第44話 番外編 謹賀新年①


「うぅ……寒いなぁ」

 澄み渡る青空の下、庭に出てきたリヒトは刺すような寒気に肩を震わせ思わず呟いてしまう


「甘酒でも飲みながら炬燵に入ってボーっとしてたいよ……」

「お、起きてきたか。おはようリヒト。開けましておめでとう」

「クスクス。お休みだからって随分ゆっくり寝てたわね。」

 庭ではカイルが鍛錬、エミリアが花壇の手入れをしているところだった。


「明けましておめでとうございます。父様、母様。今年もよろしくお願いします。」

「あぁ。よろしくな」

「よろしくね。そうそう、ノアを見なかったかしら?」

「ノアですか?」

 そういえば真っ先に出迎えそうなノアに会っていない。そう思いながら首を傾げているとエミリアは思いもよらない言葉を口にした。


「なんだったかしら……ハツミュウディ? とかいうものに行くって昨日の夜から張り切っていたのよ」

「初詣?!」

「そうそう。ハツモウデ。なんなのかしら? ノアは東洋の儀式みたいなものって言っていたけれど」

 

 一瞬、またあの女神のせいで新年早々面倒なことになりそうだと肩を落としかけたリヒトだったが、まぁ初詣くらいならそんなに変なことも起きまい。多分自分のためにわざわざ日本の風習を行ってくれるのだと思い直した。


「皆様、御揃いで。リヒト様。正門にお客様が見えておりますよ」

「セバス! 明けましておめでとう。僕にお客?」

「おめでとうございます。客室にお通し致しますので」

「すぐに行くよ。ありがとう。今日は寒いからお茶も用意してくれるかな?」

「かしこまりました。」


 腰を折って一礼するとセバスは屋敷に向かって踵を返していく。その後を追うようにリヒトも屋敷に戻ろうと歩き出そうとすると、

「そうそう。リヒト様、しっかり身なりを整えてからの方がよろしいかと。お客様は大変お美しいお嬢様方でしたよ」

「……へぇー。そう。女の子ねぇ。女の子がリヒトを訪ねて来たのね。それも複数の。」


 背後から聞こえてきた凍てつくような声色にリヒトは、

 ――やっぱり面倒なことになりそうだ……

 心の中で呟きながら決して後ろを振り返らずに聞こえないふりをしながら、逃げるように屋敷に向かって走り出した。

 

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