第9話 誕生日と父との誓い


 今日は転生してから5回目の誕生日だ。もちろん自己流魔力、体力トレーニングも続けているし、時間があれば書斎に篭って面白そうな本を読んだりしていた。時々父さんが剣の稽古をつけてくれているおかげで体力も付いてきてると思う。


 今日も書斎で見つけた「できる! 今日から君もサバイバル――薬草編――」なんていう、なんで貴族の屋敷にこんな本が? と首を傾げたくなる実用書を読みつつ芝生に寝転がっていると窓から母さんが手を振っている。


「リヒト~。ちょっとこっちにいらっしゃ~い」

「母様? なんですか? あれ? 父様まで。今日は登城の日では?」


 不思議そうな顔をして尋ねてみると、二人ともニヤニヤしている。


「ああ。城にはこれから行くよ。お前に母さんと父さんから渡したいものがあってな」

「何だと思う? 当ててみて?」

 ……順当に考えれば誕生日プレゼントなんだろうが、今まで欲しいものをねだったこともなかったし、正直何を貰えるのか全然わからない。去年はお菓子の詰め合わせだったし……


「すみません。全然わかりません。」

 俺の答えを聞くと、えーどうしようかなー教えちゃおっかなー なんて言いながらキャッキャウフフしている。自分の両親ながら、なんだこのバカップル……爆発しろ。と思ってしまった俺は悪くないと思う。うん。

 ひとしきり騒いだ後、「はい! お誕生日おめでとう。私からはこれをあげるわ」と言いながら革表紙の高そうな本が手渡された。

「リヒトは本が好きでしょ。それに昔から魔法が好きみたいだから魔術書にしてみたの。」

 おお! まさかの魔術書! 書斎には魔法関係の本はなかったし、これは特訓が捗る!

「わぁ! 母様ありがとうございます!大事にします!」

「さて。次は俺からなんだが……エミリア。ちょっと二人きりにしてくれないか?」

 おいおい。父さんや。母さんがこの世の終わりみたいな顔をしているぞ。

「ち……違う!お前をのけ者にしてるわけじゃなく、男同士の秘密ってやつもな。あるんだよ。な? リヒト?」

 俺に振るなよ

「母様。父様もこう言っていますし。」

「……そう。仕方ないわね。カイル! リヒトはしっかりしてると言っても5歳なんですからね! 変なもの与えちゃダメよ!」

「わかってるよ……」

「ならいいんですけど。じゃあ私は夕飯の支度をしてきますからね。今日は皆さんお祝いにいらしてくれるんでしょう? また後でね。リヒト」


 母さんが見えなくなると、父さんが真面目な顔をして懐から布に包まれた箱を取り出し渡してきた。

「何を渡そうか悩んだんだが、俺からはこれをお前にやろう。開けてみなさい」

 箱を開けてみると一振りの短剣が入っていた。刃は青白く、柄にはパイシーズの紋章が彫られている。取り出し握ってみると何故か手に吸い付くような感触がする。

「俺の昔馴染みに頼んで打って貰った短剣だ。魔力を刃に通しやすい特別性だ。」

 なるほど。魔力を通してみると刃先まで俺の魔力が行き渡る。まるで自分の手のように感じるくらいだ。

「その短剣はお前とお前の大切な人達を守るために、決して悪用せず、自分に恥じないように使え」

 今まで見たことのないくらい真剣な顔で、鋭い眼光に優しさと厳しさを湛えながら問いかける

「この剣に、自分に恥じないとそう誓えるか。 リヒト・フォン・パイシーズ」

 勇者と称えられた男の覇気に一瞬息が止まるが、深く息を吸いその目をそらさず言い切った

「私、リヒト・フォン・パイシーズは今までも、これからも自分の力を大切な人を守るために使うと。パイシーズの名に、父カイル母エミリアの息子として恥じない人間となることを誓います。」


 その言葉を聞いて満足そうに笑いながら

 「俺たちには出来すぎた息子だ。お前になら安心してそれを託せる。あ……母さんには絶対に内緒だぞ! そんな危ないもの渡すなんて! って怒るのが目に見えてるからな。」

 さっきまでの覇気が嘘のように慌てている父親に苦笑しながら

「もちろん言いませんよ。 これは男同士の秘密です。」と悪戯っぽく答えておく。

「鬼神と称えられた救国の勇者も母様には勝てないですね。 僕もそろそろ母様を手伝ってきますね。父様、素晴らしいプレゼントありがとうございました。いつかこの短剣で僕も父様みたいな勇者になってみせます。」

 そう冗談めかして元気よく走り去る背中に

「…………俺は勇者なんかじゃないさ……」


小さく呟いた言葉は風に紛れて届かなかった。

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