第八十五話◆冷気

そして、月日は流れ…………。


ソフィナの姉アンナがトーミヨを卒業し、王都ガルイラに就職した。

マインドコントロールをされたあの時から一年以上経った今……。


「優勝は……アデラ・エイジャー!!」

オオォォォォォォ……!!歓声が上がる。優勝はアデラ。つまり、ミス・トーミヨだ。


「なんと五学年代表、アデラ・エイジャーさん、五年連続ミス・トーミヨのチャンピオンだ!かわいい!かわいすぎるぞー!!」

マインドコントロールをされ一年以上経過したトーミヨだが、祭りなどの時はマインドコントロールを受ける前を軽く超える盛り上がりを見せていた。

おそらく、シルビオ学長がそうなるように仕組んだのだ。


最近は特に勉強や訓練ばかりしている学生が目立つし、実際トーミヨの外でも勉強ばかりしていると言われている。

だから、こういう特別な日は思いっ切り楽しんでストレスを発散させている……と、世間に見せることが出来るからだろう。


一年前の監視が付き始めた辺りからは本当に大変な思いをした。

最初の内は監視が居ることなど知らなかったものの、ファティマから全員へ向けた手紙で、どこかで教官が監視しているという内容が来た。

いつ、どこで、どうやって監視してるのかが分からないため、それまで以上に頑張る必要がある。

常に他の生徒たちと同じように、家以外では力を一切抜かずに勉強や訓練に励んだ。

時々監視している教官を見つけたが、急に頑張りだすと怪しまれる可能性がある為、周りの学生と同じように、常に一定の努力を行っていた。それを一年間続けたのだ。


それらを乗り切ったソフィナたちは、ミス・トーミヨの後、立食パーティ式の卒業式が行われた後で帰路につく。とうとう旅に出る日を迎えるのだ。


「みんな、おそらく好矢くんはかなりの強さになっているだろう。今日と明日は五学年で習った技術で魔力を上げて明後日に馬車で向かうぞ。」ソフィナが言う。


「えぇ~…あれ二日続けてやるの!?死んじゃうよ……。」アデラが脱力する。


「仕方ないでしょ?そこまでしてもヨシュアくんたちの魔力に届くかどうかすら分からないんだし……」とファティマ。


「一応、馬車の手配は私がしておいたわ。」エリシアが言ったが、この計画性の高さは凄まじい。


「仲間になるつもりで旅をするわけだが、俺はサラさんにリベンジしたいかな……。」


あの日、マインドコントロールを受けなかった10人の内のソフィナ、ガブリエル、アデラ、レオ、エリシア、ファティマの六人は、好矢がリーダーを務める皺月の輝きに参加するため、全ての就職先を蹴って旅をすることに決めた。


因みに、他の教官の監視も大変だったものの、シルビオ学長が邪悪なる者な為、目を欺くのが一番大変だった。

もちろん六人とも全員マインドコントロールされているフリをして過ごしてきたわけだが、卒業前にアグスティナ魔帝国の入軍試験を受けることになる。

これは試験を受けないという選択肢を選ぶと、マインドコントロールをされていないという事がバレて全員まとめてマインドコントロールをかけられてしまうことと、

さらに最悪の場合、邪悪なる者が表に現れ殺されてしまう可能性だってゼロとは言い切れない。


本来は、進路に関しては元々進路相談の教官であったシルビオ学長が立ち合いの元で行われるが、エリシアが事前に仕組んでおいた、学内全体にトーミヨやアグスティナを叩くような文言が書かれた文書をシルビオ学長が広めたように書き記したものをバラ撒いており、マインドコントロールをされている学生たちの間で暴動を起こさせた。

シルビオ学長はそちらの事態の収束の為、立ち合いに参加することは出来なかった。そのタイミングでソフィナたちはアグスティナ魔帝国の入軍試験を蹴った。


この通知は、用紙に書いたものをその場で試験先に送り届けるシステムなので、シルビオ学長が立ち会わなければ見ることは出来ない仕組みになっているのだ。結果、エリシアの作戦は成功した。


六人は話していると後ろから走っている足音が聞こえてきた。


「ハァ…ハァ…御卒業おめでとうございます、先輩!」サミュエルが息を切らしながら挨拶をしてきた。パーティ会場でも挨拶に来たのに走って追い掛けてくるなんて律儀な後輩だ…と思っていると、


冷たい空気が漂ってきた……。


「!! サミュエル!伏せろッ!!」レオは叫びながら身を乗り出し、訓練により反射神経が鍛えられていたサミュエルのみぞおちがあった場所を思い切りスチールソードで薙ぎ払うレオ。

サミュエルはレオの咄嗟の言葉に従うほどの反射神経を備えていた。

その判断力の高さにガブリエルは驚いた。しかし、驚くのはまだ早かった。


なんとサミュエルは、躱した直後レオのスチールソードに金属属性の物理障壁を展開していたのだ。

これは相手に痛手を負わせない為のものではなく、武器の耐久度を上げる効果を持つ魔法だ。


薙ぎ払うのと同時に、キィィン!という高い音が鳴り、尖った氷が空中を回転して石で出来た地面に突き刺さった!

サミュエルが避けて居なければ、確実に心臓を貫かれていただろう。


「誰だッ!!」レオは声を荒げる。


また冷たい空気が漂ってきた……。


今度は真後ろだ!と気付いた時にはキィン!という音を立てて、ガブリエルが大剣の刀身で弾いていた。


「あらあらあら…二回も防がれちゃったわねぇ…………」


近くにあった建物の影が伸び……その影は徐々に立体的になり、それは人の姿を現した。

漆黒の部分鎧を身に着け、繋ぎ目は青く光っており、彼女が持つ剣は刀身全体が青く美しく光っていた。肌は青白く、髪は明るい金髪…

そして山羊の角と悪魔の翼が生えている……上級魔族だ。


「もう一度聞く……お前は誰だ!!」レオが喋ったのと同時に、卒業生六人とサミュエルは隊列を組んだ。


レオ、ガブリエルが前列、ファティマ、サミュエルが中列、ソフィナ、アデラ、エリシアが後列だ。


「私の名前は……鋭鋒えいほう氷刃ひょうじんレディア。アグスティナ四天王の一人よ。」

女性はそう答えた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る