ランクいくつなんだよ

 第四水曜日だいよんすいようび

 いつものように起きたケイは、あくびをしてから制服せいふくに着替える。

 台所で朝の挨拶あいさつ。父親にただいまと言う前に、昨日早く帰ってきたのを思い出す。

 いただきますと家族で合唱がっしょう。和風の朝食をおいしく食べた。

 ごちそうさまのあと、支度したくをしてマスク姿に。父親と同時にいってきます。

 あわてて部屋に戻るケイ。情報端末じょうほうたんまつを鞄に入れる。

 空気清浄機入くうきせいじょうきいりの袋を持って、普段よりすこし早めに家を出た。

「おはよう」

 家の前にはサツキがいた。

「一人だと、これ、持っていける自信じしんなかったから。悪いね」

 ケイは昨晩、一緒に持っていってくれとサツキに頼んでいた。

「悪くないよ。この場合は、ありがとう、って言うんだよ」

 すこしだけ真剣しんけんそうな顔で言ったあと、サツキは表情をゆるめた。袋の持ち手を一つずつ持ち、歩き始める二人。

 山上学園やまがみがくえんの看板の前に、先生が立っていた。

「ここからは私が持つから。二人ともありがとう」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます。コノハナ先生」

 二人はほぼ同時に言った。二人が笑って、先生は微笑ほほえんだ。

 教室の中。

 一番うしろにあるケイの席の、さらにうしろ。白い空気清浄機くうきせいじょうき起動きどうした。

 音がほとんどしない。改良かいりょうされたのは、フィルター部分だけではないようだ。

「うーん。目に見えないから、どうなっているのか分からない」

 マスクを外したケイが、機械きかいの前で大きく呼吸をした。

 先生が声をかける。

「もし体調が悪くなったら、すぐに言ってね」

「はい」

 ケイは返事をして微笑んだ。

「任せてください!」

 なぜか、サツキも返事をした。嬉しそうな顔をして、教室から出ていった先生。

 席についた長い髪の少女が、隣の席のほうを向く。

「今日の放課後ほうかごひま?」

「うん。どうかした?」

 ミドルヘアの少女は、すでにケイのほうを向いている。すこし首をかしげていた。

「えーっと、なんていうか、服を、さ」

 しどろもどろに話すケイ。

「うん」

 サツキは、にやにやしていた。

 目が泳いでいるケイ。

「一緒に見て欲しいなー、なんて」

「分かった! 行こう!」

 サツキは全力で肯定こうていした。


 授業は午前中で終わり。

 ケイとサツキは弁当を食べ終え、雑談ざつだんをしていた。

 同級生の男子だんしが近付いてくる。

 坊主頭ぼうずあたま七三分しちさんわけの二人組。坊主頭ぼうずあたま男子だんしが前に出る。

「お前、ゲーム強いんだって?」

「世界で一番になるぜ。見とけよ」

 ケイは笑いながら言った。

 同級生の女子じょしも近付いてきた。

 みとツインテールの二人組。みの女子じょしが心配そうにしている。

身体からだ大丈夫だいじょうぶ?」

「ああ。目立っちゃったな、今日。大丈夫だいじょうぶだよ」

 照れながら答えた、ケイ。

 七三分しちさんわけの男子が聞く。

「レトロファイトやっているよね? 前から会話は聞こえていたけど、話しかけられなくて」

「そうだよ。ケイ強いよ。強すぎるよ!」

 全身で強さを表現しようと、大げさに動いているサツキ。

 ツインテールの女子が言う。

「私たちも、いい? そのゲームやってるの。いろいろ教えて」

「よかろう。だが、まずはサツキを倒さなければ、おれには勝てんぞ!」

 ケイはノリノリだ。

 坊主頭ぼうずあたまで口の悪い男子だんしはヨウサク。七三分しちさんわけで丁寧ていねい口調くちょう男子だんしはロクミチ。

 みで落ち着いた雰囲気ふんいき女子じょしはホノリ。ツインテールでふわふわした雰囲気ふんいき女子じょしはユズサ。

 それぞれが自分の名前を伝えて、よろしくと言った。

「よろしくはいいけど、とりあえず歯磨きしてくる。待ってろ」

「わたしも」

 ケイが教室を出ていき、サツキも続いた。洗面所に向かう。

 歯磨きをしながら、ケイがうなる。

「うーん。服、見に行くから、あいつらどうするかな」

「服は、また今度でもいいよ」

「いや、今日だ。今日行くんだ。あいつらは、いつでも会えるだろ」

 サツキは困ったような顔をする。

「服は逃げないから。まずみんなと話をしてから、行けばいいでしょ」

 ケイが観念かんねんしたような表情になる。

「仕方ないな」


 教室に戻った二人。

 校内で情報端末じょうほうたんまつの使用が禁止されている。とりあえず、門の外へ向かう六人。

 ケイはマスクをつけた。

 全員ぜんいん連絡先れんらくさきを交換しあう。遠くに住んでいる人はいない。一旦家に帰ったあと、大通りの公園へ集合することになった。

 道に沿って続く広い公園。立ち並ぶ木々は緑色。桜の時期は過ぎている。

 人であふれてはいない。ちらほらと、ベンチや木陰こかげでくつろぐ人の姿。足元には、緑の絨毯じゅうたんが広がっている。

「ここで答えられることは、ここで答えるぞ」

 男子だんしが二人いるなか、一番地味な服装の少女しょうじょが言った。マスク姿。

 六人で、輪を作るようにならんでいる。芝生しばふの上に座っていた。

 坊主頭ぼうずあたまのヨウサクが、ぶっきらぼうに聞く。

「ランクいくつなんだよ」

「19」

 ケイが即答。すこしだまったあと、ヨウサクの表情が明るくなる。

「すげーじゃん! オレまだ10だぜ」

 なぜか、サツキは笑った。

 七三分しちさんわけのロクミチが聞く。

換装かんそうを使ったキャンセル、って分かりますか? どうも、うまくできなくて」

「ああ。攻撃ヒット時にヒットストップがあるから。それを計算しないとタイミングがずれて、失敗するんだよ。換装かんそうが早くなってすきが消せない、っていうふうに」

 ケイはすらすらと答えた。みのホノリが感心する。

「操作しながら計算してるんだ。すごいね」

 ツインテールのユズサが、手を挙げながら口を開く。

「色変えるの、どうやったら出るの?」

「それは、おれよりサツキのほうがくわしいから、たのむ」

 ケイは丸投げした。あわてているサツキ。

「え? えっと、一人用のモードでね。ゴールまでいけばいい、っていうのがいくつかあって、それで、敵を倒さないでやればいいんだよ」

「言っとくけど、サツキめちゃくちゃ強いぜ。でも、それより強いフレンドいるから、世界は広いな」

 ケイは自慢じまんげに語った。

 そのあとも、色々な話をする六人。驚きの声が上がったり、笑い合ったりした。ケイは心から笑った。

 坊主頭ぼうずあたま少年しょうねんが希望する。

「今度、アサトって奴にも会わせろよな」

「ヨウサクには、まだ無理だろ。あいつ強いぞ」

 にやにやしている、ケイ。

 ツインテールの少女は、アサトに興味がない。

「マユミって人、会ってみたい。格好かっこうよさそう」

「ユズサとは、相性良くない気がするけど、まあ会ってみないと分からないか」

 ケイは真剣しんけんな表情だ。

「ここだけの話。ケイはみんなのことより、買い物を優先しようとしたんだよ」

 サツキがぶっちゃけた。

「おい! それ黙ってたら、おれ、めちゃくちゃいいやつで終わってたのに」

 ケイをのぞく全員が笑い、つられてケイも笑った。

 ホノリがあらたまっておれいを言う。

「今日はありがとう。色々教えてくれて」

「うん。お買い物いってきて」

 ユズサは、すでに手を振っていた。

「今日は、こいつらと遊んでやるよ。悔しいけど、まだケイには勝てないだろうしな」

 ヨウサクがみとめた。

「そうだね。ボクらでできることをやって、上達しよう」

 ロクミチが続いた。

 離れていく四人に向けて、ケイが手を振る。

「じゃあ、また明日な」

「またね」

 白いシャツの上に薄紫の薄手のカーディガンを羽織はおって、クリーム色のスカートをはいた少女も手を振る。二人になった。

「行くか」

「そうだね」

 ケイとサツキは、駅前に向かった。地下街に服屋がある。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る