俺も若い頃は、それなりにいけたんだが

 放課後ほうかご。ケイの家にサツキが来ることになる。

 サツキの家も学校から近かった。一旦、家に戻って着替えることに。

 しかし、ケイは携帯用けいたいよう情報端末じょうほうたんまつを持っていない。外での待ち合わせはしない方針ほうしんになった。

 マスクをするケイ。

 下駄箱げたばこで、上履うわばきから運動靴うんどうぐつえる。

 ケイは、サツキの可愛らしい靴を見る。すぐに視線をらした。

 学校内では使用が禁止されている情報端末じょうほうたんまつを、門の外に出てから取り出すサツキ。ケイが自宅の位置を示す。

「あとで会おう」

「うん。またね」

 別の方向へと向かう二人。

 自宅に戻ってマスクを外した、長い髪の少女。空気清浄機くうきせんじょうきの電源を入れる。

 落ち着かない様子で、部屋の中をうろうろしている。いつものラフな服に着替えて、なぜか始まるスクワット。

 そのとき、チャイムが鳴った。

 台所にある、カメラ付きインターホンの操作パネルに急ぐ、ケイ。当然のように母親が対応したあと。

「お友達が来たわよ」

 と言われ、複雑な表情を浮かべた。

 玄関げんかんへ向かい鍵を開けると、可愛かわいい服装の少女が、にっこりとする。

「こんにちは」

「こ、こんにちは」

 靴をぐ様子を見つめていた、地味な服の少女。思い出したように玄関げんかんの鍵をかけた。

 来客を、自分の部屋へ案内する。フローリングの廊下を歩き、一つ部屋を通り過ぎて、左側のドアを開けた。

 サツキが思わず声をあげる。

「すごい、綺麗きれい

 わずかな凹凸おうとつ模様もようを作る白い天井以外は、ほとんど木。

 入って左手に空気清浄機くうきせんじょうき。近くには小さなテーブル。右手に本棚。そばにはベッド。

 部屋の奥には窓がある。緑色でチェックのカーテンは、閉められていた。窓の右側に、PC(パーソナルコンピュータ)が置かれた机と椅子。左側にはTVがあり、近くに並ぶゲーム機。

 うしろの壁を開くとクローゼットで、服が入っている。

「ただ、物がないだけで。すごくはない、と思う」

 ケイの言葉どおり、配線やコード類、ゲーム機だけが人の気配を感じさせる。殺風景さっぷうけいな部屋だった。

「片づけ方、教えて欲しい」

「そう言われても、ゲームぐらいしか趣味がなくて、買い物をしてないっていうか。そういう可愛かわいい服も持ってないし」

 地味な服の少女は、話しながら移動。ベッドに座る。

 椅子にサツキを座らせようとしての行動だった。しかし、隣に座られ目を丸くした。

「そうかな。これ、可愛かわいい?」

 腕や身体からだを動かしてたずねる、可愛かわいい服の少女、を見つめるケイ。

可愛かわいすぎかよ!」

 と言ったところで部屋のドアが開く。

「私のことは気にせず、ゆっくりしていってね」

 入り口近くのテーブルに、お茶の入ったコップを置く母親、に注意するケイ。

「ノックしてから入って、って言ってるでしょ」

「ごめんねー」

 という声を残して、ドアは閉められた。


「そうだ。今度、一緒に服を見にいかない? 見るだけでもいいから」

 楽しそうに言うサツキに対して、すぐには答えない。ケイは部屋の入り口近くまで歩き、コップを手に取った。お茶を飲み干す。

「考えとく。それより、まずは今回の目的を」

「そうだったね」

 ゲーム機の電源が入れられ、TVもつけられた。

 サツキが情報端末じょうほうたんまつにメモしてきたID(アイディー)をもと検索けんさくされ、フレンド申請しんせいがおこなわれた。

 メニューを開いて許可する方法を伝える、ケイ。

「これで、対戦後に簡単にメッセージが送れるから、何かあったらすぐ聞けばいい。上手くなったあとの話だけど」

「ふむふむ」

「まずは基本からいくぞ」

「はいっ!」

「そこは、うん、とかじゃないのか? まあいいか」

 椅子に座り、一人用モードをプレイするサツキ。横からアドバイスをするケイ。二人の時間は過ぎていく。サツキは、最初とは別人のような動きができるようになった。

 夕方。ミドルヘアの少女が、大きな目をすこし細める。

「そろそろ帰ろうかな」

「そうか。帰ったら一人用やっとけよ。クリアしてもいいぞ。それと」

「ん?」

「送っていこうか?」

 ケイに言われ明るい表情になったサツキは、すぐ、しゅんとなって呟く。

「ダメだよ。その、ケイは外に出ると苦しいでしょ? だから」

「うん。えーっと……サツキ。ありがとう」

 ぎこちない笑顔の少女に、もう一人の少女は、満面まんめんみで返した。


 食事、歯磨き、入浴を済ませたケイ。フレンドが登録されているのを確認した。

 ゲームごとにアカウントを変えているため、リストにあるのはサツキだけ。オンラインモードをプレイ中の表示はない。

「とりあえず、やっとくか」

 レトロファイト開始。灰色で細身のロボットを選んだ。

 ポイントの上下があるモードで、ひたすら相手を撃破げきはしていく。

 操作しながら、たまに身体からだをひねったり、足首のすじばしたり。スクワットもする。

 試合結果しあいけっか影響えいきょうはなかった。

 プレイヤーはみな、1というランクから始まる。ポイントが一定数貯まれば2に上がる。だが、負け続けてポイントが減ると、ランクを下げることもある。

 増減ぞうげんするポイントの量は、相手とのランク差で変動する。

 ケイは、本腰を入れてプレイしていなかった。まだ、ランク5。

「ランク9かよ。マッチング仕事しろ」

 アサトというプレイヤーが相手に選ばれた。ランク上はかなりの格上。ケイにおくする様子はない。

 ポイントが変動するモードでは、ランクが下のプレイヤーにステージ選択権がある。オーソドックスな荒野を選んだ。


 第一試合が始まった。

初期装備しょきそうび? なんだ、ただの実力者か」

 ライトタイプの初期装備しょきそうびは、左手にハンドガン。右手にナイフ。左手甲ひだりてこうにビームシールド。右手甲みぎてこう短距離たんきょりビームほう。左肩に長距離ちょうきょりエネルギーほう。右肩に中距離ちゅうきょりミサイル。左背と右背中を使用する巨大な可変式実体剣かへんしきじったいけん

 短距離たんきょりビームほうは、格闘用武器かくとうようぶき攻撃持続時間こうげきじぞくじかんが短く、あつかいが難しい。近いほど威力いりょくが高い。

 中距離ちゅうきょりミサイルは相手を追尾ついびする。離れていれば、左右に動いてけることが可能。

 すこし離れた場所で対峙たいじした、二体のシャープなロボット。

 ケイは、右肩の中距離ちゅうきょりミサイルを発射はっしゃする。最小限のブースト使用で回避かいひされた。

 ブーストを使うと、あしのスラスターが全て起動。ホバー移動ができる。別のパーツからエネルギーを回さない限りは、長時間使用できない。

 相手はハンドガンを撃ってきた。射程距離外しゃていきょりがいのため、無視して距離を詰める。

 弾切たまぎれの寸前すんぜんにハンドガンをち返し、敵ロボットの右腕にわずかにダメージを与えた。

 ケイの指が、画面に対応して流れるように動く。

 右肩の中距離ちゅうきょりミサイルを使ってくる、と予想したケイ。左手甲ひだりてこうのビームシールドを使っておく。

 読みどおりふせぐ。すぐに解除かいじょして、一気に接近せっきん

 右手甲みぎてこう短距離たんきょりビームほうで大ダメージを与え、相手の右腕を破壊はかい換装かんそうひまを与えず、ハンドガンでHPを削りきって撃破げきは

「運が良かっただけだな」

 淡々たんたんと言う。2戦目では、相手が学習し対応してきた。接戦せっせんになる。

 少女のほうが一枚上手だった。ケイの勝利。

「なかなかやるな。でも、フレ申請しても、ランク詐欺さぎいい加減にしろ、とか言われそうだな」

 対戦終了後。相手の名前とアバターが表示された画面を見ながら、ぶつぶつとつぶやくケイ。

 アサトのアバターは、少年のような見た目をしていた。閉じられる画面。

 大きく伸びをした。サツキの状態じょうたいを確認すると、オフラインになっている。眠そうな目をしながら、水分補給すいぶんほきゅうのため台所に行く。

 父親が、いつの間にか帰ってきていた。

「おやすみ」

「おやすみ! やったよ、リョウコ。ケイが先に挨拶あいさつしてくれたよ」

「大げさなのね、ツネハルは。全く」

 話し続ける両親を尻目しりめに、ケイは寝支度ねじたくを済ませていく。自室でベッドに倒れ込んだ。


 第二火曜日だいにかようび

 ボサボサ頭のケイが目を覚ますと、朝だった。

 長い髪を手ぐしで適当にととのえる。着替えを済ませ、台所へ向かう。

 おはようとほぼ同時に三人が言い、ケイは席に着いた。

 朝食はパンと、ハムをいた目玉焼きとサラダ。そして、玉ねぎスープだ。パンとスープの香りが合わさりハーモニーをかなでる。

「昨日は、友達が来たんだって?」

「友達というか、まだゲーム仲間のいきを出てない気が」

「ゲームか! おれも若いころは、それなりにいけたんだが」

「お父さん弱いでしょ」

 辛辣しんらつなケイ。

「そんなことはない。ケイが強すぎるだけだ。よくできた娘を持って幸せだよ」

 笑いながら聞いている母親。

 食事が終わる。別々の荷物を持った父親と娘は、家を出て別方向へと歩いていった。父親は左の駅方向へ向かう。

 制服姿せいふくすがたでマスクをした少女は、いつものようにけわしい顔をしていた。

 山上学園やまがみがくえんと書かれた看板の近くまで来る。すこし表情がゆるんだ。

 ケイは、校舎こうしゃに入ってマスクを外す。教室へ向かうと、人の姿が見えた。先に挨拶あいさつする。

「おはよう」

「おはよう!」

 挨拶あいさつを返すサツキ。何か言おうとしていたケイより先に、話し始める。

「一人用、頑張ったけど、まだクリアできてないよ」

「やっぱり、あれだな。おれがいないと、な」

「でも、ランクは2になったよ」

「やるじゃん」

 即座そくざめたケイの表情につられて、サツキも笑顔になる。

「それでね。今度は、わたしの家で、いろいろ教えて欲しいんだけど」

「一人用か」

 即答しなかったため、すこし不安になったのか、首をかたむけながらサツキは聞く。

「ダメ、かな?」

 すぐに首を横に振ったケイが、返事をする。

「ダメじゃない。けど、場所分からないから、学校終わったら教えて」

「うん!」

 全身で喜びを表現するサツキ。ケイは、くさそうに表情をゆるめた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る