第34話 学院での日常②

本文


「リヒト! 約束覚えてるでしょうね?」

 教室に入ったとたんにセシリアに声を掛けられる。


「おはようセシリア。お昼でしょ?覚えてるよ」

「そ。ならいいわ」

 そう言うとウキウキした様子でクラスメイトの女子と話しに戻っていく。


 ーー俺と昼食がそんなに嬉しいのか? 不思議な子だな

 首を傾げながら自分も座席に向かうと後ろの席から話し掛けられた。



「なぁなぁ。お前とお嬢仲良いけどつき合ってるのか?」

「お嬢?」

「セシリアだよ。あの容姿であの強さだ。狙ってる男子は山ほどいるが袖にされて泣いた男子も星の数さ」

「別に付き合ってないよ?」

「そうは見えないけどなぁ。あのお嬢がお前と話しただけであの笑顔だぞ」

 

ーーお嬢といわれると極道の娘のイメージしか湧かないな。確かにお父さん怖かったし。

 それにしてもセシリアってモテるんだな。確かに美人でサバサバしてるけど戦いになると狂犬なのに

 

などとセシリアに知られると烈火のごとく責められる事を考えつつクラスメイトと雑談に興じたリヒトであった。




 授業合間、リヒトはBクラスの前にいた。

 ソフィアも昼食に誘おうと思ったのだ。

 

ーー違うクラスって入るの緊張するよなぁ

「……あのー」

「ん? お前は! パイシーズ! なにしに来た?!」

 ーーなんでこんなに喧嘩腰なんだ?


 リヒトが戸惑っていると、

「お前らAやSは俺たちBを見下してるんだろ」

「何のこと?」

 リヒトが首を傾げていると、男子生徒はさらにヒートアップしていく。


「白々しいな! 序列1位が!」

「やめて!」

 今にも殴りかかろうとしていた瞬間、珍しくソフィアが声を荒げて走ってきた。


「ソフィア! お前こいつを庇うのか?」

「リヒト君は私の……友達よ! 行きましょう!」

 そう言うとリヒトの手を引いて教室から遠ざかり、人気のない所まで走っていく。


「ちょ、ソフィア?」

「あ……ごめんなさい。急に引っ張ったりして……」

「いや、それはいいんだけど……さっきのどういうこと?」

「……彼の言った通り、私達Bクラスは他のクラスにバカにされてるの」

「は?」

「Sの人達はそんなことないんだけど……Aクラスの人達は……」


 ――なるほど。Sには敵わないから自分よりクラスが下の相手を標的にしてるのか……確かにBクラスには平民出身者が多いけど貴族の安いプライドだな


 だが、俺が出てはBクラスの生徒達の怒りや猜疑心は拭えまいと、ふつふつと湧く怒りをぐっと堪えるのだった。


「そうだったのか。知らなかった……」

「……ううん。リヒト君がきにすることじゃないわ……それでBクラスに何か用があったの?」

「あぁそうだった。実は……ソフィアを一緒に昼食に誘おうと思って」

「……え?」

「最近話せてなかったし、セシリアも一緒に中庭で食べるんだけど……どうかな?」


 リヒトの誘いを受けて戸惑ったように考え込んでいたがやがて首を縦に振ってくれた。

「良かった。じゃあ昼休み中庭で」

「……うん。 誘ってくれてありがとう。……また後でね」


 そう言うとソフィアは遠慮がちに微笑むと手を振りながら戻って行った。



 ――――キーンコーンカーンコーン

「リヒトっ」

 午前の授業が終わった瞬間隣からセシリアが声を掛けてくる


「わかってるってば。セシリアそんなにお腹空いてるの?」

「ち、違うわよ! あなたは放っておくとフラっと一人でどこか行っちゃうじゃない!」

 ――人を糸の切れた凧みたく言うなよ。


「まぁいいや。行こうか」

「うん!」

 ニコニコして隣に並んでくるのでそのまま教室を出て行った。


「おい。見たか?」「あのお嬢が……」「くそ! 羨ましい!」「もーセシリアずるい」「私だってリヒト君と歩きたい!」

 残されたクラスメイト達は今日も平常運転であった。



「着いたよ。意外といい所でしょ?」

「そ、そうね! 悪くないわ!」

 生徒もあまりおらず、木々のざわめきと鳥達の楽しそうな鳴き声が響く静かな一角だった。


 リヒトと二人きりになったせいか挙動不審なセシリアに気付かずリヒトは辺りを見回している。

「ね、ねぇリヒト。わ、私ね……お弁当作りすぎちゃって……良ければ、本当良ければなんだけど……」

「あ! ここだよー」

 セシリアがモジモジしているのを尻目にリヒトが手を振っているので訝しげに後ろを振り向くと


「……ごめんね。遅くなっちゃった」

「ううん。僕達も今来た所だから。改めて紹介するよ。この子がセシリア」

「……初めまして。ソフィアです」

「ふ……」

「ふ?」

 リヒトが不思議そうに俯いているセシリアを覗き込むと、ガバっと頭を上げ

「二人きりじゃなかったのーーーーー?!?!」

 空に向かって叫んだセシリアの声で鳥達が慌てて一斉に飛び立った。




「はぁはぁ……」

「せ、セシリア?」

「……あの。やっぱりお邪魔でしたか?」

「はぁ……ううん。ごめんね。このバカに少しでも期待した私が愚かだったのよ。」

 ――バカって俺のこと?!


「ビックリさせてごめんね。私はセシリアよ。宜しくねソフィア」

 笑顔で手を出すセシリアにソフィアも遠慮がちに手を差し出す


「さぁ。一緒に食べましょう」

「あ、リヒト君も……」

「いいのよ。あんなバカ放っておきましょ」

「おーい。セシリアさーん。」

 慌てて追いかけるリヒトであった。



「うわぁ。セシリアさんのお弁当美味しそう」

「好きなの食べていいわよ。作りすぎちゃったから」

「本当だ。美味しそう。自分で作ったのか?」

「あんたの分はないわよ」

「なぜに?! ていうかそろそろ機嫌直してよ……」

「……はぁ。仕方ないわね。……いいわよ食べて」

「やった!」

 お許しを貰ってサンドイッチを頬張るリヒトを見てソフィアがクスクス笑っている


「? どうしたの?」

「クスクス……ご、ごめんなさい。お二人がとても仲が良くて羨ましくて」

「「どこが?!」」

 ハモッてしまう二人に再度ソフィアが笑い、釣られてリヒト達も笑うのだった。



「あぁ美味しかった。御馳走様」

「おそまつさまでした。ソフィアも美味しかった?」

「もちろん! それにこんなに笑ったの久しぶり……最近クラスがギスギスしてるから」

「そうなの?」

「セシリア。実は……」

 首を傾げるセシリアにリヒトが先程Bクラスであった顛末を伝えると


「はぁ?! 何それ?!」

「落ち着こうよセシリア」

「あんたこそなんでそんなに落ち着いてられるのよ?」

「僕だって何かしてあげたいさ。でもここで僕らが止めても何の解決にもならないじゃないか」

「……確かにそうだけど……」

「だから悔しいけど見守らなきゃ……でもソフィア。何かあったら頼ってよ?」

「そうよソフィア! 私も出来る限り力を貸すわ! 友達なんだから!」

「……二人とも……ありがとう……」


 そう答えたソフィアの瞳には涙が浮かんでいたが、顔は笑みで包まれていた

 三人はそれから暫しくだらないことで笑い合い、各々また一緒に過ごすことを約束して教室へ戻って行った。




 事件はそれから数日後に起こってしまったのだった。


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