第八十三話◆一瞬の決着

審判をやる人物がいないので、それぞれ自分の魔力の10%(分からない場合は推定魔力)を使用して物理障壁と魔法障壁を張った。

氷属性や金属属性が使えない場合も、仲間の詠唱に魔力を上乗せすることが可能なので、それをやった。

これは味方が作った起点から、自分の魔法で発動を促せる魔法バフの技術の応用で、魔法バフが使えなくても、使い方さえ知っていれば誰でも出来ることだった。


そして、彼らが張った障壁は土属性ではなく、金属属性の物理障壁の上から氷属性の魔法障壁を張るという、好矢が見付けた両方の防護障壁を張る方法だ。

学長室からシルビオ学長が見ていることを知らなかった彼らは、当然のようにそれを行った。


「なッ……!?どうやって両方の障壁を使用したんだ……!?」その光景を見ていたシルビオ学長は驚き、窓に張り付いた。

そして同時に、最初の障壁を張った姿を見て、自分や教官たちも認める黄金期の学生たちの実力は推定よりも遥かに高いことが分かった。

何しろ二つの障壁を展開させるには、ただ物理障壁の上に魔法障壁を張れば良いわけではなく、障壁と障壁の間は全ての角度が寸分違わず2,3mmの間隔を開けなくてはならない。

これは並の魔力の扱いでは出来ない芸当だった。

もちろん、この障壁の張り方をシルビオ学長は知らないので、そんな条件など知る由もないが……。




「……よし……。」ガブリエルは小石を拾って言った。

「ソフィナ!…俺が今からこの石を上に投げる。この石が地面にぶつかったら戦闘開始だ。お互いは、この石に対して魔法を使わない。これでいいか?」


「いいだろう。投げてくれ。」ソフィナは頷いてからそう言った。


ひゅんっ…!ガブリエルは小石を上空に投げる………………コツンッ!戦闘フィールドに小石が落ちた。


「「「「「「発動ッ!!」」」」」」六人は一斉に魔法を発動させた!


突如として魔法が入り乱れる!

エリシアたちがやったのは、まずソフィナたちの足元を氷を巡らせ、足ごと凍らせて動きを封じ、土からソフィナたちへ向かって長く大きな金属の針が飛び出すように創り出し、そこへ電流を流し込む。

完全に連携が取れたその行動。しかし、ソフィナたちも同じだった。


ソフィナたちは、ファティマが得意とする無属性魔法を利用した雷属性による魔法バフの起点をエリシアたちの中心に設置。

そこへ雷属性を放つソフィナ。二学年の模擬戦で、好矢がソフィナに撃たせた黎明の天罰という名前の巨大な雷の光線だ。

レオは、対象であるエリシアたち三名がその光線の主軸へ集まるように巨大な竜巻で雷の光線を包み込んだ!



――ズガアァァァァァン!!!

凄まじい轟音と地響きを起こし、何十年と強固に作られていた戦闘フィールドの地面に亀裂が入る……。

その地響きと轟音は、トーミヨの外の通常のエレンの街中にまで及び、当然お互いのチームの障壁ゲージは一気に空になり、六人は一斉にへたり込んだ。


「化け物かお前ら……」ガブリエルが言った。


「ソフィナ…あれはやり過ぎだ。」レオが息を切らしながら言っていた。


今回引き分けになったのは、ソフィナとファティマの連携ミスだ。

二学年の時の好矢は、魔法バフの起点を上手く作り、そこへ中程度の威力の雷魔法を撃って黎明の天罰を創り出した。

しかし、今回彼女たちがやったのは、ファティマが最大魔力のおよそ半分を使って魔法バフの起点を創り、ソフィナはそこへ最大火力の落雷魔法を放ったのだ。

ガブリエルの金属魔法により、電気を通しやすい金属の針を出現させている関係で、もはや兵器と化した威力の黎明の天罰は、ソフィナたちの防護障壁まで削ったのだ。


「すまない……ファティマと上手く連携が取れなかったな……次から少し控えめに撃つよ。」ソフィナは笑いながら言った。


「私こそ、ごめんねソフィナ……私達大した魔力じゃなかったら一瞬で死んでたわね……。」


それぞれが魔力の10%を使って作った程の使用魔力の高い高密度の障壁だったので、死なずに済んだ。

しかし、六人はもうボロボロである……。


「どうしよう……教官たちに怒られちゃう……戦闘フィールド勝手に使って壊しちゃった……。」アデラが言う。


「とりあえず、六人みんなで謝らないか?」レオの提案に皆が同意した。




「…………。」年に五回見る模擬戦でも稀にしか見ない巨大な落雷……それの10倍以上の規模を誇る落雷を見たシルビオ学長は、言葉に詰まっていた。

自分の手駒にしようとしている相手が、どれほどとてつもない力を手にしているのかが分かったからだ。


「奴らは……就職先はアグスティナ魔帝国だな……。」ソフィナたちの読み通り、マインドコントロールを行おうと考えていたシルビオは、

精神操作でアグスティナ魔帝国に入りたがるように刷り込もうと思っていた。


当然シルビオは、その考えがソフィナたちに完全にバレている事を考えてすらいなかった。


――そして計画決行の日。


「強い魔導士をアグスティナ魔帝国に集めれば、世界の三分の一は俺のものになる……」青空を見上げながら呟くシルビオ学長。


「アグスティナ魔帝国所属の魔導士たちがヨシュアを敵と認識するよう仕組めば、その後はどうにでもなる……」

さすがのヨシュアたちも、アグスティナ魔帝国の大勢の強豪を相手にしてしまえば、太刀打ち出来ないだろうと考えた上での決行だ。


「……よし、あと一時間で決行だ。」シルビオは笑みを浮かべながら呟いた。




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