第二十九話◆ゴブリンのレポートと…
あの日から俺たちは、エンテルの家にお邪魔している。
相変わらずゴブリン族との会話は全て筆談だが、微妙なイントネーションの違いで、わふぅ!が好矢!わふ~!が、お~い!と言っている事が分かった。
日本人が英語のRとLの発音の区別が付かなかったりすることがあるが、それと同じようなものなんだろう。と納得しておいた。
エンテルの両親からは痛く感謝され、イノシシ肉のステーキに青いリンゴのソースをかけた料理が振る舞われた。
ゴブリン族一番の御馳走らしく、人間である俺たちの口にも合うとても美味しい料理だった。
ガブリエルとソフィナは相変わらずゴブリン族の里で、ゴブリンたちと遊びに行っている。
俺は、エンテルの両親とエンテルから、ゴブリン族の普段の生活についての話を聞いて、人間との共通点を書いていっている。
そうこうしつつ、レポートにまとめられるほどの、すごい量の情報を仕入れた頃には、ゴブリン族の里に滞在し始めて三日目になっていた。
こちら側が一方的に情報をもらうのは悪いと思ったので、エレンの街の雰囲気や、そこで暮らしている人たちの暮らしぶりを話した。
エンテルは憧れの目で俺の話を聞いていてくれた。
やがて、エンテルは人間との会話がしたいと言い始めたので、時々教えてやったりしていた。
そして――――
「世話になったぜ、みんな!」地面に文字を書きつつ、挨拶するガブリエル。
「ありがとう!」ソフィナは同じように地面に文字を書いて笑顔でそう言った。
「またな、エンテル。みんな。」好矢はあえて何も書かず、エンテルの頭を撫でてやった。エンテルには頭を撫でてやれば通じるのだ。
こうして、三人はゴブリン族の里を後にした……。
エンテルはトコトコと歩いて、ソフィナが地面に書いた文字を眺めながら呟いた。「あり…が…と……う……?」
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――魔導学校トーミヨ
「――これが、ゴブリン族についてのレポートです。」ゴブリン族の里で教えてもらった情報をレポートにしてシルビオ学長に渡す。
「……うむ。」軽く相槌をして、好矢のレポートを受け取って読み始める。
「………食事などは人間とほぼ同じなんだな。」
「はい。また、わふわふしか言いませんが、彼らなりの言語のようです。」
「そう思う理由は?」
「本当に少しですが、ゴブリン族の里にいる間、ゴブリンの喋っている事が分かったのです。」
「何……?」学長は近くに置いてあったコーヒーカップに手を近付けたまま止まる。
止まっていた手を再び動かして、そのコーヒーカップを持って一口飲むと続ける。
「主に聞き分けるために必要だったのが、言語の違いというよりイントネーションの違いなどでした。まだ未完成の言語なのでしょう。」
「あるいは、我々が聞き取れない音を織り交ぜて使っている可能性も考えられる。」
「そうですね。」
「ヨシュアくん、キミはもしかしたら、ものすごい魔導士になるかもしれないな。」
シルビオ学長は滅多に見せることのない笑顔で言った。
「では、俺はこれで失礼します。」
好矢は学長室から出ようと背を向けると、呼び止められた。
「ヨシュアくん。」
「はい。」
「今日提出してくれた、このレポートをどうしたい?」
「……ゴブリンと人間との和平の為の材料になればと思います。」
「分かった。善処しよう。」
お辞儀だけして、学長室を出た。
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二学年の教室へ行くと、ソフィナがいた。
「遅いぞ、好矢くん!さぁ、書類10枚を片付けてもらうぞ!!」
「遅いったって、報告しただけだから仕方ないだろ……。」
そう言って、溜め息を吐きながら渡された書類を受け取って、イスに座る。
ガブリエルにどうしてソフィナはあんなに仕事熱心なのか?と聞いてみると、普段から学生長の仕事は頑張ってはいるものの、いつもよりも頑張っているそうだ。
そのやり取りを聞いていたソフィナは言う。
「アデラに負けてばかりいられないからな。」
「お前がいつアデラに負けたんだ?」と好矢が聞くと、すぐさま返事をした。
「ミス・トーミヨで去年は負けた。だから今回こそは……!」と言っていた。
ソフィナも意外と女の子だった。
「さぁ、無駄話をしている暇はないぞ!さっさと今日の分を片付けて私の衣装選びを手伝ってくれ!」
ソフィナは別に仕事は手伝ってもらわなくても良かった。
しかし、学生長の仕事を片付けた後で、好矢と一緒にミス・トーミヨで着る衣装を買いに行きたかったのだ。
やはりミス・トーミヨなので、男性受けする衣装の方が良いと思ったかららしい。
こっちはレポートで、ゴブリン族から人間たちへ伝えたいことなどを色々まとめたり大変な思いをしたのに、呑気な奴だ……。
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