いいよね。こういうの

 レトロファイト世界大会せかいたいかいがおこなわれている、幕海まくうみドーム。

 会場かいじょう熱気ねっきに包まれている。椅子に座るのは千人。

 それ以上の人数が、うしろに立って見守る。観客の中に、サツキたちの姿。

 4位以上確定済いいじょうかくていずみのケイとジョフロワの名前が呼ばれ、歓声かんせい拍手はくしゅが起こった。

 緑色の舞台ぶたいが、ずらりとならぶ照明をびる。

 ほとんどの観客が見るのは、映像。舞台ぶたいうしろにある、壁の巨大なディスプレイ。

 黒髪の少女と、白髪はくはつ年配男性ねんぱいだんせいが現れた。舞台ぶたいの真ん中まで歩く。見つめるのは、ゲーム機とディスプレイの置いてある台。

 隣同士となりどうしの椅子に座る。ゲーム音を聞くため、ヘッドフォンをつけた。

 コントローラーをにぎる。

 司会者しかいしゃの言葉を、ひかしつで見守る選手せんしゅたちは聞いていない。

 試合しあいが始まった。ステージは市街地。

 ジョフロワの機体きたいは紺色。左腕のみミドルタイプで、他がヘヴィタイプ。右肩に中距離ちゅうきょりミサイル。左肩に長距離ちょうきょりエネルギーほう

 ケイは機体色きたいしょくを変えていない。灰色。同じ装備そうび

 ステージの中心部は開けている。その場所以外は、射線しゃせんが通りにくい。

 巨大ロボットという設定でも、高い建物は邪魔じゃまになる。遠距離戦えんきょりせんには不向きな場所。近接戦闘きんせつせんとういどむ者が多い。両者りょうしゃ遠距離戦えんきょりせんを選んだ。

 開幕かいまく。ケイはビームスナイパーライフルを構えた。ほぼ同時に、ジョフロワもかまえた。

 会場かいじょうがどよめく。

 おたがいが発射はっしゃしたたまは交差し、相手に命中。重いヒット音が響く。かまえていた武器ぶき破壊はかい。ケイはにやりとした。

 ジョフロワは、障害物しょうがいぶつに隠れなかった。デコイを使い、デコイしに狙撃体制そげきたいせいを取る。

 ケイも、障害物しょうがいぶつに隠れなかった。デコイで見えない相手に、狙いを定めた。

 長距離ちょうきょりエネルギーほうたまが交差し、おたがいに命中。鳴り響く重い音。ケイは胴に食らう。武器ぶき破壊はかいされ、ジョフロワは遠距離攻撃手段えんきょりこうげきしゅだんを失った。驚きの声や歓声かんせいが上がる。

 換装かんそうすれば、遠距離攻撃えんきょりこうげきを使用可能。ジョフロワは換装かんそうせず、接近せっきんした。中距離小型ちゅうきょりこがたミサイルをつ。

 ダメージを受けているケイは、落ち着いていた。紙一重かみひとえでかわし、マシンガンをびせる。

 中型ちゅうがたハンドガンを何発か当てたジョフロワ。お返しに、エネルギーガトリングを食らう。二人のダメージが逆転ぎゃくてん

 ケイは、デコイを使って、中型ちゅうがたハンドガンで破壊はかい。意表を突いた。

 紺色の機体きたいは、デコイ越しの攻撃こうげきそなえて、ビームシールドを展開てんかい

 そのすきをついて、ケイはソードで攻撃。撃破げきはした。

「いやはや、流石さすがですね」

「よく言うぜ」

 ライバル二人は、画面を見たまま言って、にやりとした。

 2戦目。おたがいに接近せっきんした両者りょうしゃは、中距離戦ちゅうきょりせんを始める。

 しめし合わせたかのように、中型ちゅうがたハンドガン、マシンガンの順で攻撃こうげき。ほぼ同じダメージを与え合う。

 ジョフロワはデコイを使い、うしろからエネルギーガトリングをかまえた。発射はっしゃされたたまがデコイを破壊はかい

 ケイは、ビームスナイパーライフルをかまえていた。ガトリングを数発受ける。

 すでに発射はっしゃされていたたまが、ジョフロワの左腕に直撃ちょくげき。重い音とともに破壊はかいした。

 デコイを使ったケイ。何もしない。紺色の機体きたいも何もしなかった。笑うケイ。デコイをスルーして戦う両者りょうしゃ

 ジョフロワが、左腕を換装準備かんそうじゅんび反応はんのうして、ケイは右腕を換装準備かんそうじゅんび

 接近途中せっきんとちゅうのジョフロワの左腕が換装かんそうされ、ヘヴィタイプになる。すぐに中距離三連砲ちゅうきょりさんれんほうった。

 ケイは、全装甲ぜんそうこうをパージして、ギリギリで接近せっきん短距離たんきょりビームほう直撃ちょくげきさせ、勝利しょうりした。

 二人の選手せんしゅがヘッドフォンを外す。会場かいじょうは大きな盛り上がりを見せていた。

 サツキは、何かを叫んでいた。声が選手せんしゅに届いたのかは分からない。

 ケイは会場に手を振って、隣を向く。

 すでに、ライバルの顔が向けられている。

としを取ると思考しこうり固まりやすくなり、新しいことをするのがむずかしくなりますね。やはり、もっと若い方たちとせっしなければ」

 ジョフロワは微笑んだ。

「何、言ってんだよ。新作ゲームでこれだけできれば上等じょうとうだろ」

 ケイは真剣しんけんだった。

「今後とも、よろしくお願いします」

 スーツ姿の年配男性ねんぱいだんせい握手あくしゅもとめた。

「またやろうぜ」

 淡いピンクのワンピース姿の少女は、それに応じた。拍手はくしゅが起こる。


 舞台ぶたいから降りるとき、ケイの表情が一瞬曇いっしゅんくもった。

 ミドルヘアがれ、サツキの表情も曇る。

「ひょっとして、会場かいじょうが広いから……」

「無理しないといいね」

「んー。マスクしないのかな」

 近くにいるホノリとユズサは、別の意見を述べた。マユミは何も言わなかった。


 ひかしつのディスプレイに、会場かいじょうの様子が映っている。

 舞台ぶたいには、金髪ショートヘアの女性と、金髪ロングヘアの少女の姿。

 近距離射撃主体きんきょりしゃげきしゅたいのボニーに対し、格闘戦主体かくとうせんしゅたいのキャロルは相性あいしょうが悪い。だが、装備そうびはそのまま。

 ボニーは、両手のハンドガンで戦えば有利ゆうり。しかし、使用を極力減らしてのぞんだ。

 接戦せっせんせいしたのは、ボニーだった。

 決勝戦けっしょうせんの前に、すこしがある。まだ移動していない次の試合の選手。

 ケイたちがひかしつで盛り上がっていると、呼び出しを受けた。


 会場かいじょうは、決勝戦けっしょうせんを前に、すこしだけ落ち着いている。

 ミドルヘアの少女は応援おうえんしていた。

 緑色の舞台ぶたいには台がある。近くに椅子。上には二つのディスプレイ。うしろの壁。すこし高い位置の巨大なディスプレイに、試合しあいの様子が映される。

 ケイとボニーの名前が呼ばれ、大きな歓声かんせい拍手はくしゅが起こった。

 舞台に上がる、長い黒髪の少女と、金髪ショートヘアの女性。台を目指す。

 隣同士となりどうしの椅子に座る。ヘッドフォンをつける。

 コントローラーをにぎった。

 司会者しかいしゃが何かを言って、解説者かいせつしゃが答えた。サツキの頭には入ってこない。

 試合しあいが始まった。

 ステージは荒野。ボニーの機体は赤色で、全身ライトタイプ。左手にハンドガン。右手に中型ちゅうがたハンドガン。左肩に中距離三連砲ちゅうきょりさんれんほう

 ケイの機体は、灰色。全身ライトタイプで、同じ装備そうび

 両者接近りょうしゃせっきん。ハンドガンの応酬おうしゅうになる。射程しゃていギリギリで対峙たいじする二機にき不規則ふきそくな動きで直撃ちょくげきけ、おたがいにダメージを与える。

 続いて、中型ちゅうがたハンドガンの応酬おうしゅう。ほぼ同時に中距離三連砲ちゅうきょりさんれんほうち合い、どちらも命中。

 すこし接近せっきんしている。意表をついて中距離ちゅうきょりミサイルを使う、赤色の機体きたい

 ケイは短距離たんきょりビームほう応戦おうせん。同時に直撃ちょくげき。ケイが与えたダメージのほうが多い。

 ほぼ同時に、左腕をヘヴィに換装準備かんそうじゅんび。左手のハンドガンを、弾切たまぎれになるまでち込む。換装後かんそうご大型おおがたハンドガンをちまくる。わずかな差で、ケイは相手を破壊はかい

「あんた、すごいよ」

「そのセリフ、そっくり返すぜ」

 画面を見つめたまま、楽しそうに話す二人。

 2戦目。両者りょうしゃは、中距離三連砲ちゅうきょりさんれんほうを使った。

 ボニーは、二発避にはつよけたあとで一発をガード。ケイはギリギリで全てけた。中距離ちゅうきょりミサイルをつ。

 一瞬いっしゅんのビームシールドで防いだボニー。すでに接近せっきんしている灰色の機体きたい

 ビームシールドは展開てんかいがある。解除かいじょしてすぐは使えない。

 ケイは、短距離たんきょりビームほうで最大リターンを取る。

 中型ちゅうがたハンドガンの応酬おうしゅう。赤色の機体きたいは右腕を換装準備かんそうじゅんびちまくる。

 ケイは、すぐに次の攻撃こうげきがくると読んで、中距離三連砲ちゅうきょりさんれんほうはなつ。

 ボニーは何もせず、紙一重かみひとえ攻撃こうげきける。ヘヴィタイプに換装かんそうした、右腕のエネルギーガトリングをびせた。

 腕を換装かんそうすると、ハンドガン二丁とは相性が悪い。ダメージを与えるために、裏をかいたボニー。

 弾切たまぎれになる、ケイの右手の中型ちゅうがたハンドガン。ボニーは、左手のハンドガンからの攻撃こうげきを読み、マシンガンで距離きょりを取ろうとする。

 ケイは一気に接近せっきん。右腕の換装準備かんそうじゅんびをしつつ、短距離たんきょりビームほうを使う。

 間一髪かんいっぱつ至近距離しきんきょりでの直撃ちょくげきまぬがれたボニー。ガトリングがくると予想して、ソードを狙う。

 ケイは大型実体剣おおがたじったいけんを構えた。

 赤い機体は、換装かんそう再使用可能さいしようかのうになる。右腕を再びライトタイプに換装準備かんそうじゅんび。そして、同時に攻撃こうげきが当たった。

 ケイの攻撃は浅かった。致命傷ちめいしょうにならなかったボニー。

 エネルギーガトリング使いつつ、右腕がライトタイプに換装かんそうされる。中距離ちゅうきょりミサイルを構えた。

 それを読んでいたケイ。背中の巨大な可変式実体剣かへんしきじったいけんを構える。ミサイルの発射はっしゃと同時に、世界が横薙よこなぎに両断され、爆発ばくはつ

 立っていたのは、灰色の機体きたい

 サツキは、笑いながら涙をこぼした。

 選手せんしゅがヘッドフォンを外す。大歓声だいかんせいでおたがいの声がよく聞こえない中で、二人は言う。

「まさか、格闘かくとういどむとはね。おそったよ」

 ボニーは相手をたたえた。 

「絶対に格闘かくとうで負かせてやるって、初めて戦った時から、決めてたんだよ」

 ケイも相手の能力のうりょくを認めた。

 スーツのように引き締まった服装の女性と、ワンピース姿の少女が手を伸ばす。

 会場かいじょうから、握手あくしゅをする二人に拍手喝采はくしゅかっさいが送られる。

「いいよね。こういうの」

「ああ。最高だ」

 二人は笑った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る