第7話 特訓の始まり

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 翌朝、まず始めたのは魔法の訓練だ。せっかくだから使いたいじゃん。マニュアルで調べようとしたが『魔法――体内の魔力を外部に放出し、何らかの影響を与えるもの』ときた。本当に概要だけのようだ。試しに母さんがオモチャを動かした魔法を調べてみると『ウィンド――風属性の初級魔法。風を起こす魔法であり、全ての風属性の基礎。』とのこと。なるほど。これが成長するマニュアルか。便利なものだ。


 とりあえず魔力とは何ぞや! 教えてマニュアル様! 『魔力――身体の内に存在する力。』

 ですよねー。学術書でも読めば詳しくわかるんだろうが仕方ない。


 その後は試行錯誤を繰り返してみた。全身に力を入れてみたり、目を瞑って意識を集中してみたり……結局この日は何の成果も出ず疲れて眠ってしまった。


 そんな試行錯誤を繰り返しているうちに、この世界の言葉も大分覚えてきた。俺は「リヒト」という名前らしい。普通なら違和感があるはずなのに、何故かストンと心に落ちた。この世界の両親から産まれたからなのか。両親……「カイル」と「エミリア」にも特に違和感なく、あぁ。俺の親なんだな。と感じている。


 驚いたのは自分を「リヒト」だと認識してから、回路が繋がるように頭のどこかで今まで感じたことのない力の流れを感じたことだ。もしやこれが魔力なのかもと思い、意識を集中させて力の流れをコントロールしてみる。これがなかなか精神力を使うらしく、いつの間にか意識がブラックアウトしていたらしく、起きた時に母さんは泣いているし、父さんはオロオロしているし……なんか。うん。ごめんなさい。


 魔力を認識出来るようになれば後は早かった。力を意識しながら身体の中を循環させる……自分の体内をイメージして血管を通して各臓器を巡らせる感じだ。繰り返してるうちに、いつの間にか流れる力も増えてきてるし、いきなり気絶することもなくなった。まぁやりすぎると貧血の酷いバージョンみたくなってしまうが、時間がたてば治るしいいだろう。魔力量も増えるしコントロール力も磨けそうなので日課にしようと思う。


 そんなある日、心配そうな顔をした母さんが見たことない爺さんを連れてきた。多分医者なんだろうけど、白衣だし。往診鞄みたいなの持ってるし。聴診されたり、打診されたり、血を取られたり色々されたあげくに先生は母さんに向かって首を横に振ってるじゃないか。それを見て、まさか俺って病気? 余命間近なの? 転生したばっかりなのに? なんて思ってしまったが、母さんが喜んでるところを見るとそんなこともなさそうだ。あービックリした。 


 日課を続けているうちに、ふと「あれ?循環させてる力を一箇所に留めようとしたらどうなるんだろう?」と思い試してみることにした。試しに掌に意識を集中させると、思った通り全身から力が集まるのを感じた。これを何らかの方法で外に出せれば魔法が発動するんじゃないか? まぁ力を留めるのも日課にしよう。


 魔力だけでなく、身体も鍛えねば。消防士だったからか体を動かしているのが好きなのだ。

 それにこれだけファンタジーな世界だ。魔物がいたっておかしくない。身体を鍛えてて損はないだろう。

そう思い立ったが、寝返りして体を起こそうとしても、ダメだった。少し持ち上がってもベタっと落ちてしまう。今までの自分の身体じゃないからか感覚が難しい。要特訓!


 魔力トレーニングの日課を続けつつ、不器用な腕立てのような感じで筋トレ(?)をしているうちにこの身体にも大分慣れてきた。ハイハイが出来たくらいだ。流石にまだ立つことは出来なかったが、俺がハイハイしているところを見た両親の驚きと喜びようは尋常じゃなかった。……流石にやりすぎただろうか?だがせっかくの二度目の人生だ。妥協はしたくないし両親には悪いけどこれからも存分に驚いてもらおう。

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