第28話 アトリア学院入学試験② 模擬戦


 魔力適性試験で少し自分の異常さを体感した次の試験は体力試験だった。

 この国では一応、貴族は多かれ少なかれ武術の触りくらいは嗜みとして行っているため試験を行うようだ。


 今回の試験は二人一組になっての模擬戦だ。

 使う武器は学院の用意した模擬戦用のものなら何を使用しても自由。

 どちらかが戦闘不能、若しくは教官が止めるか参ったをするまでだ。

 一応、事前にどの程度の修練を行っていたかは聞かれていたため、同じくらいのレベルの者と戦うようだ。



 ぼーっと試合を眺めているが、何人か抜きん出ている者はいるがその他はドングリの背比べといったところだ。

 ちなみにソフィアはレイピアを使っていたが相手に瞬殺されていた。

 ――この分だと本気を出さないほうがよさそうだな……

 などと思っていると、


「リヒト・フォン・パイシーズ。前へ」

「はい!」

 リヒトの名前が呼ばれると周囲が一段と騒ぎ出す。

「おい。次はパイシーズの番だぞ」「あいつさっき水晶を壊してたよな……」「噂では魔物を倒したとか言われてるけど本当なのか?」「や~ん。リヒト様凛々しい!」「さっきも凄かったけど武術もすごいのかしら?」「どっちでもいいわよ。目の保養よ!」

 ――やっと俺の番か。それにしても本当に煩いな……対戦相手は……

「セシリア・フォン・ヴァルゴ。前へ」

「はい!」

――赤髪の女の子か。武器は……長剣か。

 相手の女の子が前に出るとさっきまで騒いでいた周囲が水を差したように静まり返った。

「おい……あの女の子」「ああ。ヴァルゴといえば12宮爵の……」「前騎士団長の娘か」「あの子ずるい! 私のリヒト様と戦うなんて!」「ちょっと! いつからあなたのリヒト様になったのよ!」

――俺と同じ十二宮爵の一人か。しかも前騎士団長の娘となると……手を抜くわけにはいかないな。

「二人とも正々堂々自分の力を存分に発揮するように。互いに礼!」

 教官の合図とともに十二宮爵同士の戦いの火蓋が切って落とされた。



 合図と共にセシリアが勢いよく赤い髪をなびかせ飛び出したかと思うとリヒトに剣を振り下ろす。

 ギィンッという音と共に長剣とナイフがつばぜり合うと

「あなたがパイシーズね! 私あなたと戦うのが楽しみだったの!」

「ぐっ……何でなのか知らないけど、試合中に話すなんて余裕……だなっ!」

 リヒトがナイフを寝かせ長剣を滑らせると、体勢を崩したセシリアに蹴りを放つ。

「――っ! やるわね! そうでないと楽しみにしてた甲斐がないわ!」

 再び長剣を振りかぶると愚直に振り下ろしてくるが

 ――何度も同じ手を食うか!

 リヒトが半歩避けてカウンターを入れようとした瞬間、脳天目掛けて振り下ろされていた剣が急に軌道を変えて横薙ぎに振るわれた。

 ――やばっ!

 咄嗟にナイフで止めるが体勢が悪かったせいか、かなりの勢いで吹き飛ばされてしまった。

「あら。こんなものなの。魔物殺しって聞いて期待してたんだけど……ハズレのようね」

 そう言うとリヒトに背を向け歩き出し教官の下に戻って行く。


「先生。私の勝ちでいいですよね。彼は戦闘不能みた……」ビシュッ

 自分の勝ち名乗りを上げようとした瞬間、後ろから物凄い勢いでナイフが飛んで行き、耳を掠めて地面に突き刺さった。

 慌てて後ろを振り向くと、ゆらりと立ち上がったリヒトの無感情な瞳と目が合った。

「試合の途中で相手に背を向けるなんて……余裕なのか? バカなのか? 実戦なら死んでるぞ」

 その瞳とワザと外したと思われるナイフに冷や汗をかきつつも

「……へぇ。やるじゃない。あれを食らって立てるんだ。騎士団連中より丈夫じゃない……っ!」

 数メートルは離れた場所にいたはずなのに目の前にリヒトが現れ拳を振るわれる。

 咄嗟に剣でガードするが、魔力で拳を強化していたのか粉々に砕けてしまった。

「だから何度も注意しただろ。君。油断しすぎだよ。」

 そう言ってナイフを拾うと、首元に近づけて降参するか問いかける。


「降参する?」

「……先生。諦めない場合武器の交換は禁止でしょうか?」

 まだ諦めていないようである。教官が対戦相手が許可すればよしとのことなのでリヒトも頷いた。

「ありがとう。でも良かったの? 許可しなかったらあなたの勝ちだったのに」

「……参ったと言わせればいいだけだよ」

「そう……後悔させてあげるわ!」

 そう言うと一振りの武器を持って戻ってくる。

 ――バトルアックス?!

「じゃあ第二ラウンドの開始……ねっ!」


 リヒトとセシリア。入学試験の範疇を超えたバケモノ同士の本気がぶつかり合った。

 

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