第八十四話◆マインドコントロール
「よし……魔法陣が完成した。」シルビオ学長は、紙に書いた複雑な形状の魔法陣を頭の中に書き出し、そこへ魔法文を書いていく……。
(国立魔導学校トーミヨの敷地にいる全ての人間……精神操作……アグスティナ魔帝国への就職希望等……魔力6500使用。)「発動……!」シルビオ学長のマインドコントロールは成功した。
トーミヨの敷地から出て、門の外にある木陰に隠れて学長室の方を見ているソフィナたち……。
窓から見える彼の様子だと、マインドコントロールは上手くいったようだ。当初の予定通り示し合わせた皆は助かったものの、四学年の学生全員を救い出すことは出来なかった。
危機は伝えられたし、時間的な余裕は十分にあったが、どこから作戦内容が漏れるか分からないため、全員を信じるわけにもいかない。
アデラとレオから聞いた話によると、アグスティナ四天王が動き出したらしい。エリシア曰く今までの歴史上、アグスティナ魔帝国の四天王が動いた時は、戦争が始まる前触れとも言われているらしい。
もし、今回も歴史を繰り返すような事があれば、戦争が始まってしまう。
強い魔導士が集まるトーミヨの学生を就職させる……それはつまり、アグスティナ軍の増強につながるのだ。シルビオはそれをやろうとしているのだろう。
「よし、みんな。マインドコントロールの実効能力はあと10分程度で切れるだろう。シルビオに見付からないように会議室に戻るぞ。」
「あぁ。」「分かった。」各々が返事をする。
ちなみに助かったのは、ソフィナ、アンナ、ガブリエル、アデラ、レオ、エリシア、ファティマ、サミュエル、グレン、ドリスの10人だ。
グレンとドリスはサミュエルと同学年の二学年で、グレンが二学年一位、ドリスが二位の魔力量を有する。
当日突然、二コマ目の講義をサボッてくれ!と必死な形相のサミュエルに頭を下げられ、渋々付いてきたグレンとドリス。
ソフィナたちからマインドコントロールの話を聞いて絶句していた。まさか、学長兼市長である、あの方がそんなことを……と。
最初はもちろん疑ってかかっていたが、今は信じている。理由は当然、ハッキリと目の前に見えている、マインドコントロールを使用した証拠である白いオーラが、学校全体を包んでいたからだ。
「サミュエル……」
「え?」
「ありがとうな。」徐々に薄れていくオーラを見上げながら言うグレン。
「私も。ありがとう、サミュエル。」
「そんな…僕はソフィナ先輩たちに言われたようにやっただけだから……。」仲間を救った事実とは無関係に謙遜するサミュエル。
そんな姿を見て、ソフィナが聞いてみた。
「サミュエルくんは、就職希望はどこへ出す予定だ?」
サミュエルは少し考えた後「……アグスティナ魔帝国です。」と言った。
他の皆がザワついたのを察して慌てて付け加える。
「あ、マインドコントロールは受けていません!アグスティナ魔帝国に就職した上で、ヨシュア先輩やソフィナ先輩と情報交換が出来れば、皺月の輝きは少しでも安全になるかと……。」
そう言うサミュエルを見てホッと溜息を吐く一同
「お前な……ヒヤッとさせるなよ……。」ガブリエルが言った。
「す、すみません……。」
「そろそろ時間だ。大会議室に戻るぞ。」白いオーラが消えかけているトーミヨの敷地内を見ながらそう言った。
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――トーミヨ学内は静かだった。
何事もなかったかのように……いや、何事か起こったから静かなのだ。
いつもなら学生同士がふざけ合っているような話し声などが聞こえてくるものだが、それが全くない。
アグスティナ魔帝国へ就職するため、全員が勉強を始めようとする為だろう。
「これは……アグスティナ魔帝国へ入るためには相当大変な倍率になるだろうな。」ガブリエルが呟いた。
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「ククク……上手くいったぞ……!」シルビオ学長は一人、笑う。「これでトーミヨは俺と邪悪なる者のモノだ!!」
エリシアに考えが見透かされ、学内トップクラスの学生がマインドコントロールを受けていないことがまだ分かっていないシルビオ学長。
また、マインドコントロールを未然に防いだ10人は、なるべくバレずに行動できるよう、他の学生に溶け込んで勉強に励むことにした。
「いや……まだ安心は出来んな。次はマインドコントロールが上手くいったかの確認を一ヶ月行うとするか……おい!」シルビオ学長は学長室の外で待機している魔導士に声を掛けた。
「お前たちは分担して生徒の情報を逐一報告したまえ。特に、四学年の学生たちだ。」
……これについてはエリシアも想定外だった。
マインドコントロールを受けていなかったということがバレてしまう危険性が非常に高まるし、どういった確認をされるのかも不明なのだ。
その日から、学長に付いている魔導士による学生たちの監視が始まった。
そして、月日は流れ…………。
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