第五話◆魔導士?
「あの……」
「何だ?」
「俺の名前……トール・ヨシュアじゃなくて、
そう言うと、兵士は怪訝な顔をして聞いてきた。
「……どう違うんだ?」
このように、全然話が通じない兵士。
「だったらその書類に名前を書かせてください」
と言うと、この町へ入った人間が解るようなリストになってるから、プライバシーの問題でダメだとのこと。
仕方なく、持っていた枝で地面に、とうり よしや と書く。
「これが俺の名前です」
これを見た兵士が驚いていた。「これは……魔導語!?」
は? 何言ってんだコイツ。
兵士は続けて話始めた。「この言語をどこで知った?」
「いえ…普段から使っている言葉ですが……」
俺の答えに兵士は目を見開いて驚いている様子だが、上手く言葉が見付からないのか、固まっていた。
やがて兵士が動き出すと、書類のメモ欄に△や□が入り混じったような言語を適当に書いて一言。
「……これ、何て書いてあるか判るか?」
「分かりません」と返す。
「こんにちは と書いたんだ」
見たこともないような文章の羅列……どこかの国にでも来てしまったのか? と思ったが、扱っている文章は違えど、話す言語は通じる。
しかも好矢は、日本語で話している。さらに、ゴブリンなんて生物は見たこともないし、何より、剣や鎧を装着した人なんてものも見たことがなかった。ここで一つの結論が頭に浮かんだ。
“ここは異世界である”
元々察しの悪い俺でも判ることだ。魔導語という言葉からして、おそらく魔法も存在することだろう。
「あの…町へ入ってもいいのでしょうか……?」俺はとりあえず話を切り出した。
「魔導語で書く名前か……大魔導師の末裔だろうな。うむ……入っていいぞ。だが、少し待て」
兵士はそう言うと、350mlの空き缶のような形の筒を取り出して、プォーッという不思議な音を鳴らした。
日本に住んでいた21年間、聞いたことのない音だった。おそらくこの世界の笛か何かだろう。
しばらくすると、町の門から一緒に居た兵士と似たような格好をした男性がやってきた。おそらく同じ警備をしている兵士の一人だろう。
その兵士は俺に敬礼して言った。「こちらへ。魔導士トール・ヨシュア殿」
・
・
・
彼に案内をされ、そこそこ栄えた中世ヨーロッパのような町並みを歩いて行く。
「トール殿は、魔導士になって、どれ程経つのだ?」
兵士が唐突に問いかけてきた。それを少し間を空けて答える。理由は、トールが俺であると思わなかったからだ。
彼が問いかけの後、俺の方を見たので、俺に話し掛けているのだと把握した。
「あの、好矢でいいです」
「なるほど、ヨシュアか」
「もう、ヨシュアでいいよ……」
「???」兵士は不思議そうな表情を浮かべていた。
勘違いが消えないまま、先ほどの問いに答える。「魔導士ではないと思います」と。
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