第六十八話◆魔導技舞台

初めてエレンの街に来た時のように、大きな壁に覆われた街の入口である大門で、入場手続きを行っている。

好矢たちはそこへ並ぶ。



「次!」門番の声に、好矢たち三人は門番の前に並ぶ。

「この国に入ろうとする理由はなんだ?」そのまま問いかけてくるロスマの街の門番。


好矢は答える。

「現在、邪悪なる者の封印を解かれてしまっている状況です。そこで、サヴァール王国を含む世界各国に協力を要請するため、旅に出ているのです。

もしよろしければ、サヴァール王国の王様と謁見をさせていただきたいのですが。」


「……邪悪なる者の封印が解かれたことは我々の耳にも届いている。しかし、何故お前達人間族が?」門番が質問する。


「俺たちは皺月の輝きというハンターチームです。魔王都ガルイラのガルイラ王からの王命を受け、参りました。」


「……ふむ、分かった。………通っていいぞ。」しばらく考えた様子を見せた門番は、片手で合図を送る。

門の前に構えていた他の門番兵達が、ザザッと道を開けてくれた。


門を開けてくれた兵の中から一人が城へと案内してくれるそうで、連れて行ってくれた。

とはいえ、そのサヴァール王国ロスマの街の城は、城と呼べるほどの規模も外観も成していない。

敢えて言うなら、白い大きなペンションといったところか。そんな建物だった。しかし、人が棲むには不自由はしないだろうと思えるような建物だった。



そのままその兵士に玄関から通され、玉座の間ではなく応接室に案内された。

好矢は自分たちの扱いがかなり低いと思ったのだが、決してそういうわけではなかった。


数十分待っているとやって来たのが、茶色いコートを羽織った初老の男性だった。髪は真っ白でオールバック、髭は鼻の下と顎に白い髭をたくわえており、もちろん耳は尖っている。

その男性が発言する。

「いやいや……遅れて申し訳ないね。」そう言いながら、好矢たちに向かい合うようにしてソファに腰掛けた。


「いえ……」そう返事をすると、男性が自己紹介をしてくれた。


「申し遅れたな。私の名前はフレッド・バートと申す。この国の王をやっている。フレッド王とでも呼んでくれればいい。……して、そなたらは?」


「初めまして、ハンターチーム皺月の輝きのリーダーをしております、刀利好矢です。」


「同じくメンバーの刈谷沙羅。」


「同じくアウロラ・ベレスと申します。」


三人は自己紹介を簡単に済ませたが、やはり彼が気になったのは沙羅の存在だった。


「そなたはまさか……サラ・キャリヤーか!?」フレッド王が身を乗り出す。


「……その通りです。しかし私は今はただのハンターに過ぎません。」沙羅はまたか…といった表情を一瞬見せたが、すぐに気を取り直して返事をした。


「そうか……。……リーダーのトール・ヨシュアよ。」今度は顔が好矢に向けられた。


「はい。」


「そなたらがここへ参った理由を聞こうか。」フレッド王は腕を組んでそう言った。


「…既に門番兵から報告を受けているかもしれませんが……手助けをしていただきたいのです。」好矢はハッキリ言った。


「どういうことだ?」フレッド王は怪訝な顔をしているところへ好矢は続けた。

「この場に刈谷沙羅がいることが何よりの証拠ですが、今邪悪なる者の封印が解かれています。ガルイラ王からその邪悪なる者を退治せよと王命を受けております。

そのためには、世界の強者を味方につける必要があります。そのためにお願いに参りました。」


「それは、兵を貸せということか?それとも、強者を一人そなたらのチームに入れればいいのか?」


「出来ればどちらもお願いしたいところですが、兵の動かし方は分からないので、その強者一人だけお願いします。」


「ふむぅ……それは別に構わんのだが……条件がある。」フレッド王はまた言った。今度は何を言われるのだろうか?


「条件ですか……。」


「うむ。我が国を代表する強者と そなたらの誰かが戦い、そなたらが勝てば、その強者をメンバーに入れることを許可する。どうだ?」フレッド王の発言はこれ以上無いありがたいものだった。

というのも、こいつが強者だと言って紹介された人間が足手まといにしかならないような相手だったら、どうしようもない。エルフ族に限ってそんなことは無いだろうが、

どちらにせよ、仲間の力量を把握出来る良い機会だ。もちろん、こちらが負ければ仲間にはなってくれないということだが……。


「分かりました。やります。」好矢はそう返事した。


「うむ、分かった。ではそのそなたらの対戦相手を連れて来るから、そなたらは誰が戦うか決めておいてくれ。」フレッド王はそう言って応接室を出て行った。


「……もちろん、アタシが行くわ!」沙羅はそう言ったが、却下した。


「俺がやる。」好矢が言った。アウロラから「どうして?」と聞かれたが、簡単なことだった。

今の好矢はもしかしたら、チームの中で一番弱いかもしれない。そんな中、他のメンバーに戦わせて自分は眺めているなんてことはしたくなかったし、

これから仲間になってくれるであろう相手から舐められてしまう可能性がある。

そして何より、リーダー以外は女性だけなので、男としてここで戦わないと!と思っていた。



数時間後、準備を整えて魔導技舞台という場所を用意してもらい、兵士に案内してもらった。

トーミヨの戦闘フィールドとほぼ同じくらいの広さだった。

舞台の形は長方形で、それぞれ両端に門があって、そこから出入り出来るようになっていた。

好矢は東側の門から、魔導技舞台へ入った。


フレッド王がやって来て発言した。

「では、皺月の輝きのトール・ヨシュア。そなたの対戦相手はこの人間だ……。」


向かい側の門から、一人の人間が入ってきた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る