第四十四話◆それぞれの道


――トーミヨ食堂。

「ヨシュア先輩、いなくなったそうですね……。」ソフィナと話しているのはサミュエル。

落ちこぼれとして入学してきた新一年生だ。


「あぁ、好矢くんはゴブリンと一緒に旅に出た。ちょうどそこにシルビオ学長が居合わせた為、退学手続きはシルビオ学長が行ったそうだ。」


「そうですか……」

サミュエルは、自分の成長ぶりを好矢に見てもらいたかった。

好矢の特別講義を受けたその日、魔力95にまで育ったが、アデラの伝手でエリシアに会いどのようにして魔力を上げたかを聞いた。

とにかく魔法を倒れるまで使いまくっていたそうだ。


「あの後、魔力の調子はどうだ?好矢くんからは、最低限のことだけは教えた…って聞いていたが。」


「はい、ヨシュア先輩のおかげで僕の魔力も125にまで上げられました。」


「それはすごいじゃないか!頑張っているんだな!」


「はい!」


サミュエルは、好矢から聞いたエリシアの努力を聞いて入学してたった少しの間で、最大魔力を30も上げていた。

「でも僕なんか、まだヨシュア先輩の足元にも及びません……。」


「それは当然だ。三学年の学生長である私でさえ、好矢くんの魔力には到底及ばない。彼はそのうち伝説の魔導士となるだろう…私はそれを遠くから見守るよ。」


ソフィナはそう言って微笑んでいたが、サミュエルには解っていた。

ヨシュア先輩がいなくなってから、ずっと彼を待っているということを。


「ソフィナ先輩……もしかしてヨシュア先輩のこと……」


「待て、サミュエルくん。頼む…それ以上は言わないでくれ。……きっと、耐えられなくなってしまう……。」


ソフィナは寂しそうに呟いた。


「ソフィナ先輩、卒業したら好矢先輩を迎えに行ってあげてください。」


「そうだな……。好矢くんがもし、助けを求めていたら、私は全力でそれをフォローしよう。」


「僕の力ではそれは出来ません。だからソフィナ先輩、お願いします。」


「任せなさい。」先ほどと違って、笑顔な彼女がそう言った。

愛しいあの人が、もしも助けを求めて居るならば、私はどこへでも駆けつける……



「おはよう、エンテル。」


「よひや、おはよ。」


「エンテル、今日はお留守番頼めるかな?俺はこれからギルドへ寄って仕事したいんだ。」


「わかた!」エンテルは元気に返事する。


「ご飯はテーブルに置いておくから。」好矢はそう言ってギルドへ向かった。


――魔導士ギルド。


「いらっしゃいませ。」


「あの…依頼を受けたいんですが、ガトスの町は初めて来たんです。」


「そうですか。それでしたら、隣の部屋から依頼を受けて下さい。隣の部屋に依頼書が貼り出されています。」


「分かりました。」


町ごとにギルドのシステムが違っていたりするのかと思っていたが、そんなことは無かった。


「これは……?」


好矢が手に取ったのは、道具屋のポーションの材料集めだ。

趣味が草むしりだから、たくさん採ってきてやろう。そんなことを考えて、材料集めの依頼を受けて、道具屋へ向かうことにした。


――ガトスの町―道具屋。


「いらっしゃい!」見事に禿げ上がった店主がにこやかに声を掛けてきた。


「依頼を受けてきたんですが。」好矢はそう言って材料集めの依頼書を見せた。


「あぁ、ポーションの材料集めだ。薬草とポポイ草は知ってるな?」


「薬草はわかりますが、ポポイ草は分かりません……。」


「マジかよ!…ポポイ草っていうのは……ほら、こういう赤い草だ。」

そう言って店主が見せてきたのは、好矢が赤い草と呼んでいたあの草だ。…あとでノートを書き直しておこう。


「なるほど。」


「まぁ、これらを持ってきてほしいのさ。持って来てくれれば持って来ただけ買い取ってやる。」


「……その言葉は本当ですか?」


「あ、あぁ……。」


「ちなみに、一つ当たりいくらで買い取ってくれるんですか?」


「どちらも単価は30コインだ。」


「……ではまず、これを渡しておきます。」

好矢はカバンから薬草とポポイ草を取り出した。ちょうど20個ずつあった。


「ニイちゃん、ポポイ草持ってるじゃねえか……。」


「これの名前を知らなかったので、赤い草って呼んでたんです。」


「そのまんまかよ!ガハハ!」

どこに笑う要素があったのか分からないが、笑ってくれた。

その後、少し待ってろ。と言って店主は店の奥へ行った。


……しばらくしてから、1200コインを持って来た。銀貨が12枚だ。ジャラジャラ聞こえる。


「あと、これも付けてやるよ!」そう言って取り出したのが、魔力回復ポーションだった。そしてそのまま続けた。

「お前さん魔導士だろ?ってことは魔法で草集めするんだろ?」


…ん?魔法で草集め……?


「魔法で草集めなんて出来るんですか?」


「あ、すまない。植物属性が使えない魔導士には出来ないんだ。」そう言って申し訳なさそうにする店主だったが…


「植物属性なら使えますよ。」と返す好矢。


「なんだ、使えるんだったら問題はねぇよ。普通に植物属性が使えるなら、魔法を唱えれば集められるはずだ。」


盲点だった。いや、むしろ何故今まで気付かなかったのか?

植物属性魔法で草を抜いて、風魔法で自分の元へ集めれば、もっと効率的に草を集められたのに。


「ありがとうございます。……でも魔力回復ポーションはいりません。」


「ん?魔導士なら必ず欲しがるようなポーションだが……君は珍しいね。」


「俺、自分で造れるんで。」

好矢はそう言い残して、そそくさと道具屋を出て行った。


「……へっ??」誰もいない道具屋で反応する店主。



――ガトスの町近郊。


ガトスの町の近くには草原が広がっており、所々に木々が生えている。

木々の根元に薬草類は多いので、近寄って魔法で回収してみることにした。


(薬草……ポポイ草……その場で抜ける……風が抜いた草を俺の足元に運ぶ……合計魔力20使用。)「発動!」


ズボズボッ!ブチッ!という音が聞こえて抜けたら、抜けた草が地面に落ちる前に風魔法でふわりと好矢の足元に運ばれてきた。


「これは便利だ……。」

今まで手作業で草むしりをしていたのだが、その必要は無くなった。

魔力20消費するだけでこんなに集められるのだ!


……こんなに というのも、今回の魔力20使用した一度で、薬草11個、ポポイ草12個採れていたのだ。



道具屋に戻って来た好矢。

「戻ってきましたよ!」そう言ってカウンターにカバンを置くと、店主が奥からやって来た。


「おぉ、来たか。……ん?これだけ掛かって、そのカバン分くらいしか無いのか?」


「いえいえ、まだあります。とりあえず、それをお願いします。」


全部で薬草33個、ポポイ草29個……単価30コインなので合計して、1860コインだ。

店主は計算をして、それを紙に書いておく。


「で、他のは?」


「はい、出します。」そう言って一度空にしたカバンを引っくり返して「……発動!」

すると、好矢の膝まで隠すほどの大量の薬草とポポイ草がカバンからワサワサと落ちていった!


「なッ……!?」

店主もさすがに驚いていた。一つは量の多さ。もう一つは、空のカバンから草を大量に出したのだ!

「ど、どうやって出したんだ……?」


「カバンに草が入らなくて困っていたんです。だから、無属性魔法というものを使ってみました。」

無属性魔法とは、本来属性を持たない魔法で、爆発攻撃などが多い。一番初歩的な無属性魔法は、紙とペンを生み出す魔法だ。

今回好矢がやったのは、無属性魔法でカバンの面積を広げる魔法。開ける、閉じると念じて発動するだけで使えるので、便利な魔法だった。

ちなみに、そんな魔法はトーミヨの教科書にすら書かれてはいない。


「とりあえず、買い取って下さい。」


「お前さん、恐ろしいな……。」店主はそう言いながら、好矢の足元の大量の草を集めて、数え始めた。


「30分くらいで見積もり出るか?」好矢が聞くと、そのくらい掛かる。と言われたので、向かい側にある商店へ行って、

自分とエンテルの分の、食べ物を買っておいた。


30分後――。


「出たぞ!薬草238個、ポポイ草が254個で……合計14760コイン……最初にカバンから出した分含めて、16620コインだ。……グスン。」

少々やりすぎたかな…と思った。お店のお金を大量に貰ってしまった気がする。

一般教養の講義でお店にどれだけ物を売りつけても滅多なことでは困らないと教わったのだが、今回度を超えていたようだ。


「し、しばらく依頼出さなくて済むが……これでさらに報酬金を設定してたらと思うとゾッとするよ。」

店主はそう言って、お金を渡してきた。ミスリル銀貨1枚、銀貨66枚、銅貨20枚だった。


「あぁそうだ、キミ。ポーション造れるって話だったけど……どういう作り方か教えてくれる?」

また聞かれた……。




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