを証明できる一品のようだ。


「……と、見えてきたぜ。あれが俺たち巨人族の王都メガロスだ。」ダグラスは丘を降り始めた辺りで王都メガロスを指差して言った。



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