第三十話◆ソフィナの衣装

「なぁ、好矢くん。この衣装はどう思う?」

ソフィナが見せてきたのは、肩が出た緩いシャツに、下はミニスカだった。

今までに見ないソフィナでドキッとしたが……ソフィナはそういう系統は似合わなそうだった。


ちなみに俺たちは今、二人で家の近くの防具屋へ来ている。


「なぁ、ソフィナ。ここって、女の子の衣装はオーダーメイド出来るのか?」と聞いてみる。


「あぁ。そこに書いてあるだろう?」


「読めないんだよ……。」


「……そうだったな。魔導語しか読めないというのは中々不便だな。」


「…共通語教えてくれないか?」


「あぁ、いいぞ。簡単だしな。ただし、ミス・トーミヨが終わってからだ!」

彼女はどれほどミス・トーミヨを心待ちにしていたのだろうか……。


「ソフィナ、話を戻すが……俺が指示した生地、指示した形で店に注文できるか?」


「あぁ、出来るが……好矢くんの好みに合わせればいいのか?」


「俺の好みというわけではないが、とりあえず、こんな感じで。」


好矢は手で紙とペンを創り出し、スラスラとイメージの絵を書いていった。

紙とペンを創り出す魔法はとても簡単で、魔力を5ずつ消費すれば、普通の紙に百均で売っているようなペンが作れた。

結構便利なので、重宝している魔法だった。


好矢はその紙に、日本の浴衣の絵を書いた。


「なんだ、それは……?」ソフィナは聞いてくる。


「これは、浴衣ゆかただ。こんな感じのものを着てみたらどうだ?」


好矢がそう言うと、ソフィナは当惑した様子で浴衣の絵を凝視している。


「似合うと思うぞ?……こういう生地なんてどうだ?」

ちょうど近くに、赤い花柄の反物のような形の生地が置いてあったので指差してみる。

値段もそれほど高くなく、1200コインだった。オーダーメイドの料金を込みにしたらどれくらいになるか分からないが……。


「えっ……その柄、ダサいから売れ残っているんだが……。」


そういうソフィナに言い返す。


「お前には、こういう系が一番似合う。」


「私はダサい女だと言いたいのか!?」


そうじゃねえよ……。



納得出来ないらしく、結局生地代とオーダーメイド料金は好矢が払った。合計で3000コインした。

ソフィナをさらに綺麗にするために、内緒で別のものを900コインで購入し、あとでそれを鍛冶屋へ持って行くことにした。

さて、あとは彼女自身の趣味をなるべく尊重して服選びを手伝ってやった。

正直綺麗な格好を沢山見られたので、終始ドキドキしていたが、平静を装っていた。



季節は11月になった。ミス・トーミヨをちょうど一ヶ月後に控えた日の夜、学校が終わった後、

好矢、ソフィナ、アンナ、ガブリエル、ファティマの五人で防具屋へ行った。


浴衣は完成しており、ソフィナは浴衣の中にシャツを着てから、好矢に着付けをしてもらった。

着付け自体は、好矢の母親が茶道の先生をやっていたので、男女共に着付けは出来る。数少ない特技の一つでもある。


そして浴衣を着せた後、ソフィナの髪を結いで、かんざしを刺した。

900コインで購入して鍛冶屋へ持って行ったのが、このかんざしだ。銅で出来ており、銀メッキを使っている。


化粧はいつものナチュラルメイクだが、浴衣を着たソフィナは髪さえ黒ければまさに大和撫子といった美しさだった。

他の三人が完成したその姿を見ると「おぉっ」という歓声をあげた。


「ヨシュア……貴方が考えたの?」ファティマが聞いてくる。


「まぁな。」と答える。


防具屋の店主も驚いた様子で「あの生地がこんな物に化けるとは……」と言っていた。


「好矢くん……これ、なんていう服だった?」ソフィナが聞く。


浴衣ゆかただよ。」


「浴衣姿…ど、どうだ……?」


「似合ってるよ。綺麗だ。」好矢が言う。


「ッ――!!」顔を真っ赤にして、フィッティングルームへ戻っていくソフィナ。


「ヒューヒュー!」とガブリエルとファティマが言っていた。仲良いなおまえら……。


アンナだけは、浴衣自体には感動したようだが、つまらなそうな顔をしていて、目で、どうして私の分はないの?と訴えている表情だった。

それを言葉に出していたら、だって頼まれてないから……と返していたことだろう。


何はともあれ、ソフィナの衣装は決まり、とりあえず好矢が手伝えるものはどうにかなった。


普段着に着替え終えたソフィナはカーテンをシャッと開けて「帰るぞ、好矢くん!」と言った。

他の三人がゾロゾロと店を出て、好矢も出るためにカバンを背負った時に防具屋に声を掛けられた。


「どうかしましたか?」


「トーミヨのヨシュアさん、これを受け取って下さい。」そう言って、防具屋は値引き券をくれた。


「え、いいんですか?」


「はい。その代わり、ミス・トーミヨが終わったら浴衣を商品として売らせてください。売れれば売れただけ、値引き券を差し上げます。」店主はそう言ってきた。


しばらくお金を稼げないと思っていたので、ありがたかった。


「分かりました、良いですよ。」好矢はそう言って、店を後にした。



「じゃあ、またな。」ガブリエルとファティマは二人で並んで帰って行った。


「あの二人、交際始めそうだな。」ソフィナがそう言う。


「そうだな……。」


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