第4話 プリンセスとプリンス


「あのさ、名前聞いてなかった」

無言な車内、そう彼女が切り出した。




「鷹葉榛(たかば・しん)。」




そう言うと車内は再び沈黙を貫いた。それは、彼女が意図して作り出したものではなかった。その名前に懐かしさを感じたことへの驚きであった。私が桜來家で暮らしていた頃、つまり、桜來千代(おうらい・ちよ)として生きていた頃、私には友達と呼べる人がいなかった。



裏社会をも牛耳る一大勢力と表されてきた桜來家。そんな桜來家のプリンセス、ちよにはひとりの友達もおらず、気にいられようと親に言われてやってきた操り人形、もとい、知り合いしかいなかった。親の都合でビジネス友情ごっこさせる親なんてくそくらえって小学校低学年で大人ぶってた自分も嫌いだった。



その時期に出会ったのが、“鷹葉榛”だった。鷹葉家もまた裏社会をも牛耳る勢力で、鷹葉榛は鷹葉家の次男だった。ちよと榛は年が榛の方が一回りも二周りも年上であったが、すぐに本音で語り合える仲になった。お互いがお互いに自分を重ね、客観視できるそんな存在が刺激的だった。



2人は、それぞれの家の一員として叩きこまれた頭と純粋な心で子供ながらに様々なことを考えていた。

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