第二十八話◆力の差
「……お前達も、依頼を受けてきたのか?」と声を掛けて来た、黒いローブの男。顔は良く見えない。
隣には、赤いウェーブヘアの女性。そして二人の奥には部分鎧を装着した男がいた。
「俺は、魔導学校トーミヨ二学年の刀利好矢。こっちはソフィナ・ヨエル、ガブリエル・グラスプールだ。」
「二学年なのに外出……?悪い子ねぇ、トール・ヨシュアくん……。」そう言ったのは赤いウェーブヘアの女性。
「………………。」好矢は黙って聞いている。
話しながら、その女性と黒いローブの男の胸を見ると、★が四つ付いている。彼女らはトーミヨの四年生のようだ。
「お前、知っているのか?」部分鎧の男がそう言う。
「えぇ、ウチの学校で今注目されている学生さんよ。」
「ここで何をしていたんですか?」ガブリエルが聞く。
「ゴブリン狩りよ。さっき、ミハエルが依頼って言ったでしょ?」といって黒いローブの男を指差す。
黒いローブの男はミハエルか……。好矢はミハエルの名前を魔法の詠唱の中に入れた。
「そちらの方はミハエルさんなのですね。では、貴方たち二人のお名前を伺っても……?」ナイスなタイミングで他の二人の名前を聞くガブリエル。
「俺は、ジョザイアだ。」と部分鎧の男。
「私は、カルロータよ。私とミハエルはトーミヨの四年生。よろしくね!後輩さんたち!」
詠唱の中に、ジョザイア、カルロータの名前も入れる。
そして詠唱待ち状態の魔法を、好矢は自分の靴の裏に仕込む。そのまま、少し近づいてジョザイアに声を掛ける。
「ジョザイアさん、その剣に付いている血って、ゴブリンの血ですか?」
「あぁ、そうだが。」チラッと自分の剣に付着している血を見るジョザイア。
「カルロータさんとミハエルさんはゴブリン何体やっつけました?」
「私が8匹かな~。」「俺は11匹だ。」二人はそう答える。
「アンタの方が多いじゃない!何よー!!ハハハ!」カルロータが言いながら笑う。
「そうですか……。」
好矢は話しながら三人に近づいて行き、何体やっつけたか?という話の時には元いたソフィナたちの元へ背中を向けて歩いていた。
そして、振り返って「ジョザイアさん。」
「……何だ?」
「本で読んだんですが、ゴブリンの血は人間の血よりも金属を早く錆びさせるらしいですよ?」
「おっ、そうなのか?ありがとう、トール・ヨシュアくん。」
「それと、ゴブリンの血は人間の血で浄化出来るらしいんですよ。……例えばこんな風にね。発動!!」
洞窟の地面から、ジョザイア、カルロータ、ミハエルを大きな土で出来た針が現れ、身体の所々に突き刺さる。
刺さらなくても色んな所から、三人へ向けて針が飛び出ているので、身動きがとれない状態になる。
「な、何をする気だ!?」声を荒げたのはミハエルだった。
「こんな二学年程度の小手先の魔法が通じるとでも思ってるの?」
「口だけは達者だな。……発動!」
その針ごと、洞窟の床は溶けて三人をズブズブと沈めていく。
「何!?何!?イヤァーーーー!!」カルロータが叫ぶ。
三人が肩までズッポリと沈んだところで、魔法を解いて、今度は土属性で地面の硬化魔法を使用した。
これで三人は身動きがとれない。
「ミハエルさん、カルロータさん……お二人の魔力はいくつですか?」
「711よ……」
「俺は801だ。」
「ありがとうございます。じゃあ……」
そう言って先ほど硬化させた地面へ、土属性で物理魔法障壁を発動させた。消費魔力は810。これで魔法の発動も出来ない。
「抜け出せなくなったでしょ?」
二人共魔法を発動しようとするが、全く発動しない。
「どういうことだ!?」そういうミハエルに対して好矢は言った。
「俺たちは学長の指示でゴブリンの生態を研究するために来ました。これ以上ゴブリンを殺させません。……それと、その土には土属性の物理魔法障壁を使ってます。使用魔力は810です。」
「「なッ……!?」」ミハエルとカルロータは二人共驚愕の表情を浮かべ、全く同じ反応をしていた。少し面白かった。
そのまま好矢たちは三人を残し、歩きだす。
「俺もお前達のやり方は気に食わないね。後で好矢とゴブリンに謝っとけよ。カルロータ。」ガツンと軽くカルロータの頭を蹴るガブリエル。
「知り合いか?」ソフィナが聞く。
「あぁ、俺の元家庭教師だ。」
「えぇ!?」好矢が驚く。
「気にするな。カルロータはああいう奴だ。魔物を殺すことには特に躊躇はない。」
「そうか……。」そう言って、奥へ進んでいく。
奥には、数人のゴブリンが倒れており、先に伝えるべきことを紙に書いておき、入口で行った同じ方法で、一人ずつ助けていった。
好矢はゴブリンを助けていくうちに、ゴブリンの顔の見分け方と、オスメスの見分け方が分かった。
顔は微妙な違いしか分からないが、オスメスは着ている服の形だ。オスはボロ布を腰に巻いていて、メスは胸と腰にボロ布を巻いている。
時々胸に膨らみがあるゴブリンがいるが、メスであることは一目瞭然だった。
そんな中、メスの一体に「えんてるはどこだ?」と聞いてみた。
「わふ。」と言って指差した。
その方向にはエンテルが倒れていた。
急いで駆け寄り、ポーションを使ってエンテルを起こす。
「……わふ?」と声を出して、好矢の顔を見る。
「わふ~!!」と言いながら好矢に抱きついて泣き出すエンテル。
「か、かわいい……」ソフィナがエンテルを見ながら、泣いているエンテルの頭を軽く撫でる。
「そ、そうか……?」とガブリエル。
一頻り泣き終えたエンテル。
他のゴブリンも治してやり、その場に集まってきたゴブリンたちの話を聞くと、突然人間たち三人が魔法や剣でゴブリンを攻撃してきたらしい。
地面に「そいつらは おれたちとはべつの にんげんだ。おれたちは おまえたちと たたかうつもりは ない」と書いた。
「わかってる よしやは いいやつ」と地面に返事を書くエンテル。
ある程度は落ち着いたので、ゴブリンたちを残して三人の元へ向かってみると……
案の定、三人はゴブリンたちの棍棒で顔面をボコボコ殴られていた。
「助けてくれぇ~!」と叫んでいる。
好矢たちを見つけたゴブリンは、とことことやって来て地面に書いた。
「おまえもやる?」
そう書いてから棍棒を差し出してきた。
好矢はそれを受け取ってニヤリと笑った。
「お、おいトール!?」「好矢くん…!?」
「大丈夫だ。」
そう言って、魔力回復のポーションを飲むと、三人の顔面を魔力を込めた棍棒で思い切りぶん殴った!
それと同時に、パリン!と音を立てて、土の障壁が破られた。
「ほら、出ろ。その代わりここには二度と手を出すな。もし出て手を出そうもんなら本気で命を狙いに行くぞ。」そう言いながら三人を睨む好矢。
「わ、分かった……!もう手を引く……!!」自分たちは魔導士なのに、魔法でねじ伏せられどうすることも出来なかった。
後輩の魔導士見習いが圧倒的に自分たちよりも強い……それが彼らにとって何よりの屈辱であったのだ。
三人は、魔法で地面から抜け出すと、一目散に逃げて行った。
さて、ゴブリンにも被害があってかわいそうだが、色々話を聞かせてもらわないと。
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