第47話 野外訓練⑨ 赤い決意
「シッ!」
鋭い呼気と共に凶刃がリヒトの死角を突いて何度も迫りくるが、魔力で五感を強化しているリヒトはその全てを回避している。
防戦一方に見えるその戦いに転機が訪れる。樹の根か何かに脚を取られたのか、攻撃を仕掛けた
「もらった!」
その隙を見逃さず回避した勢いに任せて開いた胴に廻し蹴りを叩き込もうとした瞬間、フワリとした浮遊感と一瞬の後の衝撃がリヒトの背中を襲う。
――投げられた?! っく!!――
慌てて転がって距離を取ると、さっきまでリヒトの頭があっただろう場所にナイフが刺さっていた。
「……よく避けたな。だがこれで確信した。貴様は俺には勝てない」
「ふぅ……ちなみに何故か聞いてもいいかな?」
呼吸を整えつつ立ち上がったリヒトを男は追撃しようともせず値踏みするように見据えている。勝利を確信した余裕なのか男は静かに口を開く 。
「……貴様は真っ直ぐなのだ。魔力、体力、技術は認めよう。だが実戦経験、特に対人技術は児戯のレベルだ」
確かにリヒトは誰かと命を懸けた戦いをしたことはない。殺しのプロからすればオママゴトだ。
「……だからあんな見え透いた罠にかかる。そして今も命を狙う敵と会話をしている」
その瞬間、リヒトはゾクリとした感覚から慌てて横に飛びながら視線を向けると、ナイフを降りぬいている
「幻か!」
――忍者かよ!――
「カンの良さに救われたな」
声と共に放たれた蹴りの重い一撃がリヒトを襲う。
――なんとかガードしたけど……これ折れてるなぁ
蹴りを受け止めた左腕は力なくダランとぶら下がっている。
「……終わりだ。忍法葉刃乱舞……」
やっぱり忍者なのかよ! 場違いにもそんなことを思ったリヒトの周囲を数え切れないほどの木の葉が舞い散り、鮮血が吹き上がった。
――私はっ!またアイツに助けられた!――
闇夜を疾走しているセシリアの瞳は怒りに彩られている。不甲斐ない自分に対してだ。
――アイツに負けてから今まで以上に稽古した!アイツに追いつくために!アイツの隣に立つために!――
木の枝が頬を切り、足の裏はすでに小石でボロボロだ。
だが彼女は速度を緩めることもなく前だけを見ている
――アイツが足手纏いだと遠ざけるなら、もっともっと強くなる!私はアイツの……リヒトの傍にいたいんだから!――
鼓動とともに高まる魔力がまるで火の子のように煌き、赤い髪を輝かせる。
「!! 邪魔だぁぁぁぁ!!!」
目の前にそびえる大木に対して振りぬいた拳は烈火を纏いつつ彗星のような速度で着弾し、大木は粉々に弾け飛び燃え尽きた。
その結果を気にも留めず一本の赤い矢の如く前へ前へと駆け抜けていく
残されたのはプスプスと煙を上げる木片と
「……あの子を怒らせないほうがいいですわね」
後を追って今の光景を見ていたロゼの声だけであった。
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