第11話 風の精霊との対話
『初めまして。あなたがエミリアの息子ね。』
『やはり精霊でしたか。幽霊と間違えたこと、深く謝罪いたします。』
腰を深く折ってリヒトが謝ると、『気にしないで』という声とともに強い魔力の塊が人の形に変わっていく。そこに現れたのはエメラルドグリーンのドレスを纏った神秘的な女性だった。
「人前に姿を見せるのは何百年ぶりかしら」と微笑む彼女が他の精霊たちに二言三言伝えると、精霊達はどこかへ去っていった。
精霊たちを見送った彼女はこっちを向きながら
「もうその力を切っていいわよ。少しお話しましょう。エミリアは元気?」と木の幹に腰掛ける。
リヒトも近くに腰掛けると彼女の促すまま最近のエミリアの話を面白おかしく伝えると、クスクスと本当に面白そうに聞いている。
「人とお話するのは本当に久しぶり……エミリアでさえ私達の存在をなんとなく認識出来ていたくらいだから。」
「そうなんですか。あれ?でも僕にはあなたが普通に見えていますよ?」
「普通は契約しないと精霊の姿は見えないのよ。あなたはどこか特別なのかもね。」
「ふーん。自分じゃ解らないですが……母様とは契約しなかったんですか?」
母さんと一番仲が良かったのだ。契約していてもおかしくない。
だが、彼女は目を伏せると寂しそうに
「エミリアはね。契約で私を縛りたくないからって。風の妖精は自由な風でいてって。そう言っていたわ。」
「そう……だったんですか。すみません。」
本当は契約したかったんだろう。寂しそうに笑う彼女に胸が締め付けられる。今度母さんを連れてきてみようかと思っていると、
「でもいいの。精霊は一度契約すると契約者が死ぬまで他の人間と契約出来ないのよ。」
それなら余計に母さんを連れてきた方がいいのではないか? 首を傾げながら聞いてみようとすると、
「私はあなたと出会えた。エミリアの息子。リヒト。あなたには眩しいほどの光が溢れてる。精霊には見えないものが視えるのよ。」とウィンクしている。
「そろそろ時間のようね。リヒト、あなたにこれをあげるわ。」
そう言いながらリヒトの手を包むと一瞬の光の後に金の台座にエメラルドがはまった指輪が光っていた。
「こんな高価なものは頂けませんよ!」
リヒトが狼狽していると彼女は首を振りながら、いいのよと笑っている。
「その指輪は私達がまた会うための道標。その指輪がある限り私はあなたの近くにいるわ。」
「……わかりました。ではありがたく頂戴いたします。」
それを聞いて慈愛に満ちた目で見つめながら消えていく彼女に慌てて
「あの! そういえば名前を聞いていません!よければ教えていただけますか?」
と問いかけると、彼女はビックリした顔をしながら少し迷ったように口を開くと
――私の名前は<アイレ>よ――また会いましょう。リヒト――
という音を残して消えていってしまった。
アイレ……か。また会いたいな。いつか母さんにも会わせてあげたい。そう思いながら光る指輪を見つめていた。
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