第10話 裏山での出会い

 父さんとの誓いの日から数日後、俺は母さんが昔の友達に呼ばれたとかで暫く留守にしている隙に貰った魔術書片手に毎日裏山で魔法練習の日々を送っていた。

 「んー。何度読んでもよくわからん。なんで才能があれば呪文を唱えるだけで魔法が使えるって書かれているんだ? 俺は今までイメージだけで魔法を使っていたし、無言詠唱ってわけでもない……イメージ出来ないものでも発動できるようにするショートカットキーのようなもの……なのか?」

 うんうん唸りながら魔術書片手に一人で思考に耽っていると、

 「あの……がリ……トね」「エミ……アにそっ……り」

 ぼそぼそと囁き合う声が聞こえる。


 本から目を離し周りを見渡しても人の気配はない。

 ……まさか幽霊か? いやいや確かにここはファンタジーの世界だ。ゴーストとかリッチとかいてもおかしくないけど。うわぁ浄化魔法とか本に載ってなかったし……でも嫌な気配も感じないんだよなぁ。よし!

 そう思いながら恐る恐る声をかけてみる

 「誰かいるんですか……?」返事返ってきたらどうしよう「ね……あ……子」「う……わた……ちを」「う……感……る」返ってきちゃったー! しかもなんか増えてない? こえぇぇ

逸る心臓を抑えつつ、目に魔力を籠めていく。

 「ただ視力を強化するんじゃなく、魔力の揺らぎも視えるレベルまで……」

 目に映るものは解りやすく言えば反射した光が網膜に映り、脳に映像として送られてるにすぎない。

 ゆえに目に見えないものを見るなら光以外の反射も拾えるようにすればいい。


 「よし……多分成功。でもめちゃくちゃ疲れるな。むりやり脳のプログラムを書き換えてるから長時間使えるものじゃないな。」

 そう言いながらさっきまで声がしていた方を視てみると

 「ん……あそこに魔力の塊があるな。数は三つか。」

 場所さえ解れば後は思念で会話すればいい。

 「イメージは……電話……じゃないな。音として聞こえるわけじゃない。音は空気の振動だから……思念の振動を拾うイメージで。」

 リヒトが使ったのは糸電話の思念バージョンとでもいうべきものだ。

 ちなみにこの世界では長距離通話魔法は確立されておらず、声を大きくする魔法があるレベルであり、この世界の常識を根本からひっくり返す魔法を開発してしまったことに、このときのリヒトは全く気付いていない。


『あなた達は誰ですか?もしかして幽霊かなにかで?』

『きゃ! ビックリした!』『あなた、私たちが見えるの?』『それに会話できるなんて』

『いえ。姿は見えませんが、魔力の塊として視えています』

『契約もしていないのに私達を感じるだけじゃなく、目で認識するなんて』『エミリアでもここまでの力はなかったわ』『ほんと!ビックリ!』

 三人? は嬉しそうにかなり盛り上がっている。質問に答えて欲しいんだが……


『あのー……もしもーし』

『これはあれね!』『そうね!あの子にも教えてあげないと』『呼んで来るわ!』

『おーい! 無視すんなよ!』

 いい加減イラっとしてしまった。

『あら! ごめんなさい』『私達を認識できる人間なんてなかなかいないから嬉しくなっちゃって』

『いえ……いいんですけど、それであなた達は? それに母様をご存知のようでしたが』

 やっと会話になりそうで一安心しながら疑問をぶつけていく

『エミリアはね、見ることは出来なくても私達の存在を感じられる大切なお友達よ』『今ね。あなたのお母さんの一番の友達を呼びに行ったわ。きっと彼女も喜ぶはずよ』

『なるほど。だから俺のことも母様のことも知ってるんですね。……ではあなた達はもしかして精……』

 そこに一陣の風が吹きいたと思うと、頭上から

『私達は風の精霊よ』

 物凄い魔力だが優しい。そんな力を感じさせる存在が美しい声を頭に響かせてきた。

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