どっちも人間やめてるね

 試合しあいが終わり、アサトは遠回しに攻撃こうげきを仕掛ける。

模範的もはんてきな動きは、僕よりもっと上手いほうが、分かりやすくできると思うよ」

「お前、二人以外にも、5回隙作かいすきつくってるのかよ」

 看過かんかしたケイが聞いた。

「1戦目で試して、相手のほうが強かったら止めてる」

「んー? どういうことなの」

 事情を知らないユズサがたずねた。

 隣に座っているマユミが、答える。

「前に、私とサツキさんを相手にするときは5回隙を作る。と、約束したのです」

「すごいね。それで勝つなんて。ボクはまだそれに気付けないレベルってことか」

 ロクミチは素直に尊敬そんけいした。

 いつもなら突っかかっていくヨウサクは、黙っていた。

「関係ない話するけどさ。いま考えたら、ゲーセンの大会たいかい選定せんていだったんだな、世界大会せかいたいかいの。おかしいと思ったんだよ。何かカード渡されるし」

 ケイは、突然べらべらと喋り始めた。

 アサトはあごに手を当てる。

「ひょっとして、そのカードに、相手の連絡先れんらくさきが書いてあったんじゃ」

「誰にでもミスはある。過去は過去として踏まえ、未来を向いて歩いていこう」

 もっともらしいことを言った、ケイ。

「次も誰か、対戦見せてくれない?」

 ホノリが切り出した。回避したと思っていたケイは、表情が変わった。

「では、私が」

 マユミが名乗りを上げて、ほっとしたような表情になるケイ。

 遠距離重視えんきょりじゅうし戦術せんじゅつ駆使くしする、ヘヴィ一式のロボット。接近されても相手に引けを取らず、勝利しょうりした。

 ヨウサクが、久しぶりに口を開く。

「これ、ランク20のポイント戦だよな?」

「ランクなんて飾りだぞ。サツキなんか、ランク5の時に、12以上の強さだったし」

 ケイは、なぜか自慢じまんげだ。

 坊主頭ぼうずあたまの少年は目をかがやかせている。

「マジでか。戦ってみてくれよ」

「え? 20相手に、いけるかな」

 サツキの声が小さくなっていく。

「私より強いのですから、自信を持ってください。サツキさん」

 つり目気味めぎみのマユミが軽く微笑んだ。

「はいっ!」

 元気よく返事をして、笑いが起きた。

 発売直後のケイのような、初期装備しょきそうびによる接近戦せっきんせん中距離重視ちゅうきょりじゅうしの相手をあっさりと撃破げきはした。

 サツキは、すこし顔を赤くしている。

「うー。緊張した」

大丈夫だいじょうぶだ。接近せっきんしてしまえば有利取れる、なんて言わないから!」

 ケイの言葉で、なごやかな雰囲気になる。

「ちょっと。この前の仕返し? わたしも悪かったね、あれは。ごめん」

 れるミドルヘア。サツキの眉が上がって下がった。ショートヘアのマユミが反応を示す。

「お二人でも喧嘩けんかするのですね。何が原因なのですか?」

「オレたちさ、スルーされそうになったんだよな」

「いや。買い物があることを知らずに、無理に誘ったから。気にしないで」

 ヨウサクの言葉を、ロクミチがフォローした。

 ユズサは容赦がない。

「スルーして、買い物いこうとしたって、言ってた」

「黙っていればよかったのに、っていう話ね」

 ホノリがまとめた。

「なるほど。買い物は重要だからね。ゲーム?」

 アサトはブレなかった。

「もういいよ、その話は。次はおれの番だ。別次元べつじげんの戦いを見せてやるぜ」

 なぜかケイはノリノリで、自分からハードルを上げた。笑みを浮かべている。


「お。フリードリヒいるじゃん。見とけよ。ビビるぞ」

 ケイは、参加募集中の部屋に入室申請をした。すぐに承認しょうにんされる。

 選んだロボットは、ライトタイプ。

 背中の左右と両肩には、マントのような形状けいじょう全方位中距離ぜんほういちゅうきょりエネルギーほうを装備。左手にはビームナイフ。

 ステージは、障害物のすくない平原を選択。

 試合開始。平原。

 相手もライトタイプ。黒い機体で両手とも近接武器きんせつぶき。右肩の装備は大型実体剣おおがたじったいけん

「瞬きするなよ!」

 言い終わらないうちに、フリードリヒが全装甲ぜんそうこうをパージした。

 直進してきた相手に、肩と背中の全砲門ぜんほうもん展開てんかい全方位中距離ぜんほういちゅうきょりエネルギーほうを使う。

 十発以上、かわした相手。ビームナイフを構え、ギリギリで届かない。たまが一発当たり、そのまま次が当たる。沈黙ちんもくした。

「……」

 みんな黙った。

「人間じゃないだろ、こいつ」

 ケイが、心底嬉しそうに笑った。

 2戦目では、お互い同時に全装甲ぜんそうこうをパージした。

 ケイは、中距離武器ちゅうきょりぶきを使わず、相手の出方を見る。不規則ふきそくな動きで翻弄ほんろうし合う両者りょうしゃ

 フリードリヒのナイフ攻撃。一瞬使ったビームシールドではじくケイ。攻撃した相手にすきができている。そして、何もしない。すきが消えてからナイフを振るった。当然のように、一瞬展開いっしゅんてんかいしたビームシールドではじかれる。

「面白すぎるだろ!」

 ケイは楽しんでいた。ひたすら両手の近接武器きんせつぶきで火花を散らす二人。

 だが、次の攻撃。はじくとすぐ、うしろにブーストで離れるケイ。全方位中距離ぜんほういちゅうきょりエネルギーほうを使った。

 相手は数発避すうはつよけてビームナイフをかまえる。そこで当たって、次のたまに当たる。ケイの勝利しょうり

【いい練習になった。が、やっぱりおれはまだダサいな。次も頼むよ】

 フリードリヒからメッセージが届いた。ケイも返す。

【いや、接近戦のあとで弾避たまよけるって人間やめてるよ。また戦おう】

 肩を回して、大きく息を吐く。

「絶対こいつイケメンだよな。さあ、どんどんいこうか」


 その後、紺色のジョフロワと遠距離戦えんきょりせん

 水色に近い青色のダニオと、ジャンプ合戦がっせんをした。

 満足した様子でベッドに座るケイ。アサトが柔らかい表情で見ている。

「どっちも人間やめてるね」

 ケイが怒ると思ったのか、サツキは慌てた。しかし、ケイは落ち着いて言う。

「だろ? こいつらおかしいって。……め言葉だよ」

 途中でサツキの様子に気付き、言葉を付け足した。

「まだまだ、鍛錬が足りないと痛感しました」

 真面目まじめなマユミ。

 クラスメイトが黙っているのを見て、ケイは何かを思いついた様子。提案ていあんする。

「思ったんだけどさ。人数足りないなら、お前たち大会たいかいに出ようぜ」

「おいおい。さすがに無茶だろ」

 さすがのヨウサクもあわてていた。

 何か言いたそうな面々めんめんが言う前に、ケイが続ける。

「大会までに、ゲーセン当時のアサトぐらい強くなれ。っていうか、なれる。それをあっちに伝えて、参加できないか聞く。おれの頼みなら断りづらいだろ」

「でも、やっぱり」

 遠慮えんりょがちなホノリに対して、ケイは腕を組む。

「国産のゲームだから、いいだろ。もう決めた! でも誰が参加できるかは分からないから、期待しないで待っててくれ」

 満面まんめんみを浮かべるケイを、止める者はいなかった。


 当初の予定どおり、昼前には全員が帰宅した。

 カードに書いてある連絡先へ、何かを伝えるケイ。

 そのあとは、母親と娘のおだやかな昼食の時間。

 十代前半の少女は、久しぶりに自室でゲーム以外をして過ごした。

 ケイは運動うんどうをしている。

 おもむろに、レトロファイトを起動した。フレンド達が戦っているのをリストで把握し、にやにやしていた。

「面白いよな」

 すぐに、ゲーム機の電源を切った。

 PCを起動。そのままにして、水分補給すいぶんほきゅうへ向かう。画面には、粒子りゅうしについての記載きさい

 部屋に戻ると、電源を切った。

 小説しょうせつを読み、漫画まんがを読む。勉強をして、合間に身体からだを動かした。

 筋力きんりょくトレーニングをしたあとで、変な声を出しながら、大きくびをする。

 夕食の準備には、まだ早い。

 ケイが台所に行った。母親に料理の作り方を聞く。母親は作りながら説明。見て、聞いた。手伝うことはなかった。

 料理が完成して、父親が帰ってくる。

「やったぞ。極秘ごくひの仕事が入ったぞ」

 開口一番かいこういちばんに、言ってはいけないことを口走る父親。

 母親は、何かを知っているらしい。

「おかえりなさい。まさか、例の?」

「巨大ロボットでも作ってるの?」

 娘は分かっていないらしい。

「来月の、あれ。ケイが参加するなら、会場にフィルターを付けないといけないだろう」

 微妙にぼかしたが、隠せていなかった。母親が言う。

「場所が、分かったのね」

「早めに分かっておいたほうがいいな。あ。カレンダーに丸付けるの忘れてた」

幕海まくうみドームっていう建物みたいだぞ。内緒だからな」

 父親は真面目まじめに告げた。

「ちょっと待って。メモってカレンダーにも書く」

 ケイは情報端末じょうほうたんまつに入力。そのあいだに、父親は二階に行って着替えた。

 二人が台所で合流。なごやかな夕食の時間を過ごす、家族三人。

 歯磨きその他を終えたケイは、自室でレトロファイトをプレイする。

 合間に柔軟体操じゅうなんたいそうを忘れない。

 ポイントは、いつの間にかカンストしていた。

 フレンドが開いている部屋に入り、相手が得意な距離きょり装備そうびで戦う。柔らかい表情をしていた。


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