第42話 野外訓練⑦ 邂逅
――あそこよ。あの大木の所。
風に導かれながら森の中を駆け抜け、ようやく二人の姿を視界に収めた。
――ここからは俺も声は出さない。どこに襲撃者がいるか解らないからな。
――わかったわ。でもおかしいわね……風に聞いてもあの二人以外の気配を感じないわ。
――おそらく何かしらの阻害を使ってるんじゃないか?俺が風魔法を得意としてるのは知れ渡ってるだろうし。
なるべく気配を殺したリヒトは視力強化した瞳を暗闇に向ける
――セシリアとロゼは生きてるな。縛られて意識がないみたいだが呼吸はしてる。
――この暗闇でよく見えるわね
――魔力で虹彩を強化してるから星の光があれば見えるよ
――こうさい? 良く解らないけど便利ね
さてどうしたものか。明らかに罠だろうし、無闇に飛び出して行っては思う壺だ。そう思案していると、
――ねぇリヒト。まずいわよ
――どうした?
――血の匂いに誘われて獣がやって来そうよ。今は風を制御して匂いを飛ばさないようにしてるけど……嗅ぎつけられるのも時間の問題だわ。
――……考えてる暇はないか。
まごまごしていて獣に襲われでもしたら面倒なことになる。ならその前に二人を救うだけだ。
そう決めたリヒトは襲撃者がどこから襲ってきても対処できるように神経を研ぎ澄ませて木々の間から踊りだした。
「セシリア! ロゼ! 無事か?」
襲撃者を誘うようにあえて大声で呼びかけると、
「リヒト? 罠ですわ! っ危ない!」
いつの間に眼を覚ましていたのか、ロゼがうかつだとでも言いたそうにリヒトに叫んだ瞬間、リヒトの背後から風を切る音と共に、ナイフが飛来した。
「解ってるさ」
そう言いながら振り向きもせず飛んできたナイフを指の間に挟んで受け止めたリヒトに、静かな声が闇から響いて来た。
「ほう。見もしないとはな。やはり一筋縄ではいかないか」
「お前が二人を攫ったやつか? 女の子を人質に姿も見せない卑怯者は絶対に死角を突いてくると思ってたからな」
「そんな安い挑発には掛からんさ。……リヒト・フォン・パイシーズ、個人的な恨みはないが死んでもらう」
「リヒト! 相手は
「アサシン? なるほど。俺を殺すように何処かの誰かに依頼されたのか」
「……依頼は絶対だ。たとえ相手が子供だろうと容赦はしない……だが安心しろ、あの二人は依頼に入っていない。命は取らんさ」
「それはそれは仕事に忠実なことで。 ……聞きたいこともあるし、とりあえず無力化させてもらう!
リヒトが風の弾丸を声が響いて来た方へ放つが、手応えはなく、代わりに何本ものナイフが四方から飛来する。
「くっ。さすがプロ。的確に死角を突いてくるな」
「貴様もたいしたものだ。俺のナイフを全て避けるとは……だが、これならどうだ?」
その声と共に一本のナイフが飛来する。
ワンパターンなやつだと避けようと思った瞬間に気付いてしまった。
「ぐっ……」
「リヒト!」
そう。あそこでリヒトがナイフを避けると、縛られているセシリアかロゼに当たる軌道だったのだ。
「……やはり貴様は子供だな。自らを盾にしたか……だが急所をとっさに外す体捌きは見事だ」
「リヒト! 大丈夫ですの?」
「腕に刺さっただけだ! このくら……ぃ?!」
急所を外したはずだが、急な眩暈に襲われグラリと身体が地面に吸い込まれそうになる
「……だが急所を外そうが当たればそうなる」
「毒……か」
――灼熱感はない。呼吸も問題ない。平衡感覚だけか……
「リヒト!」
「恨むなら恨め……」
その声と同時に飛来したナイフを見て、ロゼは悲鳴と共に視界を閉じた。
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