第四十一話◆戦う理由
――ギルド。
ギルドへ着く頃には、時刻は18時半になっていた。
簡単な依頼一つこなして、22時頃に帰ってくれば問題はないだろう。…依頼を眺めていると、ゴブリン討伐の依頼がまたあった。
「またか……」と溜め息を吐いて、その依頼を受けてエンテルたちを守りに行くことにした。
そしてバルトロ森林へ向かい、そこからゴブリンの洞窟へ向かう。いつもの道だ。
ゴブリンの洞窟の入口近くへ行くと、十数人の人間がいたので、慌てて岩肌の影に隠れた。
ゴブリンの洞窟の入口へ入ってすぐの所は、松明で照らされている上に結構広く、中に居る人の顔もしっかりと見えた。
胸に★を五つ付けた魔導士……トーミヨの五学年の学生が七人、部分鎧や重鎧を装着している戦士が九人いた。
何やら話している。
「ミハエル、本当に良かったのか?」部分鎧の男が話している。
「……いいんですよ!ゴブリンは危険生物ですから!」と、ミハエル。
「でもさ、また来るかもしれないわよ?ヨシュアのヤツ……。」カルロータもいた。
敵は十六人……一人で相手にするのは厳しい。どう対処するか……と思っていたのだが……。
「じゃ、ゴブリンも全滅出来たし、いくらアイツが強いったって、済んだことをどうにかする力はないだろう。帰ろうぜ!」と言って、ハンター達は全員出て行こうとした。
ウソだろ………?
………………。ぶっ殺す。
「発動ッ!………発動ッ!………発動ッ!………発動ッ!!」岩肌から飛び出し、凄まじい集中力で土、雷、植物、水の魔法を次々と発動させた。
「うおっ!?」「ぐわっ!!」
対処に遅れたハンター4人と五学年の学生2人が吹き飛ばされ、壁に激突して気を失った!
「来やがった!ざ、残念だったな!ゴブリンはもう全――!」
壁際にいたミハエルの額の真横の岩壁に金属属性で創り出したナイフを飛ばして突き刺した!
「……発動!」
そのまま強度の高い蔦でミハエルを巻き上げ、身動きを封じた。
突然のことに驚いている皆の頭上に光魔法を放ち、考えを読むことにした。
カルロータが放ってきた雷魔法を受け切り、他の学生の炎魔法や氷魔法を全て受け切り、雷魔法、土魔法で応戦する。
「くそっ!このっ!!」戦士が剣や槍を使って攻撃を仕掛けてくるが、光魔法で行動の先読みが出来るので、全てギリギリのところで躱し続ける。
魔法も分析防御しないといけないので、キツくなって来た好矢は武器を作った。
(鋭利な鋼鉄の刀…詠唱待ち効果付与……魔力200使用。)「発動!」
パァン!という音を立てて創り出した刀で、斬り掛かってきたハンターを斬っていく。(金属防護魔法…魔力40追加)「発動!」
詠唱待ち効果によって、刀に金属の防護魔法を付与した。
切った所に物理耐性が発動するので、深手は負わないのだ。しかし、物理ダメージを抑えるとはいえ、しっかり斬られているので、もちろん痛い。
「な、何だこの化け物は!?」とハンターたちが叫び、物理的な武器を持った人たちは逃げて行った!
残りは、トーミヨの学生五人だ。全員五学年なので、結構マズイ戦いになりそうだ。
そこへ――
……パァン!!
学生のうちの一人が閃光玉という道具を使って、逃げ出した。
……残っているのは縛り上げられたミハエルだけだった。
「おい、ミハエル。」
「…………。」
「何黙ってんだテメェ!!」ボコッ!と一発顔面を殴る。
中学時代、喧嘩三昧だった頃をふと思い出した。
他校の生徒をボコボコにして、一生車椅子生活にさせてしまった事がある。もう二度と人を殴らないって決めていたのに…………。
「お前が……ゴブリンたちを……エンテルを殺したのかッ……!!」好矢の瞳には涙が流れていた。
「あ、あぁ……仕方ないだろ!依頼だったんだ!!」ミハエルは涙に驚きながらも、正当化しようと叫んだ。
「ゴブリンは温厚で大人しい魔物なんだ!!人間がイタズラに命を奪ってきたから、人間に敵対心があるだけだ!!」
……………………。長い沈黙。
「ゃ……ひゃ……」洞窟から声が聞こえる。
ミハエルを睨んだまま、洞窟の奥へ走る。
走り出すとすぐに居た。二つ並んだ大きなツボの間にエンテルが隠れており、所々怪我していた。
「エンテル!大丈夫かっ!!」好矢は駆け寄る。
体力回復ポーションと万治ポーションで傷を治してやった。
「よひや…ありがと……。」
「他の皆は?」
「しんじゃた。」
「そっか…………。」
好矢はエンテルの手を取って入口へ歩き出した。
「……ミハエル。」好矢は名前を呼びながら、植物魔法の拘束を解いた。
植物に開放され、ドサッ!と地面に落ちるミハエル。
「……どうして自力で脱出しなかった?」好矢はそのまま聞いた。
「それをやってもお前はもう一度俺を縛るだろ?それに……お前が正しいことくらいは解っていた。」
「だったらどうしてゴブリンたちを殺したッ!!」好矢は怒鳴る。
「報酬が欲しかったんだよッ!!親父の治療費に当てられる報酬がッ!!……それなのに毎回毎回邪魔しやがって!!」
「ゴブリンを大量虐殺して儲けた金で父親を助ける……?」
「そういうことだよ!!」
……知らなかった。
ミハエルは他のメンバーと楽しそうに魔物狩りをしているのは、確かに本当に楽しいそうだ。
しかし実際は、父親の治療費を稼ぐために、依頼を受けて報酬を貰っている。
いつも笑顔を絶やさないようにしながらも魔物狩りをしていたのは、仲間に心配を掛けさせない為の彼なりの優しさだった。
「だが俺は、次は命を狙う……と言ったはずだ。それを無視して…何度目だ?」
「たぶん……五度目だ。」ミハエルは項垂れて答える。
「……命が惜しいとは思わないのか?」
「思うさ。でもよ……命懸けで命を奪わないと、身内の命は救えないんだよ。」
似ていた。
中学時代、父親が蒸発し、母親がガンで亡くなった友人と…。
その友人で例えると、彼の母親のガンの治療費を稼ぐ為なら、魔物を殺して依頼の報酬を貰う……認めたくはないが、正当な理由だ。
この行為は、善であり悪である。好矢は彼の言葉を聞いて、一方的に攻撃していた事を頭を下げて謝罪した。
「……悪かった。」
「ヨシュア…お前が頭を下げるなんてな……。」
「親父さんの病気はなんて病気なんだ?」
「
「その、最大魔力が0になると、どうなるんだ……?」
「…………死ぬんだよ。」ミハエルは呟くように言った。
「えっ…………」
「魔力が無くなると、動けなくなるだろ?あれが魔力欠乏状態……最大魔力が無くなると、動けなくなって数時間後に死亡する。俺の親父の最大魔力は9だ。
もうそろそろ覚悟してくださいって医者に言われたよ。」
「……………………。」好矢はしばらく考える。そして――
カバンをゴソゴソ漁る。探しているのだ……。
「何をしてるんだ……?」ミハエルは状況が飲み込めずに聞く。
ゴソゴソ……
「あった。……これ使えよ。」
好矢が取り出したのは赤紫色のポーションだった。
「えっ……?」
赤紫色のポーションの効果は解らないが、解毒ポーションと魔力回復ポーションの色合いを混ぜたような見た目をしていた。
「これは何ていうポーションだ?」
「分からない。でも、回復ポーションの実験をしている時に作った。それでよくなるかは解らないけど、やるよ。」
「そんな得体のしれないモン――」
「俺はそれしか出来ない。……エンテルは俺が保護する。……じゃあな。」
そう言って、ミハエルを残して洞窟を出た。
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