友達、だもんね
「んー」
ケイは普通に起きた。大きく
朝の
家族で和風の朝食をおいしく食べて、ごちそうさま。
雲で日差しが弱まっていたが、公園も、海も、大通りも
まだ、車も人もすくない
廊下を歩きながらマスクを外して、教室を目指した。
『おはよう』
先に教室にいたサツキと、ほぼ同時に
ケイが荷物を置いて座る前に、隣の席の少女が
「昨日の、あれ、どうなってるの?」
「怒ってる? えーっと、ごめんなさい」
相手のほうに
「怒ってないよ。どういう操作をしたのかなって」
柔らかい表情のサツキ。安心した様子のケイが、説明を始める。
「操作っていうか、まず
サツキが、首を傾げたような仕草で言う。
「それを、相手の動きを予想しながらやってる、ってことだよね」
「まず、相手がこの場面ならこう動くことが多い、っていうデータがないと予想できないから、数を重ねるしかない。あとは
「しばらく、真似するのは無理そう」
「焦らなくていいよ。ゲームは楽しまないと、やってる意味ないでしょ」
すがすがしい笑顔の少女を見て、サツキも目を細めた。
昼休み。
椅子ごと
しばらくして、洗面所に行き、二人で歯磨きをした。
教室に戻ってきたあとで、サツキが話しかける。
「ところで、明日の大会だけど」
「なんだっけ。ああ、場所分からない?」
「そうじゃないんだけど。ちょっと早くわたしの家に来て、そこから二人で行かない?」
理由が分からない様子のケイは、何も聞かずに答える。
「そうしよう。いつ行けばいい?」
「えっとね。9時」
「分かった。……ん。明日はいいとして、今日は? 勉強しない?」
「いいの?」
「自分の復習にもなるし!」
ケイは、右手の
放課後。別々の道を帰っていった二人。
マスクを外したケイが、自室に戻る。クローゼットを開けて
ほどほどに地味な服に着替え、マスクをして出かけていく。
サツキの家の前には誰もいなかった。
ケイは、すこし立ち止まる。チャイムに近付いていく途中で、中から物音がして、
「こんにちは」
「いらっしゃい。上がって」
コーラルピンクの柔らかそうなパーカーを、カットスカートの上部分を隠すように着ているサツキ。
「おじゃまします」
「いらっしゃーい」
声が、家の中のどこかから聞こえてきた。出かける準備をしているらしい。
階段を上り、サツキの部屋に入る二人。
壁は柔らか目な白。茶系で
「文字式の決まり。割り算は、逆数の掛け算にする。同じ文字の
「他にも、いろいろあるみたいだけど」
「重要なのはこれくらい。
サツキの母親が外出した。
勉強は、しばらく続く。そして、
「今日は、しないの?」
ストレッチをしながら答えるケイ。
「ゲーム? 他のことをしてるときに、何か思いつくこともあるし、今は
「わかったー」
返事をしながら、サツキも
「一日一回は、スクワットしないと、落ち着かないんだよ」
「ケイを真似してるけど、
「そういえば、前から気になってたけど、何でレトロファイトを買ったんだ? もっとこう、
「変わりたかったから、かな」
「ん?」
「いやぁ、
深く追求しないケイ。人気について話す。
「ゲーセンのか。悪くはないけど、強い
「明日の大会も、やっぱり、ゲームセンターの機械。だよね」
「多分。そんなに人気あるなら、ちょっと早く行く?」
「うん。あ。そうだった」
サツキが何かを思い出したらしい。
「何かあった?」
「フレンドのマユミさんに、明日のこと、伝えたんだけど」
それを聞いて、ケイは急に語尾を強める。
「ちょっと! 変なオッサンだったら、どうするんだよ!」
びっくりした様子で、しおらしくなるサツキ。
「ごめんなさい。前にケイから、アバターの名前か見た目どっちかは変えるべき、って言われて。そのことをマユミさんに伝えたら、見た目変わってたからいいかなぁって」
ケイの態度は変わらず、腕を組んで言う。
「そんなんで、信用しちゃ
「はい」
「
組んだ腕を下ろしたケイ。その手を
「ありがとう」
こういうとき、どうすればいいか分からない様子のケイが、口を開く。
「そういえば、勉強は?」
「今日は、もういいよ。ありがとう」
サツキが手の力をすこし強め、ケイは固まっていた。
「時間だ。そろそろ」
長い黒髪の少女が言って、ミドルヘアの少女も答える。
「そうだね。明日は、寝坊しないようにしよう」
外に出たサツキに見送られ、マスク姿のケイは帰っていった。
マスクを外し、食事、歯磨き、入浴を済ませたケイ。
レトロファイトで、ひたすらバトルに明け暮れていた。
合間に
白い
すぐ
倒す寸前に腕組みを忘れない。
ランクは12になった。
「こいつらより、サツキのほうが強いんじゃないか?」
フレンドの状態を確認する。サツキはオフライン。
さらに戦いを続け、撃破を重ねる。夜更かしになる前に
ケイは、寝ぼけて
台所でおはようと言い合う。和食を前に、家族でいただきますと
父親がケイに聞く。
「今日、出かけるんだって?
「うん」
「仕事がなかったら、行けたのになあ。こう見えても昔は」
「そうだね。昔はね。でも今は」
その先を覚悟していた父親。何も言われなかったことに、すこし驚いた様子。
「いやあ。できた娘を持って幸せだよ」
話を聞きながら、母親は笑っていた。
食事を終え、父親が会社に行ってすこし
ケイは、歯磨きを済ませて時間を持て余していた。自室でPCをいじっている。
そのあとは、落ち着きなく部屋の中をうろうろする。
母親に見送られて、約束の時間よりも早く、家を出る。
外は曇っていた。
チャイムが鳴って
「早かったね。上がって」
「うん」
ケイは、マスクを外さずサツキについていき、部屋に入った。
「どうしたの? 座って?」
花柄ワンピースの上に、柔らかそうな黄色い長袖シャツを着たサツキ。一番上のボタンだけ留められている。
ボサボサな髪のケイは立ったまま。茶系で統一された部屋の中で、マスクを取る。
「ごめん。昨日は、偉そうなこと言って」
「え? 悪いのはわたしだから、もういいよ」
ケイは正座した。
「よく考えたら、先に、顔も分からない奴の
サツキもケイの前に座る。
「わかった。許した」
「何で?」
そう言うのが
「友達、だもんね」
言ったあとで、さらに笑顔になった。
「天使かよ!」
ケイの
「もう。大げさなんだから」
二人は笑い、
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