第12話 家に帰るまでが遠足ですって昔言われた気がする。

「やばい。そろそろ戻らないと日がくれてしまう。」

 結構な時間話し込んでいたようだ。夕暮れに染まっていく山を下っていくと、どこからか

「アオーン」と犬の遠吠えが聞こえる。

「山犬か? 見つからないようにしないとな。」

 速度を落とし、木の枝も踏まないように注意しながら進んでいると、先ほどの遠吠えが聞こえた辺りから「ギャンギャン」と鳴く声や「グルル……」と威嚇する声が聞こえてくる。

「喧嘩でもしてるのかな? 縄張り争いか何かだろ。」


 そう結論付けて、さぁ帰ろうと思った瞬間、茂みの中から真っ白な狼が飛び出してきた。

「あ。ヤバイ。これ危ないパターンじゃね。」

 ビックリして固まるリヒトに歯を剥き出しながら威嚇する狼が飛びかかろうとしてきた瞬間、茂みの中から黒い3匹の狼が飛び出してきた。

「増えたし! これは絶対逃げられない……くそ!」

 だが、身構えるリヒトに目もくれず、黒犬達は白い狼に飛びかかっていく。


「さっきの遠吠えやら叫び声はこいつらか。よく見るとあの狼、所々血が滲んでるし足も引きずってるし」

 今のうちなら逃げられる! そう思って静かに立ち去ろうとしたが、どうも気になってしまう。


「……くそっ! 1対多数なんて寝覚めの悪いもの見せやがって。」

 魔力を掌に練っていく。

「見殺しにするみたいで後味悪いじゃないか!」

 使うのは火。掌に酸素を集めて着火するイメージ……すると、ボゥという音とともに火の玉が現れる。

「野球は苦手なんだ! 当たっても文句言うなよ!」

 そのまま振りかぶって火の玉を投げると、もみ合っている犬達の側を通り抜けて後ろの木に着弾した。

 威力は抑えてあったため、木は焦げたくらいだったが、効果は覿面。驚いた黒犬達は鳴きながら逃げていった。

 残されたのはリヒトと傷だらけになった狼だけだ。


「グルル……」

 傷つきながらも威嚇を続ける狼に近寄ると、魔力を手に籠めながら目線を合わせる

「お前一人で戦ってたのか? 群れからはぐれたのか?……んー。動物の身体は専門外だけど……」

 打ち身や出血は人間と変わらないはずだ。傷に手をかざすと狼は一瞬ビクっとしたが、心地よいのか大人しくしている。

「よし。まぁこんなもんだろ。流石に内側の傷があるかまではわからないから勘弁してくれ。じゃあな。」

 応急処置を終えて立ち上がり、気を付けろよと手を振ると狼が擦り寄ってきて舐めてきた。


「くすぐったい! や、やめろって。俺もそろそろ帰らなきゃ。」

「クゥーン」

「懐かれても困るぞ。母さんが帰ってきて家に狼がいたら卒倒しちまう。」

「アオン!」

「よしよし。頭がいいな。俺はたまにこの山で特訓してるからまた会えるだろ。」

 解ってくれたみたいだ。リヒトから離れるとこちらを一瞥して一声吠えた後に木陰に消えていった。


「さーて。とんだ道草だった。泥だらけだよ。でも初の実戦(?)は勝ったし生きて帰れるし……よしとするか! んー。疲れた。」

 気持ちを切り替えると、伸びをしながら茜色に染まる山を屋敷がある方向へ歩いていった。



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 ~王都騎士団本部~


「団長! 報告します!」

 若い兵士が息を切らせて走りこんでくる。

「なんだ。騒々しい。今は書類整理中だ。ったくノインの奴がいないから手が足りないって時に」

 騎士団長ジゼルは遠征に出て本部を留守にしている副団長に悪態をつきながら目線をあげる。

「それで何があった? 慌ててるところを見ると、またあのお嬢様が何かやらかしたか?」

 前団長の一人娘は最近訓練場に遊びに来ているらしい。一度覗きに行ったが、あれは父親以上のバケモノだ。子供だからか手加減が解らないのか何人の兵士が病院送りになったか。


 ため息をつきながら伝令の兵に聞いてみると首を振って

「いえ! お嬢様の件ではありません! 王都裏のカラン山にて白狼を見たとの報告がありました!」

「何?!」

 予想していなかった内容に慌てて立ち上がりながら

「成体の白狼だったのか? ここは王都だぞ! 魔術師団が結界を張っているはずだ!」

「いえ。報告によりますとまだ子供だったようです。結界に引っかからなかったのかと。」

「くそっ! ただでさえ演習で兵がいないって時に! ……魔術師団長を呼んでくれ。早急に会議だ。」

「リーブラ様をですか?」

「ああ。騎士団と魔術師団で早急に手を打たないと大変なことになる。急げ!」

 慌てて走り去る兵士を見送ると、椅子にドカっと腰を降ろしため息をつきつつ

「また書類が増えるな。……ノインにやらせるか。」

 ジゼルは副団長に仕事を押し付けようと決め、会議に向けて動きはじめた。

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