第36話「審判」
陽菜の放った光線が外敵のコアを打ち砕き、全ての外敵が塵となって消えていった。
(やった……)
安心したところで、壮力を使い果たしていたらしく纏っていた光がなくなり、地上へ落下する。
しかし、地面と激突することはなかった。代わりに、プールのような水の中に身を沈めた。
(癒される……。この感じ……)
蓮の能力だ。『治癒の水』で巨大な塊を作り、受け止める準備をしていたらしい。陽菜がゆっくりと着地すると、集まっていた水が破裂して降り注いだ。
「大丈夫? 陽菜さん」
「はい、何だか……すごく気分がいいぐらいです」
ようやく終わった。陽菜は、しばらくこのまま横になっていることにする。
「蓮がやったのは、壮力応用というよりは、壮力運用の効率化だな。誰かに教わるでもなく、二人共ここまでできるとは」
琉聖も安心した様子で傍にやってきた。
「い、いえ、わたしは先輩に教わってましたから……」
「身に纏うなんてのは教えてないだろ? 相当痛かったんじゃないか、本来動けないほどの怪我をしながら強引に動いてた訳だし。本当に健気だな……。どうせならお前ら二人が異能学界の代表者になったらいいんじゃないか?」
異能学――『超能力で人間風情は皆殺しにできる』と言っていた人物が作り上げた学問。
(『皆殺しにする』じゃなくて『皆殺しにできる』か。どんな人なんだろう……?)
本当に優しい琉聖ですら憎しみは持ってしまうぐらいだ。名も知らぬ研究者が、必ずしも殺人鬼になるとは限らないように思えた。
「あんな色気のない女より、お前らの方が華があってイメージアップになるだろ」
少し前までは、単に研究者とだけ聞いていたが、先ほど天才少女だと判明した。
「あの……色気だとわたしは論外では……?」
「さっき色っぽかっただろ」
心当たりがあるとしたら、本当に押し倒してしまった時ぐらいだ。
「あ、あれはむしろ……、先輩の色気に興奮して、思わず襲ってしまっただけで、わたしはただの変態です……!」
「あの……、日下先輩が悪い人じゃないって伝えたかったんだよね?」
「そ、それも……、あったんですけど……、蓮さんの言葉が決め手で、あれは何の役にも……。結局、わたしは自虐と変態行為しかしてません……」
「いや、たった今、敵の親玉倒しただろ!?」
「それなんですけど……、わたし戦ってる時、物凄く調子に乗っていて……、能力が上がった途端『余裕を持って、十秒』とか、今思い出すと恥ずかしいです……。とても異能学の研究者なんて威厳は……」
「実際、瞬殺だったじゃねーか。そんなに嫌か? 美少女研究者。うさんくさい奴よりいいと思うけどな……」
「びしょう……!? い、いや……いくらなんでも無理があり過ぎでは……!? お世辞にしても……ありえな……。はっ……! も、もしかして、わたしのこと好きっていうのも……、お、お世辞……?」
「そこ疑われるぐらいだったら、変態の方でいいよ!」
「す、すみません……! 冗談です……!!」
「陽菜さん、言っていい冗談と、悪い冗談があるよ……」
自虐発言をして呆れられる――いつもの日常に戻ってこられて良かった。
「おお! 怪物共がいなくなってる!」
「た、助かった~」
市庁舎内に退避していた職員や自衛隊員が外に出てくる。
「いい気なもんだ。俺たちが戦い始めてから、ずっと隠れてやがって」
そう言ってはいても琉聖の声から、強い憎しみのようなものは感じられなかった。
「……! おいっ、まだ上になにか……」
声を上げた隊員につられて上空を見上げると、黒い渦から大型種を含む新たな外敵が出てこようとしている。
(そんな……! やっとのことで倒したのに……!)
そう思いながらも、誓いを果たす為には何度でも立ち上がらなければと、無理に身を起こそうとしたところ、琉聖に制止された。
「さすがに今日一日で、これ以上心配はかけられねえよ。休んでろ、後は俺がやる」
「い、いえ、わたしも戦わないと……」
「言ったろ、俺たちの言葉を信じろって」
穏やかな表情で陽菜に告げた琉聖は、黒い渦を一瞥。
そして、周囲にいる壮力を持たない者たちに言い放つ。
「よく見とけよ。これがてめえらに害悪と決めつけられた力だ!」
琉聖は掌を、異界へと続く黒き門へと差し向ける。
未だかつて感じたこともない、圧倒的な壮力の波動。
莫大な炎の力が掌に集結し続け、極大の火球を形成する。
「
弾碍と呼ばれた――極大の火球が大空へ放たれ炸裂、爆音と共に全てを消し飛ばした。
「す……、すごい……」
仰向けに寝ていた陽菜は、空を埋め尽くすほどの大規模な爆発に目を見張った。
初めて見かけた時から強そうな人という印象は持っていたが、想像を絶する。
「勘違いされたくないから、先に説明しとくが、出し惜しみしてお前らをあんな目に遭わせた訳じゃない。未熟過ぎて威力の調節ができねえんだ。地上の敵には撃てない。それに陽菜、お前が大型を引き受けてくれたおかげで、今のを撃つ力が残ってたんだ」
琉聖が陽菜の横に腰を下ろした。壮力はほとんど使い果たしたようだ。
「日下先輩、今のは壮力の奥義――といったところですか?」
蓮も陽菜の傍に座って、琉聖に尋ねる。
「ああ、例によって俺が名付けたんじゃないが、『弾碍』っていってな。どんな障碍をも弾き飛ばして進んでいく――そんな意味が込められた名前の切り札だ。異能学の発展に伴って、弾碍もそれ以外の技も種類が増えるってことで、一応、固有の名前も付けることになってる。やたらと命名好きな知り合いもいるが」
「誰のことかは……まあ、聞かないでおきますね」
周りにいた普通の人間たちは、今の爆発を見て皆呆けていた。
「門は破壊したが、今までも現れそうになっては消えてた、それに異界そのものが近づいてるって話だ。おそらくまた襲撃はあるだろう。そうでないと困るってのは、本当に皮肉な話だ」
少なくとも、この力なしに人類の存続は不可能だと社会に知れ渡る、人間への審判が下った日だった。
(良かった……、わたしは二人と生きていけるんだ……)
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