第35話 学院での事件


 リヒト達が三人で昼食を食べた日から数日後、帰宅しようと準備していた矢先に教室の扉が勢いよく開き一人の男子生徒が飛び込んできた。

「はぁはぁ。ぱ、パイシーズ!」

「え?」

 

顔を向けると見たことのある男子だ

 ――えーと……あ!

「君は確かBクラスの前で会った……」

「あぁ。あの時は本当に申し訳なかった。だが恥を忍んでお願いがあるんだ!」

 あのプライドの高そうな男子が頭を下げるのでどうしたものかと口を開きかけたところ


「何? また何かやらかしたわけ?」

「……セシリア。僕を何だと思ってるの?」

「どうでもいいわよ。で? どうしたの?」

「君は……序列二位の……丁度良かった。出来れば聞いて欲しいんだ」

 そう言うと男子生徒はぽつぽつと語り始める。



「実はさっきAクラスの奴らがうちのクラスをバカにしてて……」

 ――この間こいつが食って掛かってきた話か

「最初は口喧嘩だったんだが、エスカレートしたあいつら魔法を撃ってきやがって」

「何それ。バカじゃないの?」

「セシリア。最後まで聞こうよ」


 リヒトが話を促すと

「このままだと怪我人が出るってソフィアが止めに入っ……」

「「ソフィア?!」」

 リヒトとセシリアの声が重なった。

「場所はどこだ? 教室か?」

「え?」

「その喧嘩はどこでやってるんだ!」

「こ、校門の辺りだけど」

「わかった。行くぞセシリア」

「当たり前でしょ」


 飛び出そうとするリヒト達に男子生徒はうろたえながら

「い、いいのか? もとは俺達の……」

「友達が巻き込まれてるんだ。関係ない!」

 そう答えると校門へ向けて走り出した。



「ほらほら。さっきまでの威勢はどうした?」

「くっ。お前ら卑怯だぞ」

「はぁ? Bの分際で俺達Aに楯突いたんだ。当然だろ?」

 ギャハハ。そうだそうだ。Bのクズ達が。


 下品な笑い声と嘲りが響く中、

「……私達がクズなら、それをバカにしてるあなた達はもっとクズね」

「あぁん? なんだテメェ。誰に言ってる?」


 泥だらけになりながらもソフィアの眼差しは射抜くようにAクラスの面々を映している。

「……自分より弱い人にしか強く出られない腐った貴族に言ったのよ」

「なんだとコラ!」

 激昂した男子生徒の拳がソフィアの頬を打つ


「おい……ギル。アイツたしかあれだぞ。パイシーズのお気に入りだ」 

「ふん。パイシーズに気に入られてるからって調子に乗ったな!」

 ギルと呼ばれた男子はソフィアに狙いを絞ったようだ。


「……リヒト君は関係ない。これは私達の問題」

「ほぉ。そうか。関係ないか。ならこれからされることも関係ないよなぁ?」

 下卑た笑いが辺りから巻き起こりソフィアに馬乗りになる。


「ほら。泣いて許しを請えよ。じゃないと傷物だぞ」

「お、お前! 学院でこんな事して……」

「バカが! クズのお前らと違って俺の家は子爵家だ! どうとでもなるのさ!」


「さぁ。どうする? よく見たらお前美人だな。俺の女になるなら他のやつらも許してやるぞ?」

「……ぺっ」


 馬乗りにされながらも唾を吐きかけるソフィアにギルが手を上げる

 バシっと乾いた音が響く中、ソフィアの制服に手をかける

「お、意外と着痩せするタイプだな」


 歯を食いしばり涙を堪えながらも睨んでいるソフィアに嗜虐心を擽られたのか下卑た笑いを浮かべながらスカートに手を入れようとした瞬間一陣の風が吹き抜ける


「ぎゃああああ!!」

 ギルの悲鳴が木霊し右手を抑えながら尻餅をつく

「手! 俺の手がぁぁぁぁ!!」

 ギルの右手から血が迸り手首から先が離れた所に落ちているのだ


 騒然とする中、心から凍えそうな声が響く

「……お前ら。何をしているんだ?」

「ぱ、パイシーズ……今のは……」

「セシリア。ソフィアを頼む」

 コクリと頷くと視線で人が殺せそうなほどギルを睨みつけながらソフィアの介抱に向かう。


「お、俺の手ぇぇ」

「……自分より弱い、しかも女の子に上げる手なんかいらないだろ?」


 冷たい目で見下ろすリヒトに泣きながら

「お、俺にこんなことしてタダですむと……」

「お前こそ俺の友達に手を出してタダですむと思ってるのか?」

「お、俺は王族にも顔が利くんだぞ」

「関係ないさ。さぁ次はどこを飛ばして欲しい? そのよく回る口でも切り裂こうか?」

「ヒッ……」

 リヒトの静かな怒りと吹き荒れる魔力にとうとうギルは股間を濡らしてしまった。


「……リヒト君。私は大丈夫だから……」

「ソフィア。……はぁ。おい! ソフィアに感謝しろよ?」

「ぐ……お前ら……くそっ」


 右手を失い、バカにしていた者たちの前で失禁したのだ。ギルのプライドはズタズタだった。

 走って逃げていくAクラスの面々を恨めしそうに睨みながらギルも逃げていく

「おい! 忘れ物だぞ!」

 そう言うとリヒトは風魔法で切り落とした手を投げつける

「綺麗に切断してやった。この学院の治癒術師ヒーラーなら繋げてくれるさ」

 その言葉を聞いて慌てて自分の手を拾うと走り去ってしまった。



「……リヒト君。ごめんね」

「なんでソフィアが謝るのよ! あいつの自業自得よ! 本当なら私があいつの○○○を切り落としてるところよ! リヒトは甘いんだから!」


 セシリアの怒りは収まっていないようだ

「……セシリアもありがとう。私のために怒ってくれて」

「な! と、当然じゃない! と、友達なんだから……」

「……うん。本当にありがとう」

 真っ赤な顔をするセシリアと微笑むソフィアを見てリヒトも笑みをこぼす。



「パイシーズ。本当に助かったよ。」

「いや。勝手にやったことだから……でも僕のせいでまたアイツらが狙ってくるかも」

「パイシーズを見て俺達も勇気が出たよ。AもBもSも関係ない。自分達は自分達で守れるように強くなるよ」

 そう言って握手をすると他の痛めつけられたクラスメイトの所へ走っていく。


 ――俺も戻ろうか。あぁ今回の事が知られたら大目玉だな……退学になったら母さんは喜びそうなのが嫌だけど

 そんなことを思いつつ踵を返すと


「……リヒト君!」

「ソフィア。本当に大丈夫?」

「……うん。大丈夫。恐かったけど……リヒト君が私なら絶対に引かないだろうって思ったから」

「そ、そっか」

「……うん。あのね。それで……えっと」

 なにやら下を向いてモジモジしている

「? どうしたの?」

 リヒトが問いかけに顔を覗いた瞬間


「チュ」

 頬に暖かくてやわらかい感触が広がる

「な!!!」

 いきなりの出来事にセシリアは金魚みたいに口をパクパクさせている


「そ、そ、ソフィア?」

 流石のリヒトも突然の出来事にうろたえていると、ソフィアは朗らかな、でも赤い顔で

「助けてくれたお礼だよっ」

 そう言うと走り去ってしまった


 残されたのはポカンとした表情で頬を触るリヒトと口から魂が抜けたような顔をしたセシリアだけであった。




後書き

 エミリア「なんだかリヒトに悪い虫がついた気がする」

 ノア「奥様。やはりここは私達が……」

 カイル「君達やめなさい」

 エミリア&ノア「だって最近出番がないんだもの!」

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