でも、まさかこんな可愛い子が

 ゲームセンターの一角で、ケイが真剣に言う。

「何か、すごい見られてないか? 分かった! サツキが可愛すぎるからだな」

「ちょっと。違うよ。ケイが強いから」

 本気で慌てているサツキ。

「もうすぐ、次の試合が始まりますよ。観戦しましょう」

 マユミは冷静だ。

 観戦者は立っている。トーナメント表を見ながら呟く、すこし背の低いケイ。

「一応、さっきのが準決勝だったのか」

 参加者は八人。そのうち、Aブロックの一人が決まった。Bブロックで残っているのは二人。

 係の人の指示で、試合が始まる。

 銀色の筐体を挟んで、お互いが向かい合って座る。ロボットのコックピットのような操作システム。

 ステージは平原。

 5番のプレイヤーが選択したロボットは、全身ライト。7番のプレイヤーは、全身ミドル。

 薄い灰色を見据える、灰色。

 5番が、いきなり両腕の装甲をパージ。ブーストを使って接近しつつ、ハンドガンで攻撃する。その合間に右腕の換装準備をした。

 7番は中距離小型ミサイルを撃っている。当たらなかった。

「ああ、そうか」

 ケイが言った。

 5番は右腕をミドルに換装し、小型ガトリングを撃ち込んでいた。

 ビームナイフを構えた7番に対して、ビームナイフでカウンターを入れる5番。

「ごめん。すっかり忘れてた。アサト」

 ケイのすぐ傍に座っている五番のプレイヤーは、反撃確定の行動を取る相手を見逃さない。中型ハンドガンで胴を捉え、撃破した。

 2戦目も、終始5番のペース。あっけなく勝負はついた。

「おい。そこの小学生。ケイさんと、どういう関係なんだ」

 5番の少年は、ケイに向かって言った。

 短髪でグレーのワイシャツ姿。歳は十代前半。顔は悪くない。

「え? どういう――」

 言いかけたサツキを制して、ケイが不敵に笑う。

「小学生じゃないけど、それはまあいいや。俺に勝ったら教えてやるよ」


 係の人が呼び出し、二人は移動した。

 筐体を挟んでお互いが向かい合って座る。覆いのついた横向きの操縦桿二つに、手を伸ばす。

 試合が始まった。

 ステージは荒野。5番の少年が選択したロボットは、全身ライトタイプ。

 ケイの選択したロボットも、全身ライトタイプ。二機とも灰色。

 開幕。胴の換装準備をする相手。対して、ケイは全装甲をパージした。

 ケイが、相手の長距離エネルギー砲を避けつつ接近。

 換装で隙が消える相手。続いて、中距離ミサイルが飛んでくる。

 ブーストに左腕のエネルギーを回して、延長使用して回避したケイ。短距離ビーム砲を直撃させた。重いヒット音が鳴る。

 全装甲をパージすると、2発攻撃に当たれば負けになる。操作ミスは許されない。

 ケイは、機動力の差で相手のミスを誘い、ダメージを与えていく。ナイフに対してナイフでカウンターを決める。ミスした相手を、手堅く短距離ビーム砲で撃破した。

「後がないぞ、少年」

 2戦目。前と違って相手の動きに乱れはない。

 だが、全装甲をパージした素早い動きに翻弄される。細かいミスを重ね、沈黙。

 ケイはノーダメージで勝利した。

「優勝は2番。ケイさんです」

 係の人が告げる。賞品はないはずなのに、なぜか、記念のカードを渡された。

「そこで名前を言っちゃあ、ネタバレよ」

 優勝者のコメントは意味不明なものだった。


「アサト、お前、アバターに似すぎだろ。変えろよ」

 短髪の少年が言葉を返す。

「戦ってみて分かった。間違いなくケイさんだ。でも、まさかこんな可愛い子が――」

 言葉を途中で遮り、長い黒髪の少女が感情をあらわにする。

「お前の目は節穴か! 俺の隣の可愛い子に失礼だろ! 謝れよ」

 理不尽な言葉を浴びたアサト。サツキを見て、すぐに言う。

「ごめんなさい。こんな可愛い子がいるのに、僕は、なんてことをしてしまったんだ」

「いやいや。怒ってないし。ケイも、もういいから」

 恥ずかしそうにする、魅力的な目の少女。

 すこし離れた壁際から近付いてきた、ショートヘアの少女が口を開く。

「話は、まとまりましたか?」

「こんな可愛い子がいたのに、本当にごめんなさい」

 姿を見たアサトが、すぐさま話しかけた。

 マユミは、何のことか分からない様子。

「誰でもいいのかよ、お前」

 ケイは人生で初かもしれない、やれやれといった表情を見せました。


 聞いていた以上に小さな大会だった。

 予想より早く終わって、これからどうしようかと話をする、ケイとサツキ。

「よかったら、フレンドになりませんか?」

 つり目気味のマユミが提案した。

「はい。お願いします。サツキさんも一緒に」

 即行でアサトが言った。

「アサトお前、この野郎! 下心丸出しじゃねえか」

 ケイも即行で言った。

 グレーのワイシャツ姿のアサトは、顎の下に手を添えた。首を傾げる。

「全員、ここから遠いところに住んでるんでしょ? なら別にいいんじゃない?」

 ケイとのメッセージのやり取りを信じていて、遠い所に住んでいると思っているらしい。

「どうする?」

「いいっていうか。わたしとケイが住んでるのって、この――」

「うわあああああああ。マユミはいいとして、アサトに知られたら困るぞ。犯罪的なあれだぞ。ヤバイぞマジで」

 突然叫んで、サツキの言葉をかき消したケイ。

 何かを察した様子のアサト。

「僕が住んでるのは、ここから結構北西のあたりだから。心配しなくていいと思うけど」

 マユミが反応する。

「奇遇ですね。私も北西のほうに――」

「うわあああああああ。何言ってんだよ。ポロポロと情報流すなよ」

 またも突然叫んで、今度はマユミの言葉をかき消すケイ。息が荒くなっている。ふと、何かを思いついたようだ。

「そうだ。俺の家に来るか? 情報端末持ってないから、ここじゃ登録できないし」

 アサトがすぐに答える。

「なるほど。では行きましょう」

「お前はもう登録してるだろ!」

 ボサボサな髪のケイは、ぜいぜいと肩で息をしていた。心配そうに声をかける、天使のようなサツキ。

「ダメだよ、無理しちゃ。休んだほうがいいよ」

「無茶でも、やらないといけないときがある! 勝負して負けたら、さっさと帰れ」

「ダメ。休むって言うまで離さない」

 サツキは、険しい表情のケイを抱きしめた。

 じょじょに呼吸が落ち着いてきた、すこし背の低いケイ。小声で呟く。

「分かったよ」

 そのあと、すっかり落ち着いたケイがマスクをする。

 マユミとアサトには、サツキから呼吸器が弱いことを話していた。すっかり落ち込んだ様子のアサト。

「ごめん。こんなことになるなんて」

「気にするな。言ってなかった俺が悪い。じゃあ行こうか」

 柔らかい口調だった。ゲームセンターの外へ向かおうとする。

 アサトが立ち止まっていることに気付き、声をかけた。

「お前も来るんだよ」


 すこし歩き、正面に海が見える場所を右に曲がる。

 大通りに出た。道を挟んで海側に続くのは、緑に覆われた大きな公園。

 四人は、ケイの家までやってきた。鍵を開けるケイ。

「ただいまー」

「おじゃましまーす」

「お邪魔します」

「おじゃまします」

 ケイは玄関を閉めて、マスクを外した。

 すぐに、お団子ヘアの母親がやってくる。

「早かったわね、ケイ。こんにちは。学校のお友達?」

 こんにちはと言う三人のあとに、ケイが話す。

「さっき会ったばっかりだけど、ゲームで戦ったらもう友達」

 もっともらしい理由に納得した様子の母親。微笑む。

「それじゃあ、お昼用意しないとね」

 マユミが口を開いた。

「いえ。いきなりお邪魔しておいて、そんな厚かましい真似は」

「食べずに行く用事が、何かあるのか?」

 ケイの問いに、誰も何も言わなかった。

「準備するわね」

 母親のあとにケイも続く。

「よし。決まりだ」


 四人はケイの部屋に入った。

 床はフローリング。左手に空気清浄機。そばには小さなテーブル。右手に本棚。近くにはベッドがある。

 部屋の奥には窓。カーテンは開いている。

 窓の右側に、PCが置かれた机と、椅子。左側にはTVと、並ぶゲーム機。壁のうしろはクローゼット。一番手前の取っ手には、カレンダーが無造作に掛けられていた。

「これが、天才の部屋か」

 グレーのワイシャツ姿のアサト。真剣な顔。

「機能性重視ですね」

 制服のようなきっちりした服のマユミが続いた。

「座るところが、ベッドしかないじゃん。座布団、持ってくる」

 地味な服のケイは部屋から出ていき、すぐに座布団を持って帰ってきた。

「ありがとう」

 花柄ワンピースの上に黄色い長袖シャツを着たサツキが、一番に座布団を受け取った。

 ケイが、空気清浄機を稼働させる。

 座布団に全員が座ったところで、ケイを除く三人が情報端末を取り出す。アサトとIDを交換した。

 そのあいだに、ゲーム機の電源を入れるケイ。マユミのIDを入力して、フレンド申請を出した。

 つり目気味のマユミが、表情を変えずに言う。

「百人くらいフレンドがいて、いつも対戦しているのかと思っていました」

「確かに、強い奴と戦いまくれば上達するな。アサトを上手く使えよ」

 ケイはにやにやしていた。

「フレンドは、ゲームごとに変えてるんだって。じゃなくて、アカウントごと? だっけ」

 サツキがケイのフォローをする。

「なるほど。まあ面倒だからね。人間関係が」

 知ったような口を利くアサト。その少年を見ながら、何か閃いた様子のケイ。

「よし。二人と戦う時は、必ず反確行動を5回やれ、一戦で。アサト」

「5回って、全部、直撃食らったら負けるじゃないか」

 アサトの言う直撃とは、クリティカル判定のこと。攻撃は、どこで当てても同じダメージではない。決まった場所と時間に、高威力の判定がある。

「だからいいんだろ。練習になる」

 短髪のアサトは、観念したようで真面目に言う。

「分かった」

 そのあと、ケイがレトロファイトをプレイ。いつものポイント稼ぎをみんなで見守る。

 やっぱり国産ゲームはロマンが分かってるな。パージ自爆を思い出す。などとお喋りしていると、食事に呼ばれた。

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