第四十二話◆旅立ち

エンテルを連れて、エレンの街へ行く好矢。少しなら話せる上に、魔導語でならちゃんと筆談が出来るので、街に入れてもらえると思っていた。

しかし……

「ダメに決まってるだろ!!」門番の怒鳴り声を発する。エンテルはビクッとして怯えている様子だ。


「だから、このゴブリンは大人しい良い子なんです!!絶対に街の人に手出しはしません!!」


「あのなぁ……その保障がどこにあるんだ?」


「……エンテル、言ってごらん。」軽く背中をポンと叩いてやる。


わたひわたし、えんてる。よひやよしやの嫌がること、ひないしない!」エンテルは頑張って人語を話す。


「……ダメだ。その言葉がウソである可能性がある。それにエサはどうする?」


「人間のものと同じもので大丈夫です。」好矢は答える。


「ゴブリンごときに人様の食事を与えるのか!?それこそバカバカしい!!」


「門番さん、そういう差別こそバカバカしいですよ。」


「何だと…?」


「ゴブリン族は人間と同じの人型種族です。それを見た目が恐ろしい、清潔感がないと決めつけて一方的に駆逐したのは人間の方です。」


「…………。」


「でもゴブリン族は一つだけ人間よりも得した部分があります。それは、たった一つだけ人間界では食べられないほど美味しいものを食べているという事実です。」


「!? それはなんだ!?」


「フフッ、答えると思ってるんですか?」


「あの時……街を入れたのは失敗だったか……。」


「シルビオ学長を呼んでください。貴方では話になりません。」


「…………良かろう。ただし、シルビオ学長がダメだと言ったらどうする?」


「それはその時に考えます。」



待つこと1時間――


「なんだ門番!こんな夜中に――って、ヨシュアくんじゃないか!」


「こんばんは、シルビオさん。急に呼び出してしまい、すみません。」


「……まぁいい。それで……どうして街の外で?」


「それは……」と言って、好矢の腰の辺りからヒョコッと顔を出すエンテル。


「うぉっ!?」シルビオ学長が驚く。

「このゴブリンはどうした!?」


「このゴブリンが、人語も多少は話せる上に、魔導語で筆談出来る種族です。」


「人語を話す……?君の報告書にはそんな記述は無かったぞ?」


「はい。俺たちがゴブリンの調査から帰った後、ソフィナが地面に書いた「ありがとう」という文字が喋れるようになってたんです。」


「なんと……。」


シルビオ学長は真摯に聞いてくれている。これなら大丈夫だろう。


「それでなんですが、このゴブリン……エンテルは、人間と仲良くなりたいと考えている人です。この子も俺と一緒にこの街に入れてください。」


「ヨシュアくんの街への入場は許可する。しかし、ゴブリンの入場は許可出来ん。」ハッキリと断られた。

シルビオ学長は、この街の力の象徴でもあり、市長を兼任している魔導士である。

外の世界では、魔導士の街エレンと呼ばれているそうだ。つまり、シルビオが市長として発した街での出来事は絶対なのだ。従う他ない。


「…………分かりました。」


しばらく考えた結果、好矢は承諾した。


「では、1時間ほどエンテルをこの場所で預かってください。」


「んなッ!?」門番は奇声を発する。


するとシルビオ学長が話す。

「よかろう。1時間特別手当を出して、万が一に備えて門番を二人用意する。それでいいな?」

まず門番に対して特別手当と安心できる条件を出して、それを好矢に伝える。


「危険なことは無いのに……分かりました。」


「では、門を開けよ。」シルビオ学長の挨拶で門が開かれる。

ゆっくりと門が開かれる。


「エンテル、一時間だけ大人しく待っていてくれるか?」


「うん、まてる!」


エンテルの頭を撫でて、エレンの街へ入ると、全力でソフィナの家へと走る。もうこの方法しかない。


ソフィナの家に着いて、借りている部屋へ行くと、借りる前から偶々置いてあった地図をバッグに入れ、草類、ゴブリン調査で使おうとした道具を持って、

ソフィナの部屋をノックする。


「…どうぞ。」


「入るぞ。」


「……そんな大荷物でどうしたんだ?」


「この街を出る。」


「えっ!?……ちょっと、何バカなことを言ってるんだ!?」


「今、街の外にエンテルがいるんだ。」


「エンテルって、あのエンテルちゃん!?」


「そうだ。アイツの安全性をどれだけ説明しても、街へ入れてくれなかった。門番はもちろん、シルビオさんですら。」


「前任の町長が、街へは異種族を入れてはいけないって掟を作ったからね。でもおかしいの。エルフ族や魔族などの種族は入れるのよ?これって、差別よね。」


「そんな差別はクソくらえだ。俺はこの街を出て、エンテルと共に行く。学校も辞める。」


「少しの間じゃないの!?あの名門の学校を辞めるなんてバカじゃないの!?」

普段見せない表情でだんだん怒りを露わにしていくソフィナ。


「八つ当たりは分からず屋の門番にしてくれ。エンテルが街へ入れさえすれば、こんな選択はしていない。」


「…………。」


「じゃあ、もう行くから。これ、今まで情報屋で稼いだお金だ。養ってもらった分としては足らないけど…三日分の食事代と買ってくれた服代は入ってる。」


そう言って、コインが入った袋を渡すが……


「こんなもの要らない!!バカ!最低!!二度と戻って来るな!!」瞳に涙を浮かべ顔を真っ赤にして怒鳴っている。


「すまない。」そう言って、ソフィナに背を向け家を出る。


……家を出て少し歩いた所で後ろから衝撃が!一瞬、理解が出来なかったが、ソフィナが好矢を後ろから抱きしめていた。


「グスッ……好矢くん……」


「……どうした?」


「絶対、いつか戻ってきて。」


「さっきは戻ってくるなって言ってたじゃないか。」


「そんな事言ってない!絶対戻ってこい!」


「……分かったよ。ありがとな。」


好矢はそう言って、ソフィナの額にキスをする。


「ッ――!!」


「じゃあな……立派な魔導士になれよ。」


好矢が去ろうとした瞬間――


「第四区画に住むラファティ家の親父さんが目を覚ましたぞーー!!」「なんだとぉーー!?」


「ラファティ家?」好矢が首を傾げる。


「五学年のミハエル先輩のお父さんよ。魔力欠乏症で倒れてたんだって、どうやって復活したんだろう?死を待つだけの病なのに。」

ソフィナの発言を聞いて、好矢は自分が渡したポーションを思い出した。


やっぱり、あのポーションは……


「その医者って誰なんだ!?」「ラファティさんとこの息子さんに聞いた!何でもトーミヨの学生が調合したポーションだとよ!!」


「えっ……もしかして……」ソフィナが好矢を見つめる。


「……誰だろうな。すごいよな。……じゃあ、俺は行くよ。」

街の入口へ歩いて行く好矢。


「…………分かってる。貴方なんでしょ。好矢くん……。」

ソフィナはひとり、そう呟いて、そのまま散歩に出掛けた。


もうすぐ6月……5月末には一学年の、そして6月末は二学年の模擬戦が始まる。




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