正の数はゼロより大きい数
いつからか
大通りを
振り返り、自宅を見つめる。
二階建て。白い壁に黒い屋根。一見地味なようで、玄関やベランダのデザインはお
「見ようとしていないと、近くにあっても
歩き始めると同時に、ぼそぼそ
白い上着と黒いスカートが
マスクを外したケイが教室に入ると、サツキはいない。時間を確認しても、特別早く着いたというわけではない。荷物を置きながら、すこし下がる眉。
時間が過ぎる。そのあいだ、落ち着かない様子で
すこし髪の乱れたサツキが
「おはよう」
「おはよう」
すこし表情が柔らかくなったケイが、
「
手ぐしで髪を整えるサツキ。それよりも乱れた髪のケイが言う。
「遅れてない。むしろ早い、まだ」
「ゲームでね、同じくらいの腕前の人と対戦してたら、つい」
サツキも成長したな。と、ケイは言わなかった。
「へ、へー。てことは、部屋の作り方とかもバッチリなんだ」
「説明書を読め、って怒られそうだけどね」
「うん。そうだよな。やっぱり、同じくらいの相手と戦うのは、面白いよな。うん」
「では、次のページを読んでもらうのは、えーっと」
先生が言ってすぐに、誰かの手が挙がった。
「
長い髪で目つきの
「大丈夫です」
昼休み。
ケイはいつものように、自分の席で弁当を食べていた。
隣の席では、サツキが弁当を食べていた。ケイはちらちらと見ていた。何も言わない。
サツキが先に口を開く。
「今日の勉強、難しかったね」
「ん。難しいところ、あったっけ?」
ミドルヘアのサツキは、椅子ごと
「すごい! いや。分かってるんだけどね。わたしが、勉強できないだけだって」
すぐに勢いが落ちて、しゅんとした顔になってしまう。
「サツキのほうが、すごいよ。
「え?」
「隣にいたのに、気付かなかった。いや。分かった気でいた。自分から動いて変えられる力を持ってる。それに
ケイは真剣な表情。弁当を食べながら、よく分からないことを言った。
「変えたいなら、自分から動かないとダメ、ってことだよね」
「それを教えてもらった。ありがとう」
ケイは、弁当を食べ終えていた。感謝を
サツキは
「それでね。勉強なんだけど、もし、よかったら教えて欲しいなって。何かお礼するから」
「いいけど。あの部屋にいける以上のお礼なんて、あるのか? いや、ない」
腕組みをしながら真剣に
帰宅してマスクを外し、そこそこ地味な服に着替えた、長い黒髪の少女。
再び、マスクをつけ外出。
向かい側に大きな公園。その向こうに海がある大通りを、北西へ進む。途中で左の路地に入る。
すこし進むと、白いワンピースを着た、ミドルヘアの少女が立っていた。
「ドレス?」
ケイは目を
「これは普段着だけど、確か、ドレスになっている国もあるみたい」
サツキが
階段を上がって、部屋のドアを開いた。
「確かに、ここならドレスとして使える……!」
マスクを外したケイが、
ワンピースドレスのサツキは、否定しながらすこし困ったような顔をする。そのあと笑った。
茶系で
「
「さすがに、これは分かるよ」
「6-(-4)=」
「えーっと」
「マイナス4を足すっていうのは、4減るってことだから、その逆のマイナス4を引くっていうのは、4を加えると同じ」
「10」
「ぶっちゃけ、マイナスは強いけどマイナス同士がぶつかるとプラスになる、と覚えてもいい」
「んー」
ワンピース姿のサツキが大きく伸びをした。
「休憩のあいだ、ゲームやっていい?」
ケイは、頭を使ったあとでもやる気満々である。どうやらゲームは別腹らしい。
「しょうがないなあ。いいよ」
笑顔で
「そういえば、アカウント一つだけ?」
「うん」
「これに慣れてると、増やしたら面倒かな。ちょっとサツキの借りていい? ポイント関係ないやつやるから」
「減ってもいいよ。それに、ケイは
「見てないところで勝手にゲームをいじらせると、何をされるか分かったもんじゃないから、お
ケイは、レトロファイトを起動。サツキと一緒に、ロボットの
「腕がライトで、胴がミドル、脚がヘヴィとはロマンだねえ」
「かわいいでしょ」
サツキの言葉を、ケイは理解できなかった。
軽いパーツは
見た目の可愛さを考えたこともなかった。
「一試合だけやる」
と言って、ポイントが
相手のロボットは、全身ミドル。
ミドルタイプの初期装備は、左手に
小型ガトリングは、
ロボットは、
背中に、
「あれこそ完全にロマン」
ケイは、相手の攻撃をすこし
攻撃を受けた相手は、ドリルの
ケイは、うしろに下がりながら、左背中の
ケイは、わざと
「
ケイは
2戦目も、相手は
ゲーム機の電源を切る。
「ロマンを求めるなら、勝つビジョンが見えてないと」
「一人用クリアで使えるようになる武器。すごいけど、全然当たらないね」
戦いをじっと見ていたサツキが口を開いた。
「ドリルは、どうやって当てるのか。まあ、上手い人に食らってから考えよう」
「そう。考えよう! 勉強」
「まずは、
サツキが、
「毎日やってるの?」
「うーん。どうかな。ゲームやってると、同じ
「わたしも、ちゃんと
そのあとも、勉強はしばらく続いた。
「疲れたー」
と言ってテーブルに突っ伏したサツキの頭を、ケイが
「えらい、えらい」
満足そうな顔をする、ワンピース姿の少女。地味な服の少女も優しい表情になる。
勉強会は終わり、ケイはマスクをして家に帰った。
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