第六十七話◆滅ぼされた種族


翌日、サヴァール王国へ向けて出発してから数時間が経過した。

次第に人通りが多くなってきた。というより、皺月の輝きの一行がその人通りに加わった。

元々、アグスティナ魔帝国から続く道でサヴァール王国へ向かう人は少なく、迂回路を使う人が多いため、

その道を通ってきた皺月の輝きのメンバーを見た他の通行人からはギョッとした目で見られたが、

人間族であるということが判ると、何事もなかったかのように進行方向へ目を向けて進んでいた。


「地図上では、ここからがサヴァール領ですね。」アウロラは、川を横断するように架けられた橋を指差して言った。


「大きな橋ですね。」好矢が言った。


横幅がおよそ10m前後ある、非常に大きな橋で長さは目算100m以上はありそうだ。

あくまで目算だからそれより長いかもしれないし、短いかもしれないが。

道幅は広いため、特に橋を渡る順番で行列が出来ているわけでもなく、みんなが渡ろうとして普通に渡っているようなものだ。

ちなみに、日本にある道路のように真ん中に白線が引いてあるのだが、この白線の左側を通るのがマナーのようだ。

日本では自動車や自転車、馬などの車両が左で、徒歩の場合が右側通行と決められているが、この世界には馬やライドゥル、馬車以外に車両は存在しないので、

全て左側通行となっているようだ。

好矢たちもマナーを守って白線から出ないように左側を進んでいた。


時折右側から、耳が尖った美しい顔立ちの男女が歩いて来ていた。

ゲームなどでは見掛けるが、実物を見るのが初めてだったので好矢はサヴァール王国方面から歩いて来ている通行人を眺めていると、アウロラが言った。

「あれがサヴァール王国のエルフ族よ。魔法や弓術に長けている人が多いの。」トーミヨにいる時に種族の特性について教わったのを思い出して、

当時板書していたノートを開いて読んでみる。種族間関係に詳しくない沙羅は横からそのノートを覗いてきた。


人間族…最も平均的な能力を持ち、全種族の中で最もずる賢い性格の人種族。エルフ、魔族との親交が特に深い。

魔族…全ての能力が平均以上の能力を持つ人種族。上級魔族、下級魔族と分かれている。人間族との親交が深い。

エルフ族…魔法能力や弓術に長けている人種族。人間族との親交が深く、ドワーフ族との仲が悪い。

ドワーフ族…手先が器用で様々な物を造ることが出来る生産者が多く、力も強いが魔法能力が極めて低い人種族。魔族、巨人族との親交が深く、エルフ族との仲が悪い。

巨人族…古の時代に存在していたとされる巨人の末裔。姿は人間族で体型がドワーフ族のような人種族。人間族、ドワーフ族との親交が深い。

龍神族…太古の昔に存在したとされる伝説の人種族。多くが謎に包まれているが、ドラゴンに変身できるらしい。他種族との関わりを持たない。


ゴブリン族が人種族と知られたのは最近のことなので、ゴブリン族については特に教わらなかったし、教科書にもまだ記載されていなかった。


「龍神族?」沙羅がノートを覗いて聞いてきた。


「書いてある通りですよ。ドラゴンに変身できるという噂は存在しますが、他が全て謎に包まれている種族です。そもそもこの時代に存在する種族かどうかも分かりません。」


「昔、多種族間戦争で棲む場所を追われて、龍の渓谷という所に棲んでいるって聞いたことはあるけど、今は確かに分からないわね。」アウロラが歩きながら教えてくれる。


「ドラゴンに変身出来るのに棲む場所追われちゃったんですか?」好矢が気になることを聞いてみた。


「ドラゴンってかなり強いし、強力なブレス攻撃も出来るみたいだけど、当時人間が使っていた大量殺戮兵器でほとんど死んじゃったらしいの。」アウロラが言った。

大量殺戮兵器……どこの世界も物騒な物を造るのは人間だなと思った好矢。


「でも、魔法があるのにどうしてそんなもの造る必要があったのかしら?そもそも兵器を造る技術なんてあったんだ?」沙羅は気になったことを聞いてみた。


「人間族の文明は一度滅びてるのよ。700年前に。それはトーミヨでも習うし、好矢くんも知ってるでしょ?」アウロラが好矢に話を振った。


「そうですね……人間はドワーフのように機械を作ることが出来たみたいなんです。エネルギーは魔力で、俺たちの世界と少し違いますけど…。

それで、多種族間戦争で、人間族と龍神族が戦っている時、その兵器を暴発させてしまったそうです。」


「そんなことがあったんだ。」


「それで、沙羅…が転移してきた戦争の200年後には今の状態に近付いてきたそうです。」

まだ沙羅という呼び捨てに慣れていないので、言い淀んでしまった。


「へぇ……」


「ちなみに、魔導士の街エレンって有名だけど、人間族と龍神族の戦争が起こった場所がそのエレンなのよ。」アウロラが教えてくれた。

これは知らなかったことだ。


「兵器で汚された土地だからこそ、魔導士の街とかいってクリーンなイメージをつけている訳ね。人間が考えそうなことだわ。」沙羅が言った。

なるほど、そういうことか。


事実、この世界では魔導士はかなり綺麗な印象がある。好矢が成っている放浪魔導士は、魔導士とついているからまだマシだが、要は放浪者である。

魔導士という言葉が綺麗に見せているという部分は多々あるのかもしれない。


個人の感覚もあるかもしれないが、少なくとも好矢は、

実際放浪魔導士と聞くと、旅をする魔導士という印象しか受けなかった。



しばらく人間族の話をしたが、途中で話を戻した。

「そういえば…話戻しますけど、龍神族を味方につけられれば、かなり心強いですよね。」好矢が言った。


「なってくれないだろうけど……サヴァール王国の王と謁見をさせて頂いたら、龍神族を捜しに龍の渓谷に行ってみない?」アウロラが提案した。


「そうね。いなかったらいなかったで仕方ないし、別にアタシはいいわよ。」沙羅も賛成してくれた。


話しているうちに、サヴァール王国の首都ロスマが見えてきた。




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