第三話◆ゴブリン エンテル

 水をたらふく飲んだ俺は今、青色のリンゴのような果物を食べている。未成熟である緑色ではなく、言葉通り真っ青な色をしていた。

 ただ、不思議と毒々しい印象は全く受けず、その青いリンゴを取って匂いを嗅いでみると、オレンジのような香りがした。

 食べてみると、リンゴのシャリッとした食感にオレンジのような味が口に広がり、水々しくてとても美味しい果物であることが分かった。ちなみに今食べている青いリンゴは2個目だ。


 道中、バナナの木の葉っぱよりも大きな葉っぱと、木の枝を拾った。大きな葉っぱは、拾った物を包んでカバン代わりに使っていた。

 箸はポケットに入れているが、青いリンゴは4つほど、葉っぱに包んでおいた。


 木の枝は、下ろした腕から地面までの長さより少し長いくらいの丁度いい長さの枝だったので、池の近くから地面に線を引きながら歩きつつ、

 近くにある木にそこら中で垂れているツルを縛って、目印を付けながら歩いて行った。目印を地面と木の二箇所に付けながら歩いていれば、最初に見つけた池に戻って来られると思ったからだ。


 3、40分ほど歩いていると「わっふ……わっふ……」という生き物なのか物音なのかよく解らない音が聞こえてきた。立ち止まって辺りを見回しても特に何もいない。

 それと同時に、ガツン! ガツン! という何かを叩くような音も一緒に聞こえてきた。


「わっふ……わふ?」声だと理解は出来たが、どこから聞こえている声なのかは未だ判らなかった。

 とりあえず、歩き出そうと前を向いて2、3歩歩き出した瞬間、先ほどよりもずっと大きい声でまた声が聞こえた「わっふ」


 後ろを振り向くと、緑色の肌に大きな鼻。非常に醜悪な顔付きの小柄な人間のような体型の生物がいた。左手には棍棒を持っている。

 「…………」俺は驚きのあまり、声が出なかった。


 その生物は、俺の顔と、持っている木の葉っぱの包みを交互に見ていた。

 俺は何かに気付き、包みから青いリンゴを取り出して、その生物に渡した。「わっふ!」と嬉しそうに聞こえる不気味な声を発すると掴み取っては、ムシャムシャと食べ出した。


 素早く食べ終えたその生物は、青いリンゴが成っている木まで移動して「わっふ」とまた言い出した。

「……まだ欲しいのか?」

 そいつは頷いて、左手に持っている棍棒を思い切り振り上げて、青いリンゴの木を思い切り殴り付けた。何度も何度もそれを繰り返す。

 棍棒で木を叩くと、ガツン! ガツン! という音が鳴る。なるほど、さっき聞こえた音はコイツらが出している音か。と一人で納得した。

 しばらく棍棒で木を叩くと、木の枝と一緒に青いリンゴが落ちてきて、その生物は青いリンゴを再び食べ始めた。おそらく、これがエサを取る作業なのだろうと思った。


 俺は、その生物が小柄な為、大好物である青いリンゴが棍棒で殴らないと取れないのだと把握すると、木に登って、青いリンゴを取っては地面に落としてやった。

 その生物は見た目は醜悪だがぴょんぴょん跳ねて嬉しそうにしていると俺は呟いた。

「何かコイツかわいいな……」


「わふわふ」

 木を飛び降りて、自分の分のリンゴを集めていると、そいつが声を掛けて来た。

自分を指さして、次に木の枝で、地面に文字を書いた。その文字を見て俺はビックリした。その文字はよく知っている文字でこう書いてあった。

「わたし ごぶりんのえんてる おまえだれ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る