ドリル愛を貫くと決めたよ

 会場は沸いた。ヘッドフォンを外す選手。

 ケイが観客に手を振ったあと、ちょっとかわいいポーズを取る。

 すぐ止めて舞台袖に帰っていく。サツキに教えてもらったポーズだった。

「ちくしょう。魅せプレイかよ」

 控え室までの道のりを歩きながら、ヨウサクは笑っていた。

「いや。単にダメージレースで勝ってたから。ついでに狙っただけ。舐めプレイじゃないぞ」

 淡いピンクのワンピース姿のケイは、真剣な表情。

「分かってるよ。次は、もっといい勝負ができるように頑張るぜ」

 坊主頭の少年が決意を述べて、長い髪の少女も答える。

「またやろうぜ」


 控え室では、会場の試合を見ることができた。

 選手全員が入れる、広い部屋。

 壁の近くにテーブルがある。その上に並ぶ、いくつかのディスプレイ。

 そして、椅子も並ぶ。座って見ている選手たち。

 次の試合の選手は、すでに移動していて姿がない。

 プロゲーマーと話している選手がいる。意外と気さくな五人。

 ケイは、ライバルたちと試合内容を振り返る。ロクミチはアドバイスを受けていた。

 控え室のディスプレイは音が絞られている。にもかかわらず、会場の熱気は控え室まで伝わってきた。

 試合の途中で、次の試合の選手が部屋を出ていく。

 接戦を制したのは、エリシャだった。

「ここで、みんなでプレイできないのが残念だな」

 本気なのか冗談なのか、分からないことを言ったケイ。

「……うん」

 つり目のキャロルが喋った。どんな時でもゲームは別腹らしい。

 ジョフロワの射撃が命中するたびに、驚きの声が聞こえた。最後に立っていたのは、ジョフロワだった。

 ナイナは、相手を寄せ付けない嫌らしいプレイを徹底。

 たっぷりと時間をかけ、危なげなく撃破した。

 アサトとボニーは互角の勝負を見せた。攻撃が当たるたび、沸く会場。決着し、勝ったのはボニー。

 控え室に選手が戻ってくる。

「やるじゃん、アサト。さすが俺のライバルだな」

 ケイは、素直な感情を伝えた。

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、まだ何かが足りないって感じだ。僕はもっと上にいく」

 決意を述べたアサトは、爽やかな笑みを浮かべている。

 ダニオは、いつものようにノリで戦う。それは、驚異的な操作精度に裏打ちされたもの。実力で勝利。

 フリードリヒは、大会だというのにパージして挑む。

 負ければ終わりの状況で、リスクの高い戦法をあえて使った。会場は盛り上がり、相手を撃破した。

 ロクミチは、キャロルを接近させないように、けん制も交えて立ち回る。

 だが、ビームシールドを先読みで使う相手に接近を許す。粘りを見せたものの、キャロルに軍配が上がった。

 七三分けの少年が控え室に戻ると、すでにケイの姿はない。ヨウサクと何かを話して笑う。

 そこにキャロルも加わって、何かを言った。アサトも近付いていった。


 会場のあちこちで、空調機器が作動している。

 椅子に座った人たちの目は、緑色の舞台に釘付けになっている。

 とはいえ、全員が、舞台をはっきりと見ることはできない。

 高い位置の巨大なディスプレイに注目していた。

 サツキを含めた、後ろで立っている観客たちも同様。

 8位以上が決まっているケイとエリシャの名前が呼ばれ、歓声と拍手が起こった。

 黒髪の少女と、ウェーブした髪の女性が、舞台中央へ。ヘッドフォンをして備える。

 コントローラーが握られる。

 試合が始まった。ステージは荒野。

 エリシャの機体は、茶色に近い赤で、厚めの装甲。背中にドリルを装備。

 そして、ケイも全身ミドルタイプ。同じく、背中にドリル。色は灰色。

 ケイは微笑んだ。お互いに中型ハンドガンでけん制しながら、中距離を維持。ダメージを狙う。

 エリシャが撃った中距離小型ミサイルを、ギリギリで横に回避。小型ガトリングを当てる。しかし、エリシャの中型ハンドガンの弾が、何発か命中。

 ケイは定石を知る相手を釣って、ビームシールドを使わせた。その隙に接近。大型実体剣を当てる。だが、浅い。お返しに小型ガトリングを浴びた。

 お互いに、ドリルが当たれば撃破可能なダメージ。

 ケイが接近したのを見て、エリシャは勝負に出た。左腕を換装準備。一瞬遅れて、ケイは脚を換装準備。

 エリシャのビームシールドで、ケイのビームナイフが弾かれる。左腕がヘヴィに換装され、消えるビームシールド。

 赤茶色の機体が、ドリルを構えた。

 弾かれたケイの機体は、脚がライトに換装されて静止。わずかに横へ動き、ドリルを構える。クロスカウンターのような形。エリシャのドリルはギリギリで空を切り、ケイのドリルが相手を破壊した。

 会場は一瞬静まり返って、沸いた。

「いいドリルだね」

「やめられないんだよなあ」

 画面を見たまま言った二人。楽しそうな表情を隠さない。

 2戦目。お互い、一気に接近。中距離を維持し、不規則な動きで相手の出方を窺う。

 ケイは、中型ハンドガンを一発撃った。別の攻撃を読んでいた赤茶色の機体。弾が当たり、一瞬動きが止まった。その隙に撃ち込まれる、小型ガトリング。

 エリシャも撃ち返す。何発か当てただけで、ケイは射程外に移動した。

 両者は、ほぼ同時に中距離小型ミサイルを撃ち合い、笑った。お互いにビームシールドで難なく処理。

 接近戦を仕掛けたエリシャ。中型ハンドガンを撃ってすぐ、大型実体剣を構える。

 弾を無視して、大型実体剣を構えていたケイ。お互い正面から縦に斬り合う。どよめく会場。

 エリシャが、右腕の換装準備。ドリルを構えた。右腕がライトに換装され、ドリルをキャンセル。中距離ミサイルを撃つ。

 すでに、ケイは跳んでいた。すこし回転しながら、着地寸前にドリルが直撃。ケイの勝利となる。

 ヘッドフォンを外した選手が、歓声を聞く。

 ケイは、観客に向け両手を高々と上げる。手を振ったあと、今度はポーズを取らなかった。サツキがすこし口を尖らせる。

 選手は舞台袖に帰っていった。

「ドリルを釣りに使っちゃ、駄目だね」

 控え室までの道のりを歩きながら、エリシャは笑った。

「いや、俺じゃなきゃヤバかったぜ。いい手だった」

 赤いカーディガンを羽織っているケイは、真剣そのもの。

「ドリル愛を貫くと決めたよ」

 ウェーブした髪の女性が言って、長い黒髪の少女も答える。

「またやろうぜ」


 控え室では、会場での試合を見ることができる。

 次の試合の選手は、すでに移動していて姿がない。

 ケイは、ライバルたちと試合内容を振り返り、エリシャも加わる。

 椅子に座り、ディスプレイを眺める選手たち。

 舞台には、白髪の年配男性と、金髪ミドルヘアの少女の姿。

 ジョフロワは遠距離戦を得意とする。ナイナはトラップを使い、距離を開ける戦いが得意。お互いに接近戦も可能な腕前。

 ナイナは、あえて遠距離戦を挑んでいた。じりじりとした戦いが続く。

 勝ったのは、デコイ越しに正確な狙撃をおこなった、ジョフロワだった。

 試合が終わる前から、次の試合の選手は移動している。

 ケイたちは控え室で盛り上がった。

 あの場面で、別の手ならどうなっていたのか。みんなで話しながら、楽しんだ。

 舞台には、ボニーとダニオの姿があった。ダニオはいつものように跳んで、着地の隙を換装で消す。

 ボニーはあえて換装せず、着地時の読み合いをメインに戦う。

 そして、読み勝ったボニーが勝利を掴んだ。

 試合が終わる前には部屋を出ている、次の試合の選手。

 控え室で盛り上がるケイたち。

 何を読んであの動きをしたのか聞いて、納得する。みんなで話しながら、研究した。

 舞台には、フリードリヒとキャロルの姿。お互いに接近しての、殴り合い。

 フリードリヒは、パージしている分、相手より機動力が若干高い。自身がライバルと呼ぶキャロルは、互角の戦いを見せる。

 自分のスタイルを貫いたフリードリヒ。負けたが、大きな拍手と歓声を受けた。

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