第十二話◆好矢の武器

「それより、良かったのか?」青いリンゴを半分くらい食べたソフィナに声を掛けた。


「あぁ、居候のことか? 別に構わんよ。」ソフィナはそう言って微笑んでから、また青いリンゴにかじりついた。


「いや、それもだけど、夜に顔合わせするって話だったろ?」

 好矢は約束を破ってしまったように思っていた。


「あぁ、そのことか。夕方頃にアデラとも会ってるし、顔合わせは出来たじゃないか」


 あんなのでいいのか……


「そういえば、好矢くん。キミの得意属性は植物属性だったな?」


「あぁ」


「ガブに武器を造らせようと思ったが、何が良い? 剣か? 槍か?」


「植物属性を活かせるものだな……う~ん……まぁ、考えておくよ」


「今日は10日で、模擬戦は月末だし、ゆっくり考えればいいさ」


「あぁ」


 好矢はそう言って、ソフィナの隣に座る。ふわふわのソファだ。


「これ、食べるか?」ソフィナが食べかけの青いリンゴを見せた。


「いや、それ俺のだし、まだ持ってるし……」


「まだあるのか。じゃあ冷蔵庫に入れておいてくれ」

 そう言って、ドラム式洗濯機のようなものを指差した。


 この世界の冷蔵庫は火属性と氷属性魔法が使われていて、氷属性で冷やし、火属性で温度を上げて調節されている魔法器と呼ばれるものだ。

 火属性の方へ魔力を注げば少し温度が上がるし、氷属性へ魔力を注げば中に入れたものを凍らせることだって出来る。

 そして現代日本と違うのは、いくら使っても電気代というものがかからない。一人暮らしだった好矢にとっては、たった少しでも光熱費が浮くのはありがたい。

 ……お金は持ってないんだけどね。そもそもこの世界の通貨は円でいいのだろうか? ソフィナに聞いてみる。


「ソフィナ、この世界の通貨って何なんだ?」


「この世界って……? 通貨はコインだけど」


「え? じゃあ例えば100コインっていうのは、コイン100枚か?」


「違う。100コインだったら銀貨1枚だ」


 話を聞いていると、結構分かり易かった。

 銅貨、銀貨、ミスリル銀貨、金貨、ディリル金貨と5種類の硬貨がお金になっていて、銀貨は銅貨の100倍の価値。

 ミスリル銀貨は、普通の銀貨の100倍の価値があるそうだ。

 つまり、円で例えるなら、銅貨が1円→銀貨が100円→ミスリル銀貨が1万円→金貨が100万円→ディリル金貨が1億円ということになる。

 ちなみに、ミスリルとは魔法銀のことで、ディリルとは魔法金のことらしい。


 そしてお金とは関係ないが、鍛冶屋にミスリルとディリルを持ち込むと飛び上がるらしい。なんでも、ミスリル銀とディリル金を製錬することで、ミスディ合金という薄い金色の非常に硬い金属が出来るからだ。

 鍛冶屋にとって、ミスディ合金を製錬することは何よりのステータスになっている。


 おとぎ話によると、そのミスディ合金で造られた、非常に美しく切れ味も凄まじい伝説の聖剣コールブランドというものが、魔王城に封印されているらしい。


 魔王までいるのか、この世界は……と思ったが、とりあえずそれは気にしないことにした。


 ・

 ・

 ・


 好矢は自分の部屋の青いリンゴ7個を冷蔵庫に全て入れたところで、後ろからソフィナに声を掛けられた。

「好矢くん、シャワーでも浴びてきたらどうだ? 足も泥だらけだぞ?」


 バスタオルに身を包むソフィナに声を掛けられた。

「あっ……あぁ、そうするよ」日本にいる時は、医者の卵だったからということもあり、女性の裸は何度か見たことがあるが、

 生きている女性のバスタオル姿を見ると、ドキッとしてしまった。


「青いリンゴ、冷蔵庫に入れてくれたか! お風呂上がりにいただくとしよう」


「まだ、冷えてないと思うけど……」


 と、止めようとしたが、ソフィナは冷蔵庫から、キンキンに冷えた青いリンゴを取り出した。


 どうやらこの冷蔵庫は入れたものを瞬間冷却出来るらしい……。元医大生故か、人間の冷凍保存も出来るのでは? と考えてしまった。


 風呂は日本で入っていたものと似ていた。しかし、文章は読めないので、何となくで使い方を覚える。

 温水と冷水の切り替えは、文章が赤い文字と青い文字で書いてあったので、何となく理解することが出来た。


 身体を洗い始めると、やはり足の汚れが目立つ……。

 ずっと安いホテルなどにあるような、薄いスリッパを履いていたのだ。無理もない。


 風呂を上がると、タオルとバスローブが置いてあり、自分の服がなかった。


 別の場所でジャワジャワ洗っている音がするので、俺の服は今ソフィナの元にあるのだろう。

 洗わせてしまうとは申し訳ない……でも、乾くのか?


 ・

 ・

 ・


 翌朝、ソフィナが洗ってくれて、ちゃんと乾いてくれた服を着てソフィナと登校していると、ガブリエルに声を掛けられた。


「おう、トール! 昨日お前の武器何が良いかって考えてたんだけどな……」


「あぁ、そのことなら――」まだ先の話だし、考えておく……と言おうとしたところで……


「お前、植物属性が得意属性だろ? 昨日の夜、魔力が余ってたから金属魔法で造っておいたぜ! ほらよ!」


 ガブリエルは、そう言って、俺に武器をポイッと投げてくれた。武器とはいえ、投げられても危ないものではない。

 それを見て好矢とソフィナは言葉を同時に放った。


「「……はっ?」」




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