ありがとう

 地下街にお店はあった。店の外まで並ぶ服。

 上着だけ並ぶものや、上下コーディネートされているもの。かわいらしい。

「……」

 ケイは、まだれていないようだ。ごくり、とつばを飲み込み、間合まあいを保っている。先に仕掛けるのは不利。

 ミドルヘアの少女が手をばすのを察知し、とっさにかわした。

 変なポーズを取る、マスク姿の少女。自分から店の中へと入っていった。

「これなんて、どう?」

 サツキが持ってきたのは、ふりふりふわふわして、ケイには名前すら分からない未知の服だった。

 すぐに首を横に振る。

「もうちょっと、ひかえめで」

 次にサツキが持ってきたのは、細リボンタイ付きフリルブラウス。先ほどのものよりはフリルが主張していない。

「似合うと思うんだけどな」

 ケイはじっくりと見て、首を振った。

「もう一声ひとこえ

「今度こそ」

 サツキが持ってきた。あまり目立たないように、少しだけフリルのついた半袖はんそでシャツ。黒いフレアースカート。

 呟くケイ。

半袖はんそでなら、最悪さいあく、上着で隠せるな」

「決まりだね」

 二人はフィッティングルームへと向かった。

 サツキはそわそわしている。

「まだかなー」

「もうちょっと」

 すこしあとに、カーテンが開いた。マスクは取っている。

「……」

 サツキは目を輝かせていた。

 長い髪の、可愛らしい少女が立っている。

 すこしだけフリルのついた半袖はんそでシャツのすそを、黒いフレアースカートの中にしまって着ていた。

 少女は恥ずかしそうに聞く。

大丈夫だいじょうぶかな?」

似合にあってる!」

 サツキが、力一杯、気持ちを込めて答えた。

 ポーズを取ってみてと言われたケイ。何もせず、カーテンを閉める。着替えて出てきた。

 ケイが服を買う。呼吸をみだすことなく地下から出ることに成功。

 二人はケイの家に行った。

「ただいま」

「おじゃまします」

「いらっしゃい」

 家に入ってマスクを取ったケイは、母親に服を見せた。

 サツキが不安そうに聞く。

「どうですか?」

「きっと、よく似合うわ。ありがとう」

 ケイの母親は、にっこりとほほんだ。

「部屋いこう」

 ケイは照れた様子で、先に向かった。


 昼下がりのケイの部屋。空気清浄機くうきせいじょうきがついている。

「ところでさ」

 椅子に座っているサツキが口を開いた。

 ベッドの横で柔軟体操じゅうなんたいそうをしているケイが、反応する。

「ん?」

「いつ着るの?」

 甘えたような声で聞いたサツキ。

「それは、ちょっと、心の準備が」

 ケイは歯切はぎれの悪い回答をして、身体からだを動かし続けた。

「そうだ。今度、何かの大会があったら、着てよ」

「うーん。分かった。約束だ」

 深く考えていない様子のケイは答えた。

 雑談ざつだんをする二人。

 服の話題から離れたケイは、露骨ろこつ態度たいどが変わった。サツキが微笑む。

「そういえば、みんなとフレンド登録しないとね」

 学校の門の外でやり取りをしたとき、IDも交換していた。

 ゲーム機の電源を入れ、確認。ヨウサクからフレンド申請が届いている。

「てことは、あいつの家で集まって、やってるのかな」

 ケイは、ベッドに座り承認しょうにん。フレンドは九人になった。

 リストを見るサツキの目がかがやく。

「すごい、フレンド増えてる」

「マジ、こいつらヤバイぞ。得意な間合まあいなら、勝てるかどうか五分五分ごぶごぶってところだ」

 言葉の内容とは裏腹うらはらに、心の底から楽しそうな笑顔を見せた。サツキも笑う。

「でも、勝っちゃうんだよね?」

「だから五分五分ごぶごぶ。いや、勝つ。絶対に勝つぞ!」

 ふと見ると、ヨウサクが部屋を作っている。ケイは迷わず入室申請した。

「お手柔らかに、お願いします」

 なぜか、サツキが言った。何かをたくらんでいるような顔で笑う、ケイ。

「フレンドになった、ドリル使いの技を見せてやる」

「ちょっと。最初にわたしと戦ったときみたいに、手加減てかげんしてあげて」

 承認しょうにんされ部屋に入る。

 ケイはエリシャと同じく、全身ミドルで背中にドリルを装備そうび。ステージは荒野。

「見せてもらおうか、少年しょうねん! きみの力を」

 試合しあいが始まり、灰色のケイは手加減した。

 すきをついてドリルをねじ込んだ。結局、ドリルだけを当てて倒した。

 2戦目。ケイは手加減てかげんした。

 開始からしばらくって、換装かんそうすきをなくす戦法せんぽうを使い、ドリルをねじ込んだ。

 相手のすきには、何もしなかった。しばらくして、ねじ込まれるドリル。

【どうだ、少年しょうねん。でも真似まねしちゃだめだぞ。ドリルは難易度高なんいどたかいから】

 試合後の画面。メッセージが送られた。

【強すぎだろ! いつか追いついてやるからな!】

 ヨウサクのメッセージを見て、ケイはつぶやく。

「待っているぞ」

「うん。そうだね。わたしも頑張らないと。じゃぁ、帰るね」

 サツキは立ち上がった。ミドルヘアがれる。

おれも頑張る」

 長い髪がなびき、サツキを玄関げんかんまで見送った。二人は手を振る。

 ケイは自室へ戻る前に水分補給すいぶんほきゅうをして、ゲームに戻った。

 休憩時間に勉強していた。


 パジャマ姿のケイは戦った。世界を相手に戦った。

 合間に身体からだを動かす。

 使用するロボットは全身ライト。装備そうびは、左手にナイフ、右手にビームナイフ。

 1戦目で相手のすきを突く。2戦目で相手が対応するかを見て、動きを変えていた。

 次の相手はランク20。プレイヤー名はキャロル。

 ケイは、装備そうびをそのままに、ステージを選択。荒野。

 試合開始。

 相手の機体きたいは白。腕がミドル、胴とあしがライト。左手にナイフ。右手にソード。

 そして、至近距離専用しきんきょりせんようビームナックルというロマン武器。両肩の装備欄そうびらんを使用して、攻撃時こうげきじ変形へんけい。腕の追加装甲ついかそうこうになる。燃費ねんぴが悪い。

おれも、それにしとけばよかった」

 悔しがるケイ。間合まあいを詰めた。

 キャロルも一気に接近せっきんしてくる。少女は獰猛どうもうみを浮かべた。

 相手はナイフで攻撃してくる。ケイは先読みでビームシールドを一瞬展開いっしゅんてんかいしていたため、それをはじく。相手にすきができた。攻撃しない。

「楽しもうぜ」

 ケイは、すきを見せる状況でナイフを使った。白い相手は一瞬ビームシールドを展開てんかいし、はじく。何もしなかった。

「友達になれそうだ!」

 お互いに換装かんそうを使わず、ひたすら攻める。ミスをしたほうが攻撃を食らう。ひたすら繰り返して、最後にはケイが立っていた。

 2戦目。同時に全力で直進した両者りょうしゃ

 ナイフを使い、クロスカウンターの形になる。ケイは笑った。

 今度はノーガードの殴り合いになる。至近距離専用しきんきょりせんようビームナックルを食らい、ケイは負けた。

 3戦目。一戦目と同じく、ビームシールドを一瞬展開いっしゅんてんかいする人間離にんげんばなれした攻防が続く。

 フェイントを入れつつ、おたがいにダメージを与え合う。

 最後は、ビームナイフが白い相手に直撃ちょくげき。重いヒット音が響く。ケイの勝利しょうり

「なかなか、いいパンチ持ってるじゃねえか」

 ケイは肩で息をしていた。

 試合後の画面を見る。フレンド申請と、メッセージを送った。

【最高だ! 今フレンドにならないと絶対後悔ぜったいこうかいする。お願い!】

 心のままに入力した。そして、承認しょうにんされた。

【ありがとう】

 返事がキャロルから届いた。金髪ロングヘアの、おとなしそうな少女のアバター。

 フレンドは十人になった。

 ケイは、ゲーム機本体のメニューに気付いた。三人からフレンド申請がきている。

【まだ歯が立たないと思うけど、そのうち対戦してください】

 承認しょうにん。フレンドは十一人になった。

【お願いします。身体には気を付けてね】

 承認しょうにん。フレンドは十二人になった。

【よろしく。色変えられるようになった】

 承認しょうにん。フレンドは十三人になった。


 全身ライトで、左手にナイフ。右手にビームナイフを装備そうび

 灰色のロボットで世界と戦い続けた、ケイ。

 ランク20になった。身体からだを動かしながらつぶやく。

「案外あっけないな」

 いまのところ、20が最高ランク。追加される予定はない。

 戦いを繰り返す。まだ見ぬ強敵きょうてきを求めて。

 相手がランク20ばかりではない。まだ、それほど数が多くないようだ。

「とりあえず。ポイント、カンスト目指すか」

 目標を立てて戦っていると、その相手は現れた。ランク20。プレイヤー名はボニー。

 ケイはロボットを変更しない。ステージは荒野を選択した。

 試合開始。荒野。

 相手の機体は赤。全身ライト。左手にハンドガン。右手に中型ちゅうがたハンドガン。左肩に中距離三連砲ちゅうきょりさんれんほう近距離射撃重視きんきょりしゃげきじゅうし機体きたい

「相性悪いな。まあ何とかするか」

 うしろに下がったケイは、すぐに長距離ちょうきょりエネルギーほうを構えた。

 赤い相手は直進して、命中。さらに下がって中距離ちゅうきょりミサイルを発射。また直進してきて、命中。

「紳士かよ」

 接近するまでの攻撃をあえて食らって、相性の差を埋めている。そんな意志いしが感じられた。

 このまま、削り切ることもできる。だが、ケイは接近した。

「練習に付き合ってくれよ」

 ボニーのハンドガンを無視し、ほかの武器をビームシールドで弾く。その隙に攻撃。

 さらに繰り返し、ダメージをかなり受けつつ撃破げきはした。

 2戦目。接近する両者りょうしゃ

 ボニーは、ハンドガンの使用を最小限にして、ほかの武装ぶそう攻撃こうげきする。

 赤い相手は換装かんそうを使わなかった。ケイも換装かんそうしない。ビームシールドではじいたすきにダメージを与え、勝利しょうりした。

「負けた」

 ケイはつぶやいた。

「ハンドガンを使われてたら負けていた。相性の差をくつがえせなかった。まだまだだな、おれは」

 終了後の画面。相手であるボニーのアバターは、金髪ショートヘアで笑顔の女性。

 フレンド申請のメッセージを考えるケイ。しかし、その前に申請がきた。

【あんた、すごいよ。一緒に上を目指そう】

 ケイはくやしそうな顔で承認しょうにんして、メッセージを送った。

【あなたこそ本物の淑女しゅくじょだ。ともはげみましょう】

 フレンドは十四人になった。


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