第30話 今日から始まる学園生活


 その後入学式は滞りなく終わり解散となった。試験結果は後日届くらしい。


「じゃあまた学院で会おうね」

「は、はい。宜しくお願いします」


「さっきはゴメン。熱くなりすぎた。怪我はない?」

「だ、大丈夫よ! 私こそ……わ、悪かったわね。」 

 ソフィアに話しかけると、はにかみながらも再開の約束をしてくれたし、セシリアも瞳を泳がせながら最後には笑っていた。



 ――色々あったけど無事終わって良かっ……

「……リヒト? あの子達はなんなのかしら? 少し御挨拶しなきゃね?」

 ――良くなかった……

「あの……母様? 少し目が恐……いえなんでもありませんごめんなさい。」

 その後本当にソフィアとセシリアに特攻する寸でのところでカイルが間に合いリヒトと共に宥めすかし屋敷へ帰ることが出来たという。




 ――――数日後――――

「リヒト様。学院から手紙が届いております」

「ありがとう。セバス」

 開封してみるとクラス分けの通知書と必要な物のリストだ。

 ――リストは……教科書やら何やらか。これはセバスにお願いするとして……

 ドキドキしながら通知書を開いてみると「Sクラス」の文字と制服に付けるのだろうかSをモチーフにした徽章が入っていた。

 ――良かった……試合をメチャクチャにしたから下手したら入学取り消しだと思ってた。


 その日はリヒトがSクラスに決まった事に喜ぶエミリアとノアが大はしゃぎだったのは言うまでもない。



 ――――同日 アトリア学院 学院長室――――

「学院長。よろしかったのですか?」

「何がだ?」

「パイシーズのことです。彼は学院にとって危険ですよ。」

「確かに力も発言力も強すぎる。だが弱さもある。それを導いてやるのも我々教師の役目じゃないか?」

「ですが……」

「何かあれば私が責任を取るさ」

「貴族達に付け入る隙を与えなければよいのですが……」

「そうだな……王宮にも知り合いはいる。私も少し動くさ」

 部下が去って行った後、学院長は窓から町並みを見下ろしながら紫煙を燻らせていた。


―――――――――――――――――――――――― 


「遅くなったな……えっと……Sクラスの教室は……ここか」

 屋敷を出る際、今生の別れのように泣いているエミリアを宥め、付いて来ようとするノアを諌めてやっとの思いでリヒトは学院に到着していた。 


――緊張する……でも周りも俺と同じ新入生。なんとかなるさ!

「おはようございま……す?」

意を決して扉を開けると、そこには十席しか座席がなく、ほとんど空席だった。

黒板を見ると座席表が貼られており、リヒトは一番前の左端のようだ。

自分の席を確認して歩いていくと、隣の座席に見知った顔が座っていた。

「おはよう。セシリア。知り合いがいて安心したよ」

「あら。ようやく来たのね。初日から随分遅いわね」

――何だかトゲがあるな。でも心なしか嬉しそう……からかってみようか。


「朝バタバタしちゃって。……もしかして待っててくれたの?」

「ちがっ……違うわよ! この間のせいで恐がられて話し掛けられないから少し寂しかっただけ……そんなことないわよ!」

アタフタしながら赤い顔で必死に言い訳している

――ツンデレかよ。わかりやすいなぁ。でもやっぱり悪い子じゃないみたいだ。

「よーし。席に着けー」

 そうこうしているうちに、担任と思われる教師が教室に入ってきた。


「よし。大体揃ってるな。俺はこのクラスの担任のハンスだ。よろしくな」

 まだ若い男性教諭だ。Sクラスの担任だけあって隙がない。

「知っての通りSクラスは一握りの生徒しか在籍できない。他の生徒の模範になるようにな」

 ――やっぱり十席しかないのは各学年で上位10名のみがSクラスということか。

「あと……この学院は王宮から特例で認められていてな……この学院に在籍している間は爵位や身分の差はない。あるのは純粋に実力での優劣だ。家の身分に頼るようでは碌な大人にならんからな」

 ――それはいい。堅苦しくなさそうで助かる

「最後に……いくら今Sクラスだとはいえ、ずっと同じだとは思わないことだ。下からは目指され、自分達は落ちないよう切磋琢磨することを祈ってる。……気付いてるかとは思うが、ここの席順は序列だ。もちろん貴族の慣習に従って決闘で奪い取ってもいいんだぞ?」

 そう言うとハンスはリヒトに目をやり

「第一学年序列一位リヒト・フォン・パイシーズ。お前には皆が期待しているからな」

「……期待に応えられるように頑張ります」


 拝啓 お父様お母様 入学初日からプレッシャーが半端じゃありません。

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