第45話 番外編 謹賀新年②

 客間を開けると暖炉の前の長椅子に3人の少女が座っていた。

「みんな明けましておめでとう」

 リヒトの声に談笑していた少女達が振り向く。


「明けましておめでとう! 遅かったじゃない!」

「明けましておめでとうございます。そうね。セシリアったら随分ソワソワしてたものね」

「クスクス。明けましておめでとうございますリヒト君」


 客間にいたのは想像通り、なんだか慌てているセシリア、それをからかうロゼ、楽しそうに笑っているソフィアの3人だった。


「わざわざ来てくれてありがとう。寒かったんじゃない? セシリアなんて顔真っ赤だよ?」

「う、うるさいわね! ちょっと近くまで寄ったからついでに顔を出しただけよ! あくまでつ・い・で!」

「なーんて言ってるけど本当は呼び鈴を鳴らす勇気がなくてウロウロしてたくせに」

「痛っ! ちょ! ロゼ! なんで見ていた様に言うのよ!」

 ふんぞり返ろうとしたのにロゼの一言で盛大に転んだセシリアは頭をさすりながら涙目で睨みつけている。


「だって見てたもの。ね? ソフィア?」

「うぅ。私に振らないで……はい。私達が来たときには門の前をウロウロしてました……」

「ソフィア! あんたまで!」

「抜け駆けしようとするからよ」

「そうです。セシリアさんも誘おうと家に伺ったら出掛けたといわれましたし」

「ぬ、ぬ、抜け駆けってな、何のことかなぁ?」

 リヒトは3人でコソコソ小声で小突き合っている少女達にハテナマークを浮かべながら

「ねぇ。何を揉めてるの?」

「「「なんでもないです!」」」

 急に振り向くと笑顔で妙に息の合った声が部屋に響いた。




「それで、みんなはこの後なにか用事があるの?」

 リヒトの問いかけに

「私はこれから新年のパーティーね。軍部のお偉方が集まるのよ。よ、良かったら招待してあげてもいいいわよ?」

「私は特になにもないわ。両親は仕事で外国に行っているし」

「わ、私もなにもないかな。お祖母ちゃんの家に挨拶に行くのは明日だし」

 各々の答えを聞いたリヒトは

「そっか。パーティーも気になるけど……ロゼとソフィアは用事がないんなら一緒に初詣に行かない?」

「ハツモウデ? 初めてきいたわ。何かしら?」

 博識なロゼが知らないということは本当にこの世界にはそんな風習がないのかもしれない。


「初詣っていうのは遠い異国の行事なんだけど、新年の始まりに神様に挨拶にいくんだ。無病息災や抱負なんかを御参りににね」

「へぇ。なんだか異国の行事なの……面白そうね」

「はい! 私も行ってみたいです!」

「よし! ノアが準備しているみたいだし2人共一緒に行こうよ」

 そんな楽しそうな空気に

「コホン! わ、私も行こうかなぁ。パーティーなんて毎年だしお父様がいればいいんだから」

「いや。無理しなくていいよ。大事なパーティーなんだろ?」

「そうよ。セシリアは次期当主なんでしょ?」

「行くったら行くの! もう決めたから! セバスさーん!」


 言伝を頼みに慌ててセバスを探しに走り去っていくセシリアを待つ間、残されたロゼとソフィアはリヒトに初詣について詳しく話を聞くのだった。



「お待たせ! ウチはこれで大丈夫! さ! 行きましょ!」

「ちょっと待ってよ。肝心のノアが朝から見当たらないんだ」

「あら。それじゃあ行き先がわからないわね」

 言いだしっぺがいないのでは話にならない。

「話は聞かせて頂きました」

「うわっ!」「「「キャッ!」」」

 いきなり背後から声がしてリヒト達が飛び上がるとそこには……

「……えーとノアさん? その格好は……いや正月だから言いたいことはわかるけど……どこから持ってきた?」

 そこには艶やかな振袖姿のノアが立っていた

「うふふ。内緒です」

 どうせ日本に行って来たのだろう。だから姿が見えなかったのかと頭を抱えているリヒトとは正反対に、女性陣は瞳を輝かせて


「うわぁ綺麗! その不思議な服は何なのノアさん?」

「本当に綺麗……模様は刺繍かしら。凄く手が込んでいるわ。芸術作品みたい」

「ほんとですね。初めて見ました」

 そんな声にノアは得意そうに

「これは振袖……和服と呼ばれるものです。遠い異国のものですよ。折角初詣に行くんだからその格好にしてみました。よろしければみなさんの分も御用意しましょうか?」

「え?! いいの? 着たい着たい! ね? みんな?」

 セシリアの声にコクコクと頷くロゼとソフィアを見てノアは微笑むと一礼し、

「では折角ですから髪型も和風にセットして……リヒト様? もう暫くお待ち下さいね。あ、これをどうぞ」


 そう言い残すと女性陣はリヒトを残して客間を出て行ってしまった。


「……まぁいいか。着物姿のみんなを見てみたいし。年に一度の正月だ」

 そう呟くとノアに渡された袋の中身を見て微笑むのであった。



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