第六十三話◆シルビオの思惑
バァン!と机を叩く音が木霊する――。
「それはどういうことだ!!」シルビオ学長が怒鳴っている。
「も、申し訳ございません!!」ソフィナたち五人は立ち上がり、頭を下げる。
「お前達五人がいながら……何故20歳ちょっとの男一人連れ戻して来られない!」
「お言葉ですが学長……トールには仲間がおりました。」ガブリエルが頭を上げて発言する。
「エンテルとかいうゴブリン族だろう。それは知っている。」シルビオ学長は不満気に答えた。
「いえ……好矢の仲間は、サラ・キャリヤーです。さらにその後、トーミヨの卒業生であるアウロラ・ベレスが仲間に加わりました。」ソフィナが答える。
「サラ・キャリヤーだと!?」シルビオ学長はやはり驚いている様子だった。無理もない。
「あのエンテルというゴブリン族の正体が、サラ・キャリヤーだったのです。……その証拠にコールブランドを持ち魔王ガルイラ様と対等に話しておりました。」ソフィナがまた答える。
「ふん……そんなバカな。」シルビオ学長はその真実に対して鼻で笑った。
「バカみたいな…ウソみたいなお話ですが、これらは全て本当のことです。」レオは答えた。
「そのバカな報告をしたお前達は信用出来んな……それに…アウロラか……余計な真似をしおって……!」シルビオ学長は怒りを露わにしていた。
「学長……何故今になって好矢を連れ戻せと仰るのですか?」ソフィナは聞いてみた。
「お前達がそれを知る必要はない。」キッパリと返された。
「何故ですか!!」ソフィナの質問は虚しく、シルビオ学長の次の言葉にかき消された。
「この五人を連れて行け。」学長室にいた魔導士の男達が、ソフィナ達五人を学長室から追い出した。
国立魔導学校トーミヨは、変わってしまっていたのだった。
――廊下。
並んで歩く五人。
「何なんだよッ!」ガンッ!という音を立てて廊下の壁を蹴るガブリエル。
「学長の狙いは恐らく、好矢くん本人じゃないだろう。」ソフィナは呟くように言った。
「どういうことだよ?」
「好矢くんは最大魔力を増やすことが出来るポーションを作ったことがある……もし彼がそのポーションの作り方を確立していた場合、トーミヨにとってそれは重要な資金源になりうる。」
「おい……それって……。」
「好矢くんにポーションを作らせる……もしくはポーションの作り方を聞き出すつもりだろう。」ソフィナは答えた。
「しかし、考えられない話ではないな。連れ戻す理由を聞いて、再び入学させるつもりだ…と言うわけでもなく、俺たちに知る必要はないと言った……」レオは呟いた。
「でも、これってマズくないか……?」ガブリエルが言った。
「どういうこと?」とアデラ。
「俺たちがヨシュアを連れ戻すことを失敗したということは……もっと強いやつがヨシュアたちの元へ向かう可能性が出てくる……。」
ガブリエルが言ったが、レオがそれに続けて言った。
「非常に強い魔導士を雇うとしても……一番魔力の低いサラさんでさえ、ソフィナの魔力を軽く超えていた……そんな魔導士そう何人もいるものか?」
………………。
しばらく沈黙が流れた。レオの問いに考えているのだ。
「……いるわ。」エリシアが答えた。それは、五人の中で一番成績もよく、世界情勢に詳しい彼女ならではの答えだった。
「目には目を…ってことよ。…好矢くんは魔王都ガルイラの魔族の協力を得た人間……もし、アグスティナ魔帝国の者を雇ったとしたら……?」
「おいおいそれはさすがに……」とガブリエルは言いかけたが、有り得ない話ではない。
もしもシルビオ学長がアグスティナ魔帝国に「トール・ヨシュアという人物を生きた状態で捕らえて、エレンの街へ連れて来てくれ。…報酬は最大魔力を増加させるポーション」
こんな文書を送ったとしたら、力を求めたアグスティナ魔帝国は怪しそうにしながらも、必ず乗ってくることだろう。
「しかし、深く考えすぎって可能性もあるぜ!」ガブリエルは気落ちし掛けている皆を見て、気を取り直してそう言った。
「……そうだな!」ソフィナは賛同して、あまり深く考えないことにした。
しかし――
・
・
・
二週間後――。
「うぅ……船酔いした……。おえっぷ。」沙羅がグッタリしながら船を降りた。
好矢は沙羅の背中をさすりながら一緒に降りた。アウロラはやれやれ…といった雰囲気だった。陸地と船旅を経て、港町に到着したのだ。
さらにここから数日ほど歩けば、サヴァール王国まで行くことが出来る。
皺月の輝きの一行が補給の為に港町を散策していると……
「そこのお前!止まれ!!」後ろから聞こえたその声に三人は振り向いた。
振り向くとそこには、一組の男女が立っていた。
男は、短く切り揃えられた銀髪に青い肌、こめかみから山羊のような角が生え、背中から悪魔の翼のようなものが生えている。
そして女は、暗い茶髪に、空色の肌、他は一緒にいる男と同じく山羊の角が生えており、背中から悪魔のような翼が生えている。
「何か用か?」すごい勢いで声を掛けられたが、好矢はとりあえず当たり障りない返事をした。
「お前達の中に、トール・ヨシュアという人間はいるか?」男の方が聞いてきた。
「……俺だけど。」好矢は答える。
「そうか、貴様か。我らが魔女帝エルミリア様が貴様にお目通りしたいと申している。付いて参れ!」男の方が再び言ってきた。
その言葉を聞いて、沙羅が耳打ちしてきた。
「エルミリアってことはアグスティナ魔帝国よ!どうする!?」
アウロラもかなり気にしている様子で好矢を見たが、当の好矢はその男の不遜な態度が気に入らなかっただけだった。
「そのアグスティナの魔女帝様が俺に何の用かは知らないが、お前は城の兵か?」
「そうだ。」
「お前の態度が気に入らない。俺たちはこのまま行かせてもらう…。行くぞ。」
好矢はそう言うと、進行方向に向き直り歩き出した。沙羅とアウロラはそれに付いて行く。
「ま、待て!!」男女二人に走って追い掛けられ、回り込まれてしまった。
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