ぜひまた、お手合わせ願います

「おじゃましました」

 ケイがサツキの父親に言って、足早あしばやに家を出た。サツキが追いかける。

 途中とちゅうで休んでいるケイに、すぐ追いつく。結局、二人一緒にゲームセンターへ向かう。

「どこだ? この辺だろ」

 レトロファイトの筐体きょうたいならぶ銀色のエリアを探し回る、目つきのするどい少女。

 状況が分からないサツキは、おろおろしている。

「もう一回、連絡してみようか」

「いた!」

 ケイの視線の先には、ゲームをプレイしている短髪の少年がいた。今日は黒いシャツ姿。

 明らかに、対コンピュータ戦ではない、はげしい動きをしていた。

 ケイがじりじりと近付いていくと、対戦たいせんが終わる。

「どうも。こんにちは」

 アサトはすずしげな顔だった。すこし背の低いケイが、さらに近付く。

 向かい側から、ショートヘアの少女がやってきた。水色のシャツブラウスを着ている。

「こんにちは。何かあったのですか?」

「こんにちは」

 サツキが遠慮えんりょがちに言った。

 ケイはうろたえている。

「え。ひょっとして、そういう関係なわけ?」

「そういうって、何が? ライバル的な感じ?」

 短髪のアサトは、分かっていないらしい。

「まだ、ライバルとは言えませんよ。無理を言って来てもらいました」

 ショートヘアのマユミも、分かっていないらしい。

 一人で納得しているケイ。

「なんだよ。それなら、最初からそう言ってくれよ」

「なんだかよく分からないけど、良かった」

 サツキは安心したようだ。

「というか、何でここまで来てるんだ? 二人とも遠いんじゃないのか? とりあえず座って話すか」

 ケイが先に歩き出す。四人は、白いフリースペースに移動して座る。


「ぶっちゃけて言うと、そこまで遠くないんだよね」

 開幕かいまくぶっちゃけるアサト。

「方向が同じなので、途中までご一緒しましたが、そうですね」

 マユミも続いた。ケイは眉を下げている。

「何だよ。嘘吐うそついて、まったく。おれなんか嘘吐うそついたことないぞ」

 中年男性ちゅうねんだんせいのアバターを使って嘘をかれまくったアサトは、黙っていました。

 サツキがケイをなだめる。

「まあまあ。ケイだって情報出すな、って言ってたでしょ」

「しょうがないな。まあ、そういうことで。登録しようぜ、登録」

 新しいおもちゃを手に入れて嬉しがっている子供のように、屈託くったくのない表情で情報端末じょうほうたんまつを取り出す、ケイ。

「みんな登録しようか」

 すぐに察した様子のアサトが言った。ケイは反対しなかった。操作に苦戦しているケイには全員がサポートして、四人は連絡先を交換し終わった。

 長い髪をすこし揺らしながら、ケイが疑問を口にする。

「ところで、なんで、アーケードばんやってるんだ?」

「大会で、ミスが多かったので」

 連絡先に河原塚かわらづかという表記が付属ふぞくしている、マユミが答えた。山畑やまはた野々部ののべも続く。

「そうそう。僕も全然ダメだったから、丁度いいって思って」

「だよね。難しいよ。これ」

 ケイは首をかしげる。

れてないだけだろ? 十戦ぐらいでれるだろ」

 皆、何かを言おうとして、何も言わなかった。

 ケイが続ける。

「そうか。アーケードばんやりたかったら、この中の誰かをさそえば、強いやつと戦えるってわけか。一番の問題は相手だからな」

 サツキは口を横に広げる。

「ケイが一人で通って戦ってたら、ネット対戦での噂みたいなことになったりして」

 楽しそうな三人。ケイは、困ったような顔をしながら笑った。

 つり目気味めぎみのマユミが真面目まじめに言う。

「では、アサトさん。もう一試合お願いします」

「はい。お願いします」

 アサトはすぐに答えた。二人が立ち上がる。

 サツキも席を立ち、ケイも続く。

「じゃあおれ、帰るわ。邪魔じゃましたな」

「では、また」

「また」

 再会をちかい、筐体きょうたいのほうへ向かう二人。

「わたしも帰る。ケイ、また明日ね」

 サツキが笑顔で手を振る。二人は自宅へと戻った。


 いつものように、ケイは自室でレトロファイトをプレイしていた。

 オンライン対戦でひたすらポイントを稼ぐ。なかなか世界の強敵には巡り合わない。

 ランクが15に上がったあとで、ランク17の相手と当たる。

「おっ」

 身体を動かしていた少女は、椅子に座って姿勢を正す。

 あっさり撃破した。

 何試合かあとに、別のランク17の相手と当たる。プレイヤー名はジョフロワ。

 ステージは、オーソドックスな荒野を選択。試合開始。

 ケイのロボットは、灰色のライト一式。

 相手は、紺の機体色きたいしょく。左腕のみミドルで、他がヘヴィ。見慣れない装備そうびだった。

 開始直後に下がる相手。

 ケイは、開幕全かいまくぜんパージからの全力ブーストで追いかけた。デコイ使用のすきを突き、ナイフを当てる。

「さて、どうする?」

 ジョフロワは遠距離重視えんきょりじゅうし装備そうび。しかし、距離きょりを取らず、接近戦せっきんせんかまえを見せた。機動力きどうりょく翻弄ほんろうされても換装かんそうしない。

 燃費ねんぴの悪さを、離れた場所でエネルギー回復動作かいふくどうさをしておぎなうはずの、ヘビィタイプ。使っていないパーツのエネルギーを回すことで、やりくりしていた。

 紺色の相手は、ケイのミスに的確てきかくにハンドガンのたまを当てる。

 ケイは冷静れいせいに操作を続けた。手に比べて大きなコントローラーの上で指がおどる。

 機体性能きたいせいのうの差はくつがえせなかった。決定打を当てたのは、ケイ。

 2戦目。距離を取るジョフロワを、今度はパージせずに追いかける。中距離ちゅうきょりミサイルのモーションを見てから、ビームシールドを使い、防いだ時には解除かいじょ

 そのまま接近せっきんし、小細工なしの読み合いを仕掛ける。紺色の機体もおうじた。

 わずかなミスを突く攻防こうぼうが繰り広げられる。激戦げきせんすえに、ケイは勝利しょうりした。

しばりプレイでこれかよ。機体相性きたいあいしょうがいいから勝てただけだな」

 自身も換装かんそうを使わないしばりをしておいて、ケイは素直に相手をたたえた。

 戦闘終了後の画面で、メッセージを作成する。

偶然ぐうぜん機体相性きたいあいしょうが良く勝てただけで、別の装備そうびなら負けていたかもしれません。また戦ってください】

「変じゃないか? これで送るか」

 フレンド申請は許可され、ケイのフレンドは五人になった。

 相手から、メッセージが送られてくる。

【同じ装備そうびでも負けていたでしょう。ぜひまた、お手合てあわせねがいます】

 相手の名前はジョフロワ。白髪で優しそうな顔の、年配男性ねんぱいだんせいのアバターだ。


「あれ?」

 ケイが、水分補給すいぶんほきゅうを済ませて部屋に戻ってきた。

 ベッドの上に放置していた情報端末じょうほうたんまつに、メッセージが届いているのを発見。

【何してるの?】

 漠然ばくぜんとした質問だった。答えは、ひたすらゲーム。

 ケイは何かを考えて、すぐに返事を出そうとしない。ベッドの上をごろごろしている。

【運動とか、してた】

 曖昧あいまいなメッセージを作成し、サツキに送った。

「何だよ、これ」

 つぶやきながら、長い髪の少女は、恥ずかしそうな表情をしていた。

 しばらく情報端末じょうほうたんまつを見つめ、天井てんじょうを見つめたあとで、ゲームプレイに戻る。

 フレンドリストを見ると、トラップ戦術せんじゅつひいでたナイナが部屋を開いていた。入室許可を申請したあと、待ちながら身体からだを動かす。承認しょうにんされた。

 ケイが椅子に座る。ロボットはライト一式。ステージは平原を選んだ。

 1戦目が始まる。

 平原になった。相手の機体は銀色。重量感溢じゅうりょうかんあふれる胴とあしに比べて、腕がすこしだけ軽そうに見える。地形を利用して距離きょりを取り、トラップやデコイを使う戦いを得意とする。

 ケイは一気に接近した。

 換装かんそうも含めた読み合いが続く。換装かんそうすきをなくす戦法せんぽうを使い、ひたすら攻め続けるケイ。

 連続してできない換装かんそう。無理に接近せっきんするため被弾ひだんしていく。なんとか撃破げきはした。

 2戦目。全身パージしたケイは、一気に接近せっきん

 換装かんそうせずそのまま戦う。

 読み合いはケイのほうが上手。機動力きどうりょくも上。しかし、装甲そうこうを外しているため、攻撃こうげきを受けることは許されない。

 ナイナが、換装かんそうで隙をなくす戦法を使い攻める。押し込まれ、ケイは負けた。

「やっぱ強いな」

 3戦目。接近して換装かんそうを使い、終始攻しゅうしせめ続けるケイ。

 銀色の相手も応じる。ケイのペースに乗せられつつも、何度か裏をかき攻撃こうげきを命中させるナイナ。

 お互いにダメージを受ける中、ケイの読みが当たった。最後はケイが勝利しょうりした。

 戦闘終了後の画面。メッセージが送られてきた。

【全然ダメだったよ。またやろうね】

「ブチ切れたオッサンが、これ書いてる可能性があるんだよな。何て返せばいいんだよ」

 ケイは悩んだ。

機体きたいの相性が良くて勝てました。またやりましょう】

 もっともらしいメッセージを送った。可愛かわいい金髪少女のアバターを見ながら、フレンド部屋を抜けた。


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