第六十四話◆魔女帝エルミリア

「……どいてくれ。」好矢がまた発言する。


「貴方たち……エルミリア様へのお目通りを拒否するとどうなるか……解っているの?」今度は女性の方が発言した。


「俺はお前達の態度が気に入らないと言っているんだ。名前も名乗れないような奴に付いて行くバカがどこにいる?」好矢は二人に正論を投げかけた。


「……チッ、俺の名前はジェラルド・ガーディナー。…こっちは、ルシア・オリヴィエ……俺たちはアグスティナ魔帝国の陸上部隊二尉にいだ。」

「ルシア・オリヴィエよ。よろしく。」女性は笑顔で会釈をしてきたが、目が笑っていない。


「…俺は刀利好矢。」舌打ちをしつつも、相手は名を名乗ったので返すことにした。


「アタシは……刈谷。」沙羅は名字だけ名乗った。


「私はアウロラ・ベレスです。」アウロラのみ、お辞儀して挨拶をした。


「トール・ヨシュア、キャリヤー、アウロラ・ベレスだな……。では、貴様ら二名も同行することを許可する。」

何の権限があって同行云々言っているのかは解らないが、どうしてもアグスティナ魔帝国に連れて行きたいということは分かった。


「……どうして俺をアグスティナ魔帝国に?」好矢は純粋な疑問を投げかけた。


「我々は知らされていない……魔女帝エルミリア様は我々にトール・ヨシュアを連れて来るよう命令をなさっただけだ。」

ジェラルドとルシアの表情を見るに、本当のことを言っているのだろう。

罠の可能性もあったが、好矢はこの場で逃げるとさらに追われてマズイことになりかねないと考え、素直に従うことにした。


「分かった、付いて行く…。その代わり、お前達二人もその不遜な態度をやめるんだ。それが付いて行く条件だ。」好矢は上から目線でイライラしていたのでハッキリと言った。


「……了解した。」ジェラルドはそう返事をして、彼らに付いて行った。



とりあえず、好矢と沙羅はライドゥルに乗り、ライドゥルは一人乗りのため、アウロラはルシアが乗る馬の後ろに乗り、ジェラルドが先導でアグスティナ魔帝国へ向かう。

そもそも客人を迎えるのに馬車すら用意しないのがおかしいと思ったが、ライドゥルを連れているところを見て、港町で借りた馬車をすぐに解約したそうだ。


……約四時間ほど走らせると、地平線に城が見え始めてきた。先導しているジェラルドが「もうすぐで到着するぞ!」と言って、馬を鞭で叩いて加速した。

都の規模は魔王都ガルイラほどではなかったものの、近い広さがあった。


ガルイラを一回り小さくしたくらいの広さだ。しかし、鉱山などが近くにあり資源は豊富なようだ。



さらに一時間半ほどで、ようやくアグスティナ魔帝国の帝都エルミリアに到着した。

自分の名前を都の名前にするのは魔族では伝統らしい。

確かに王都ガルイラの魔王はガルイラだった。……そういえばあの国は何て名前なんだろうか?


ジェラルドが馬に乗った状態で門番兵に何かを話すと、門が開いて好矢たちも普通に帝都に入ることが出来た。


「トール・ヨシュア。この道を真っ直ぐ行くとアグスティナ城に到着する。付いて参れ。…ヤァッ!」口頭で簡単な道案内だけすると、馬を鞭で叩いて城へ向けて走り出した。

それに付いて行く好矢たち。


ライドゥルから周りの光景を見ていると、道行く人が好矢たちを物珍しそうに眺めていた。

その人達はみんな背中に悪魔のような翼が生えている。……ガルイラ王たちと違うのは、翼があるかないかだ。本当は魔族ではないのかもしれない。


そんなことを考えていると、ジェラルドが少しスピードを落として好矢に並んで言った。

「あまりキョロキョロするな。臣民は外から来る客人に慣れていないだけだ。」


「分かった。」好矢は返事をして、前を向いた。


「…………。」ジェラルドはしばらく好矢を眺めてから、少しスピードを上げて、先頭に戻った。


城の敷地へ到着すると、門番がライドゥルを預かってくれた。

アグスティナ城は、RPGなどで見掛けるラスボスがいる魔王城そのものといった禍々しさと美しさを兼ね備えた黒い城だった。


「これは引くわ……」好矢は城の人間には聞こえないようにボソッと呟いた。


ジェラルドの案内を受け、少し複雑な道を通り玉座の間の扉へ到着した。


「……失礼致します。エルミリア様、客人を連れて参りました。」扉へ向かってジェラルドが発言すると、扉から声が聞こえてきた。


「トール・ヨシュア一人を入れ、他は席を外しなさい。……同行者がいる場合は応接間へ。」


「はっ!……トール・ヨシュア、入れ。」そう言いながら、玉座の間の扉を開けた。


好矢は、ゆっくりと立ち入ると、後ろから「では、失礼致します。」というジェラルドの声が聞こえ、扉がガシャンと閉まった。

目の前には魔女帝エルミリアが、紫色の革と金で装飾が施された玉座に座っている。

女帝は非常に整った顔立ちで、金色の髪に、深い青色の肌で、純白のドレスアーマーを着用しており、傍には槍が一本置かれている。

ちなみに魔族であるので年齢はもっと高いものの、見た目は人間で例えると三十代前半に見える。


「……初めまして、トール・ヨシュア。」優しく微笑んで挨拶をしてくれる女帝エルミリア。


「初めまして……刀利好矢です。」当たり障りの無い簡単な自己紹介を返す好矢。


「貴方が、人間族の魔導士育成の最高機関、トーミヨで学んだ異世界の人間ですね?」どこから仕入れた情報かは不明だが、不意に聞いてくるエルミリア。

好矢はそれを聞いてみることにした。

「その通りですが……一つ質問よろしいですか?」


「えぇ、どうぞ。」


「俺がトーミヨ出身という話…どこで知ったんですか?」


「シルビオから聞きました。エレンの町の市長であるシルビオに啖呵を切って出て行ったそうですね。」


「……そうですか。それが何か……?」


「今度はこちらから質問させていただきます。」エルミリアはこちらの返答を待たずに、組んでいた足を組みかえて続けた。

「今の貴方の魔力数値はいくつ?」


「3745です。」


「これもシルビオから聞いたけど、貴方……まだ23歳よね?」


「はい。」


「どうやってそんな数値まで……?」


「…………日々の魔法の訓練です。」魔力を増やすポーションはあれ以来一度しか飲んでいないので、嘘はついていない。

しかし――

「魔力を増加できるポーションを作って飲んだのではなくて?」


なるほど……本当に聞きたい内容はこのことか……。

おそらく、ミハエルの父親を治療した薬の話をシルビオが知って、それをエルミリアに教えたのだろう。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る