実は、一番

 第四日曜日だいよんにちようび世界大会せかいたいかい一週間前いっしゅうかんまえ

 ケイが家族で朝食を終え、歯も磨き終わったあと。

 地味な普段着で、少女達の友情をえがいたアニメを観た。つぶやかなかった。

 すこしあとに誰かがたずねてきて、ケイが迎え入れる。

「ごめん。来ちゃった」

 サツキは、柔らかな生地のパーカー姿。特にすることもなくて、一緒におしゃべりしたかったらしい。

 他愛たあいのない雑談ざつだんをして、服屋へと出発する二人。

 やはり、そこは地下である。地下街の店の外まで服が並ぶ。

 並んでいるものは、どれもかわいらしい。時間が早いためか、姿のないほかの客。

「……」

 ケイは何も言わなかった。ごくり、とつばを飲み込み、間合まあいを保っている。

 先に仕掛けた。すこし赤い顔で店に入り、乱れた呼吸を整えた。

「はい」

 サツキが服を持ってきた。ケイはじっと見つめ、小さく頷く。

 二人は、フィッティングルームへ向かう。

 服を持って中に入り、マスクを外したケイ。カーテンが閉められる。しばしの

 カーテンが開いた。

 白いシャツには、わずかに薄紫のフリル。大きなリボンのついた、紺色のギンガムチェックスカートがよく似合う。

 可愛らしい少女が、長い髪をらさずに立つ。

 リボンはあまり目立たない。ブラウンのカーディガンを羽織っている。

「……」

 ケイは何も言わなかった。

「はい、似合う」

 サツキはまたも、ポーズを取ることを要求。拒否してカーテンを閉めたケイ。

 着替えて、マスクをして出てくる。服を購入した。

 地上に現れたときには、すっかり普段のテンション。並んで道を歩く。

 ケイの家に入る二人。

 今日は父親もいた。髪は普通の長さ。ケイの母親に服を見せる。

「うん。いいわね」

 笑顔になる様子を見て、全員が笑顔になった。

 父親は黙っていた。娘にうながされて話す。軽口かるくちを叩き、母親になだめられる。

 ケイの部屋に入った二人。

 直接的にはゲームの話をしない。アサトやマユミ、ヨウサクやロクミチ、ホノリやユズサの話をした。

 学校のことや、映像作品えいぞうさくひんのこと、世界情勢せかいじょうせいのこと。色々なことを話す。

 ケイは、友人が帰るときに小説しょうせつを一冊貸した。

 昼が過ぎ、深まる夜。

 ケイは、レトロファイトでフレンドの部屋に入る。同じ装備そうびで、同じように戦った。

 普段より、休憩きゅうけいの時間が長い。誰かにメッセージを送っていた。


 第四月曜日だいよんげつようび

 ケイは、制服せいふくで学校に向かう。白い上着に黒いスカート。マスク姿。

 教室へ着くと、すでに空気清浄機くうきせいじょうきの電源が入っていた。

 マスクを外して微笑む。ミドルヘアのサツキと挨拶あいさつ

 優しいホノリと自由なユズサが加わって、雑談ざつだんに花が咲く。

 やんちゃなヨウサクとおとなしいロクミチもやってきて、話は盛り上がる。

 先生の授業が終わり、放課後ほうかご

「結構強くなったぜ、オレ」

「そうだね。ボクよりは強いかも」

 ヨウサクが大口おおぐちを叩いた。ロクミチは謙虚けんきょだった。興味を示すケイ。

「四人の中で一番強いのか?」

「えっと、実はね」

 ホノリが言うのをためらっている。

「実は、一番」

 ユズサがピースしながら言った。

 それじゃ二番じゃね? とは言わなかったケイ。世界大会せかいたいかいに誰が出られるか分からなかったため、それも言わなかった。

 自宅。食事と歯磨き、寝支度ねじたくが済んだ。

 ケイは、ゲーム機の電源を入れる。レトロファイトを起動。

 ヨウサクたち四人の内で、部屋を開いている人がいれば入室。手加減てかげんする。

 四人があの頃のアサトより強いのかは、分からなかった。


 第五水曜日だいごすいようび

 ケイは支度したくをしてマスクをつける。

 教室の前でマスクを外し、教室の中でサツキと会う。

「おはよう」

 同時に言った。空気清浄機くうきせいじょうきは、今日もほとんど音を出さずに動いていた。

 ケイは席につき、当たり前の一日が過ぎていった。

 授業が終わり、放課後ほうかご

「実は、残念なお知らせが」

 ケイが、微妙びみょうな顔で告げた。サツキもつられて微妙びみょうな顔をしている。

「アサトがメンバーに選ばれました!」

 ケイは微妙びみょうな顔のまま告げた。

「さすがだぜ」

「そうだね。妥当だね」

 坊主頭ぼうずあたまのヨウサクは素直にめた。七三分しちさんわけのロクミチも同意どういした。

 みのホノリは嬉しそうだ。

「おめでとう、って言わないとね」

「マユミさんのほうがよかった」

 ツインテールのユズサは、自分の気持ちに正直でした。

 サツキがたずねて、横にれるミドルヘア。

「うーん。もう、誰か選ばれることはないのかな?」

「あとは欠員が出た場合の補欠ほけつ、だってさ。悪い。大口叩おおぐちたたいておいて」

 長い黒髪を揺らして、ケイは謝った。

「気にするな。オレたちが弱いのが悪い」

 ヨウサクが表情を緩ませた。

「ちょっと。みんな弱いみたいな言い方は、どうかと思うよ」

 ロクミチが慌てて、みんなで笑った。

 夜。ケイの家。

 レトロファイトをプレイ中。今日も四人の部屋に入室し、手加減てかげんしていた。

 そのあと、身体からだを動かしつつ世界で戦う。

 休憩のときに、誰かにメッセージを送っていた。


 第五木曜日だいごもくようび

 ケイは、父親と同時に家を出た。父親は左へ。ケイは右へ向かう。

 教室に着くと、空気清浄機くうきせいじょうきの電源が入っていた。

 サツキと挨拶あいさつをして、雑談ざつだんを始める。

 雑談ざつだんにホノリとユズサが加わって、ヨウサクとロクミチもやってくる。

 今日は健康診断けんこうしんだんだった。

 ケイは呼吸器以外こきゅうきいがいに異常なし。体操服たいそうふくから、制服せいふくに着替えた。

 夜。

 髪を乾かして、パジャマ姿になったケイ。

 自室に戻る。TVに、レトロファイトが映し出された。フレンドが開いている部屋に次々と入り、繰り返されるバトル。

 メッセージをやり取りし、楽しい時間を過ごした。

 しばらく世界で色々な装備そうびを試す。寝支度ねじたくを済ませ、ベッドで横になった。


 第一金曜日だいいちきんようび

 教室では、空気清浄機くうきせいじょうきが静かに動いている。

 マスクを外したケイが、サツキと雑談ざつだん。いつもの時間が過ぎていく。

 おはようと言って、ホノリとユズサが加わる。

 ヨウサクとロクミチもやってきて、世界大会せかいたいかいのある月になったと盛り上がる。

 勉強が終わり、放課後ほうかご

 自室でレトロファイトを起動するケイ。

 赤色のボニーと戦いを終えた。フレンドの何人かが、大会たいかいのために出国準備中しゅっこくじゅんびちゅうだというメッセージを受ける。早い人はすでに、大会主催者たいかいしゅさいしゃが用意した、こちらの国のホテルに来ているらしい。

 ホテルの名前と場所を教えてもらう、長い黒髪の少女。

「面白くなってきたな」

 身体からだを動かしつつ、誰かにメッセージを送っている。突然着信があり、変な声を出す。

「もしもし?」

『何してたの?』

「ゲーム」

『夜更かししちゃダメだよ』

「うん」

『眠いの?』

「そういうわけじゃないけどさ、何話していいか分からないんだよ」

 ケイは、まだ通話慣つうわなれしていないようだ。

『普段どおりでいいのに』

「あ。そういえばさ、明日、ひま?」

『新しい服?』

「いや。世界のフレンドが、こっちに何人か来てるらしくて。顔見にいこうかと思うんだよ」

『わたし、邪魔じゃまじゃない?』

「一応、補欠扱ほけつあつかいだし、問題ないだろ。いつでもいいから家に来てくれ」

『わかった。じゃぁ、また明日ね。おやすみ』

「おやすみ」

 ケイは寝支度ねじたくを済ませ、安らかな顔で眠りについた。


 第一土曜日だいいちどようび世界大会前日せかいたいかいぜんじつ

 普段着のケイが家族で食事を終え、父親が出発。

 歯も磨き終わった。

「こんにちは」

 サツキがやってきた。

「いつでもいいとは言ったけど、早くないか?」

 読みが外れたようで、ケイはおどろいていた。

「だって、こっちにいられる時間は限られてるんでしょ? なら、早いほうがいいよ」

「さっさと行くか」

 部屋から出たケイに、お団子だんごヘアの母親が話しかけてくる。

「外で食べてきても、いいのよ」

「そんなに、時間かかるかな」

 悩んでいる。長い髪は揺れない。

「フレンドの人、たくさんいるんでしょ? 時間かかるよ」

 ミドルヘアがれた。サツキの言葉で、気持ちが決まったケイ。

 洗面所から取り出される、歯ブラシとコップ。部屋から肩掛け鞄を持ち出した。

 可愛い服の少女が質問する。

「その服でいいの?」

「いいよ、これで」

 地味な服の少女は即答そくとうした。

 家を出た二人は、灰色の簡素かんそな建物を目指す。

 桜水駅さくらみずえきへ入り、列車に揺られる。右にカーブして進んでいくと、住んでいる町より灰色が多くなった。

 すぐに、幕海駅まくうみえきへ到着。

 会場となる幕海まくうみドームも見えた。正円ではない。三角形に近いクリーム色。そちらには向かわない。

 川と並行している道を歩く。川のほとりには、木々が立ち並んでいる。

 幕海まくうみホテルを探し、すぐに茶色の大きな建物が見つかった。

 ケイが重要なことに気付く。

「しまった。予約的な何かを取ってないぞ」

「フレンドの人を見つけて、なんとかする、とか?」

主催者しゅさいしゃの息のかかった者がいれば、おれ、顔パスだと思うんだけどな。行ってみるか」

 ホテルの中に入っていった。


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