第九十五話◆伝説の宝
Zチームの優勝で幕を下ろした、四学年の模擬戦。
サミュエルはシルビオ学長から労いの言葉と、賞金31900コインをもらったその日の夜、自宅の自室で勉強をしていた。
「……さて、一段落ついたし、もう終わりにしよう。」大きく伸びをしてから、風呂屋に行くために準備をしていると……手元にMMが届いた。
「……ん?」透過魔法を解いて読んでみる……。
レディアさんからだった。
「拝啓 サミュエル・ラングドンくん。……なんて堅苦しい挨拶何か要らないわよね?レディアよ。新学期が始まったら依頼を受けなさいよって言ったのに、まだ終わらせてないようだけど……いつになったらやるのかしら?」
そんな内容のMMだった。一応やったのだが、依頼達成出来なかったのだった。それを伝えることにする。
「お久しぶりです。レディアさん。サミュエルです。その件の依頼ですが、僕にはまだ依頼を達成することが出来ませんでした。申し訳ありません。」そんな内容を書き、透過魔法と風魔法でレディアの元へ飛ばす。
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サミュエルは風呂屋の大浴場でサウナに入りながら、レディアから言われた依頼について考えていた。
もう日付が変わって9月1日になったので、約五ヶ月前になるか……
――冒険者ギルド。
「あぁ、トーミヨの四年生のサミュエル・ラングドンくんですね。レディアっていう方の指示で高ランクハンター向けの仕事が名指しで来てます。確実にこなしてくださいね!」
レディアさんが帰る前に僕に言ったギルドに行けという言葉……これは予想通り、仕事の依頼を名指しで残していてくれたのだった。
「はい、詳細の書類をください。」
場所は、フェリッシ洞窟。エレンの街から北へ進むとある洞窟だ。
エレンの街の北には小さな林があるのだが、そこを抜けると平原が広がっている。その片隅にひっそりとあるのがフェリッシ洞窟だった。
その依頼は、そのフェリッシ洞窟で伝説の宝を取ってこいという依頼だった。
徒歩で行っても三時間程度で着くため、念のために多めに用意した食事や荷物も二泊分だ。
何せ高ランクハンター向けの仕事だという。全く油断はしていなかった。
洞窟の入口へ差し掛かると、熱風が中から吹いている。熱風と言っても、熱くはなく、暖かくなってきた季節にとっては少し蒸し暑いな…と感じる程度の大した風ではない。
その洞窟から吹かれる熱風の匂いは、洞窟内部の匂いをしているのだが、その匂いにも異常はない。
サミュエルは松明に火を付けて、足元に気を付けながらゆっくりと足を踏み入れていく……。
中には大きなコウモリ型の魔物であるブーバット(顔が豚のような見た目の為名付けられたらしい)や、スパイドンという大きな蜘蛛型の魔物がいた。
どちらも火属性が苦手で、松明を振り回せば逃げるし、仕留めようと火属性魔法を放てば、簡単に倒せる魔物だった。
とはいえ、使った魔法は原始魔法なので、倒れない方がおかしいのだが……。
とにかく、中へ入って問題なく進んでいた。
もちろん高ランク向けと言われていた為、罠やボス魔物などがいることも想定しており、決して油断などしていなかった。
「…あ、別れ道か。……左に行ってみよう。」左へ進んでしばらく経つと、宝箱が置いてあった。
もしかして、これが依頼の宝か!?と思って、宝箱の周囲と宝箱自体に毒針や毒ガスなどの罠が仕掛けられていないか、念入りに調査する。
……あった。開けると毒針が二本飛び出す仕掛けになっていた。
原始魔法でその罠を解除し、そして開けると……コインが入っていた。
ミスリル銀貨五枚、金貨二枚だった。合計で205万コインだ。サミュエルはそれを見て飛び上がって喜んだ。
これを持ち帰る事が出来れば、報酬額と共にかなりの額になるはずだし、家族にまた美味しいものをしばらく食べさせることが出来る!
しかし、これはどう考えても伝説の宝でもなんでもなく、ただの高額なお金だ。
サミュエルは来た道を引き返して、先程の別れ道で右へ進んで行く……。
段々と罠の数が増えていく……。
毒を食らった直後に後ろからスパイドン二匹が襲い掛かってきた時は驚いたものの、苦しいながらも松明を振って時間稼ぎをしつつ、火属性魔法で撃退して、解毒ポーションを飲んで事なきを得ることもあった。
そこからはより一層警戒しながら進む……。
しばらく進むと、木漏れ日のように光が差す古びた扉があった。
古くなり、開けにくい扉をゆっくりとギギギ……という音を鳴らしながら開ける。
そして、人一人が簡単に通れるくらいの隙間を作り、中の様子を伺いながら入ると、上から青い光が降り注ぎ、中心には綺麗な白い石で出来た祭壇があり神殿のような白い柱がその祭壇を囲うように建っていた。
何本かはその柱は崩れていたものの、形が残っている物を見ると、その崩れてしまった柱も美しさを備えていたものと窺える。
そしてその祭壇の上には……一本の杖が置かれていた。
古びた木の杖に、紫色と青色の二つの水晶球のようなものが上部に取り付けられている。見た目はただそれだけなのに、異常な量の魔力を感じた。
これが宝に違いない……。そう感じたサミュエルは、その祭壇に近付き、杖を手に取ろうとすると……
バチッ!!
「いたっ!」まるで杖そのものに持たれるのを拒まれたかのように、持つことが出来なかったのだった。
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おっと、汗も十分かいたし、水で流して身体を洗おう。
サミュエルはサウナを出ることにした。
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